クリエイティブRPG

【双月ニ舞ヒテ】負いたる宿命【第4話/全5話】

リアクション公開中!

 87

【双月ニ舞ヒテ】負いたる宿命【第4話/全5話】
リアクション
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last


〈プロローグ〉


――十数年前。

「小平殿、あの者は何者か」
 玉砂利敷きの御殿の庭に縄で縛られ連行されてきた少年を見て、大人の腰程までの背丈しかないひどく幼い姫が問う。
 問われた壮年の男は苦虫を噛み潰したような顔を庭の少年に向けながら答えた。
「何年も前から我が屋敷にて息子を唆した挙げ句に盗みを働いてきた、質の悪い賤民でございます。近頃は、盗みに飽き足らず市街をうろつき手当たり次第に暴力を働く始末。殺すに殺せぬ忌々しき由がありましてこれまで片目を瞑っておりましたが、あまりに目に余りましたゆえ天鳥様に御沙汰を下して頂きたく連れて参った次第」
「天鳥様は、何と仰せになるだろうか」
 少年を見つめる姫の瞳は興味深げに見開かれている。
「さすがに此度ばかりは入牢をお命じになるのではと存じます。もはや公家衆は堪忍袋の緒が切れておりさっさと斬首にでも磔にでもしろと再三申し立ててくるのですが、何せ刑に処すことの出来ぬ身でございます故」
「何故刑に処せぬのだ?」
「さ、さて……私も詳しくは……では、失敬」
 男は急に言葉を濁し、そそくさと姫の前から去った。
(妾が小童である故に侮っておるのだな。詳しく知らぬなど見苦しい嘘を吐きおって……)
 幼子とは思えぬ冷めた視線を男の背に送りながら、姫は庭に下りる。

 少年の妹は問答無用に重石に縄で括られ、湖に放り込まれた。
 泣き叫び命乞いする妹、何人もの追っ手を振り払い妹を助けようと暴れる兄、兄に手を貸そうとした彼の友……最後の最後まで兄妹とその友は闘い、生きることを諦めなかった。
 しかし、この国の大人は大挙して彼らの抵抗を踏み潰した。
 ただひとつ、ただひとつだけ守りたかったものを奪われた少年に残されたのは、闇の中を彷徨うが如き生き地獄だった。

 この世の全てに絶望し憎悪に塗れていた少年は、喪った妹と同じ年頃と思しき姫の姿を見て初めのうちは瞠目したが、やがて無言で彼女を睨む。
 姫は少年の醸す哀しき憎悪の情を敏感に感じ取ったが、臆することもなく口を開いた。
「妾は滋子。其方、数々の悪事を働きながらも刑に処されぬと聞いたが……」
「俺を殺せば祟られるとでも思ってるんだろう」
 少年が発した一言で滋子は何となく察する。
 この数月、出羽を襲った大飢饉は急速に終息しつつあった。
 それは天鳥が自らの寿命を削り膨大な霊力を費やして国難を排したからだと思っていたが、その割には天鳥に疲弊の様子は覗えない。
(よもや……天鳥様はこの者の身内を贄にして己の命を守る愚行に出たか。天鳥とは、己を犠牲にして国と民を守るが使命であるというのに。だが……)
 同時に滋子は気付く。
 生まれながらにして孔雀夜叉の魂の欠片を受け継ぐ彼女には、人の魂の「色」が見えた。
 少年の魂は、天下の悪童と忌み嫌われる者のそれとは思えぬ程に澄んでいて、美しい。
 恐らくは少年の身内もそうであったのだろう。
 ……故に、「良き贄」として天鳥に目を付けられたのかもしれない。
 滋子はこれまで見たこともない美しさを放つ少年の魂を、心の底から尊いと思った。
 己の何を犠牲にしても喪ってはならぬと思った。

