1.打ち上げが始まるよっ!
マテプロ内のレッスン室――日々アイドルたちが研鑽を積むこの部屋は、今日だけは心弾む赤と緑に飾り付けられ、アイドルとプロデューサーがくるのを楽しげに待っていた。
大きな大きなテーブルには色とりどりの料理が並ぶ。
見事に焼き上がったチキンを中心に、カラフルなサラダにフルーツパンチ。
いちごタルトにシフォンオーブン。
そして何よりも目を引くのは、天井まで届きそうな大きな大きなクリスマスケーキ!
「おーし、なんとか無事完成したな!」
ケーキの制作者、
迅雷 敦也は満足そうに頷く。
「いやっふー! さすがですねすばらしいですね! こんなのみんな大喜びですよ!」
「そーだろそーだろ、クリスマスだしみんなこーゆーの好きだろ?」
跳ね回る馬手茶子(まてちゃん)に、敦也は笑顔で返す。
「もちろんです! まてちゃんもですが、アイドルの皆もお外に出られずお祭りごとはほとんどマテプロの中だけ。だから、こんな大きなイベントにしてくれて大変感謝感激です! ケーキを作ってくれた敦也さんも、見事なお料理を作ってくださったカガミ様ちゃんも、本当にありがとうございます!」
「なんだか雑にまとめられたような気もするけど……ま、喜んでくれているのは本当みたね」
「私も、クリスマス楽しみにしていますし~」
料理を担当してくれた
カガミ・クアール様と、タルト担当の
カガミ・クアールちゃんも会場の出来映えには納得の表情。
ヨダレが出そうなほど胸弾む香りを漂わせている料理の数々は、間違いなくアイドルたちの心を掴むだろう。
会場の後ろの方では
剣堂 愛菜が飲み物を揃えたりクラッカーを準備したり、細かい所の気配りに余念が無い。
「そうそう、まてちゃん。後で渡そうと思ったんだが……イベント中はバタバタしそうだから先に渡しておくぜ。はい、クリスマスプレゼント」
敦也がまてちゃんに手渡したのは、手作りクッキー。
「おお……!」
中を見たまてちゃんは目をまん丸くして、それからクッキーを大きく掲げた。
「これはこれはなんとも……素晴らしいものをありがとうございました! まてちゃん感激です! まさかまてちゃんにプレゼントをいただけるとは思わず、お返しを用意していなくて……なんてことはないんですね、これが!」
そう言うと、まてちゃんは小箱を取り出した。
「はい、こちらお返しのプレゼントです」
「ありがとう……だけどなんでフェイント挟んだ?」
箱の中は、マテ茶の詰め合わせだった。
「ありがとう。これからも世話になるぜ、よろしく!」
「こちらこそお世話になりっぱなしですが、今後ともぜひよろしくお願いします!」
「あの……あのー、お取り込み中、ごめんなさい。ししょー、見ませんでした?」
交流を深めるまてちゃんたちに声をかけたのは、
ジェノ・サリスの担当アイドル、三年めぐる。
「ししょーって……
ジェノ・サリスさんのこと?」
「そういえばこの間までマテプロの処分品はないか聞いて回って集めていたようですが、今日はどこにも見当たりませんねー」
「そうですか……」
まてちゃんの返事にしょぼんとするめぐる。
「まぁ……イベントが始まれば顔を出すんじゃないかしら?」
カガミ様が慰めるが、この日一日、めぐるの顔が晴れることは無かった。