(花のアーチをくぐる時って、なんだかワクワクするよねぇ)
ギター演奏が響く中、カメラは白薔薇のフラワーアーチの向こうから現れた
ノーラ・レツェルの姿を映す。
翼を持つ種族であるピスキルの姿をしたノーラは、
LANTECA が手掛けたワンピースを身に着け、そこにつばの広い帽子を合わせた。
(この衣装は羽があってもちゃんと動きやすく仕立ててあるんだ。ほら、よく見て)
翼にガラテアの輝きを纏い、ノーラは白い薔薇の花園の上へと舞い上がった。
そして
赤猫真巳と協力して仕立てた拘りのポイントをアピールすべく、会場の上を飛び回る。
(杜若は「幸せは必ずくる」、菊は「高貴」、椿は「誇り」、バーベナは「魅力」、それから、タチアオイは「大望」。ぼくはこの5つの花言葉を選んだけど、それぞれの花には他にも良い意味があったよね)
平安時代中期の歌物語に登場する有名な和歌にある「かきつばた」の花の五文字に準え、ノーラはそこに合う花をワンピースの図柄に選んだ。
LANTECAの顧客層の広さに合わせ、それぞれの花は主張しすぎないように。
特殊な形をした翼を持つピスキルでも動きやすいよう、ふんわりとしたシフォン生地で仕立てられたケープ・スリーブの袖には開口の大きなゆったりとした仕立てが。
さらによく見ると、ワンピースの両側面には裾まで続くお洒落なジッパーが取り付けられている。
動きやすさや脱ぎ着の面を意識したノーラの提案を受け、真巳は素早く着替えられ、空中でもできる限り自由に動けるようなデザインを考えたようだ。
(自然モチーフはLANTECAがブランドとして誇るべきもの。だけど今回、衣装に敢えて鳥要素を入れなかった。ぼくがピスキルだから、入れなくてもその要素を満たせるよね)
ノーラは白い薔薇の花園の中に桜の木を呼び出す。
和の高貴さを感じられる堂々たる桜の木がステージに出現すると、ノーラはその大枝に降り立った。
衣装の魅力は本物の花の美しさで、花の美しさもまた衣装の魅力によって引き上げられることだろう――ギターの音色の中、ノーラは羽を休めながら、明るい歌声を響かせる。
暗い夜空に1つ残った星は、やがて朝日を呼び込む。
漆黒の闇をバックに歌うノーラと満開の桜の背後が、やがて濃紺、紫、赤、金色と徐々に色彩を変えていく。
そしてライブの終盤、その空に朝日が顔を出すように黄金の花火が弾けた。
(このライブを見た人に、幸せが訪れますように)
歓声をあげる人々にノーラが笑顔で手を振る。
その真上にはたくさんの銀テープが降り注いだ。