「其方、妾に仕えよ。其方の魂は美しい」――

* * *


「それから何年経ったか……滋姫様は天鳥に即位されてすぐ、妹に『徳子』という名を与えて下さった。某はその時に初めて聞いた――天鳥様が何故某に『雅仁』という名を下さり、妹に『徳子』の名をお授けになったか」
 鳥湖山の山道を駆け上りながら、荒瀬 雅仁は共に来てくれた渡来人たちに己ら兄妹の過去を語った。
 語るきっかけとなったのは、かつて小平 春之進が渡来人たちに話した徳子に関することを他の者に伝えて良いかと千波 焔村丸が雅仁に確認したことだ。
 又聞きでは掴めぬこともあろう、むしろ当事者として正確に伝える必要があると、雅仁は嫌な顔ひとつせず焔村丸や斉田 琴音たち渡来人に向けて話し始め、今に至る。
「読み書きの出来ぬ某では其方らに上手く説明出来んが……天鳥様が座右の銘とされている『為滋仁徳』という言葉が某らの名の由来だそうだ。国を正しく育て実らせるには、慈しみに満ちた正しき行いをせねばならぬ。転じて、慈しみの心たる『仁』と正しき行いたる『徳』は、国を『滋(そだ)』てるには欠かせぬもの。天鳥様は某と妹をこの国に必要だと仰せになり、ご自身と対等に並べて下さっているのだ。颯崚殿の報せの通りならば、今の徳子は穢れのせいで『正しき行い』が分からなくなっているのだろう。某は慈しみの心でそれを取り戻させねばならんのだろうが……」
 そこまで話すと、雅仁は痛みを堪えるように眉根を寄せる。
「ハル……」
 徳子の動向と同じく、親友である春之進の安否を心配しているのだろう。
 雅仁は心の揺れを振り払うかのように首を横に振った。
「其方らの助力、有り難く思う。急ごう」

* * *


「ああ、何か……何かないでしょうか」
 これから鋒月山に向かうという時に、エスメラルダ・エステバンは御殿裏の蔵でゴソゴソと探し物をしていた。
 エスメラルダが求めているのは背負子と掛け物だ。
(颯崚様は、水殿山であんなに酷いお怪我をされたのです。きっと今もご無理をなさっているに違いありませんわ。そして、この寒さ……鋒月山にも、きっと水殿山のように雪があることでしょう。お怪我をされた颯崚様の身に寒さは堪えますわ。少しでも暖かくして頂かなくては)
 そうは思っても時間がない。
 急ぎの捜索でエスメラルダが見つけたのは金糸を織り込んだなかなかに豪華な布だけだった。
 天鳥への貢ぎ物だろうか、素人なりにもそれがかなりの上物だということは分かる……暖かいかどうかは別として。
 それでも、何もないよりは間違いなく寒さを凌げるだろう。
「エステバンさんー、エステバンさーん?」
 彼女を探す仲間の声……どうやら時間切れのようだ。
(とにかく、これだけでもお借りして参りましょう!)
 エスメラルダは布を抱えて仲間たちと颯崚の元に駆けた。

* * *


「むっちゃん流免許皆伝、戦戯 シャーロット! ただいま見・参っ☆」
 戦戯 シャーロットは猛獣使いさながらに愛すべき守護獣“炎虎”を従え学問所に到着した。
「『喜』の結界柱に『哀』の結界柱、両方とも順調に破壊に成功してきたんだよっ☆ フッフッフ……ここまで破壊が進めば、ボクも十分な力で戦うことが出来るもんねーっ」
 万全に全ての力を発揮出来るとまではいかずとも、計三本の結界柱が破壊されたことはシャーロットの行動の幅を大きく広げてくれた。
 今日まで結界柱の破壊に勤しみなかなか戦いの舞台に上がることが出来なかったが、ここまで裏方仕事を抜かりなくこなしてきた甲斐があったというものだ。
「まぁ、真打ちは遅れてやってくるもんだよね♪ というコトで、餓承衆かくごぉー……って、わーーー!?」
 学問所に餓承衆が出現したとの報せを受けて颯爽とやってきたシャーロットだったが、現場を目にして愕然とする。
 学問所が襲撃されている、それは確かに間違いない。だが、それ以前に餓承衆が標的としている者たちを見て彼女の瞳に闘争の火が灯った。
「むうぅ……子どもいぢめる子、好きくない!」
 シャーロットは学問所の敷地に駆け込むと、夜目を働かせ人影を目指して走る。
「影から現れし妖精ちゃんは子どもたちの味方! 皆を苦しめる餓承衆ちゃん、その首魁は――」
 大きな翼を生やした人影は紫艶と赤烏隊だろう。他の人影は先着した渡来人たちだろうか。そして、紫艶が刀を向けている相手……シャーロットの闘争心はその異形の者にロックオンされた。
「――みぃつけたっ。良い子をいぢめる悪い子は、このボクがこらしめる!」

* * *


 紫艶や赤烏隊からの求めに応じ学問所に向かう渡来人たちの中に、お駒もいた。
「はわわわ……子供たちは無事でしょうか、武士団の皆さんは命を落とされていないでしょうか……」
 救急箱を抱きしめ不安に眉を寄せて走るお駒を見かねて、薬研 心乃が声を掛ける。
「お駒さん、大丈夫ですか?」
「わ、私は大丈夫です! でも、学問所にいる皆さんは今頃……」
 不安と緊張に苛まれているお駒の様子は控え目に言っても全く大丈夫には見えないが、本人にはその自覚がいまひとつらしい。
 心乃はお駒の不安を少しでも取り除けたらと、淡い微笑みとともに
「手が必要だと感じた時は、遠慮なく呼んで下さいね。私は怪我の治療も出来ますし、それなりに素早く動くための用意もしてありますから」
 と申し出た。
 すると、お駒は円らな瞳を潤ませながら大きな返事とお礼を口にする。
「はいっ! ありがとうございます! 良かったです……実は、ちょっと心細かったので。それでは忍者お駒、闇に紛れて頑張ってきます!」
 お駒は速度を上げて学問所にひた走った。

◆目次◆


〈プロローグ〉
〈仁徳浮沈の宿命(1)〉
〈仁徳浮沈の宿命(2)〉
〈仁徳浮沈の宿命(3)〉
〈護るは未来、齎すは希望(1)〉
〈護るは未来、齎すは希望(2)〉
〈楽唄斧の如く(1)〉
〈楽唄斧の如く(2)〉
〈楽唄斧の如く(3)〉
〈楽唄斧の如く(4)〉
〈楽唄斧の如く(5)〉
〈楽唄斧の如く(6)〉
〈光と闇の真実(1)〉
〈光と闇の真実(2)〉
〈護るは未来、齎すは希望(3)〉
〈護るは未来、齎すは希望(4)〉
〈護るは未来、齎すは希望(5)〉
〈護るは未来、齎すは希望(6)〉
〈護るは未来、齎すは希望(7)〉
〈護るは未来、齎すは希望(8)〉
〈仁徳浮沈の宿命(4)〉
〈仁徳浮沈の宿命(5)〉
〈仁徳浮沈の宿命(6)〉
〈仁徳浮沈の宿命(7)〉
〈仁徳浮沈の宿命(8)〉
〈仁徳浮沈の宿命(9)〉
〈仁徳浮沈の宿命(10)〉
〈仁徳浮沈の宿命(11)〉
〈仁徳浮沈の宿命(12)〉
〈仁徳浮沈の宿命(13)〉
〈仁徳浮沈の宿命(14)〉
〈仁徳浮沈の宿命(15)〉
〈仁徳浮沈の宿命(16)〉
〈針涙闇々なりて(1)〉
〈針涙闇々なりて(2)〉
〈針涙闇々なりて(3)〉
〈針涙闇々なりて(4)〉
〈針涙闇々なりて(5)〉
〈針涙闇々なりて(6)〉
〈針涙闇々なりて(7)〉
〈仁徳浮沈の宿命(17)〉
〈楽唄斧の如く(7)〉
〈光と闇の真実(3)〉
〈光と闇の真実(4)〉
〈エピローグ(1)〉
〈エピローグ(2)〉
〈エピローグ(3)〉

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last