~ スカイドレイク、それから(1) ~
「待ってくれよ!?」
そんなハスナの悲鳴が響きわたったのは、ワーハのシテ風ブティックでの出来事だった。
それを聞いて可笑しそうに鳴る微笑みは、彼女をここに連れてきた美夜のもの。
「島の代表になると決めたのでしょう? これくらいの“武装”は纏わなくてはね」
「わかってるよ……けど、流石に疲れた……」
色とりどりのドレスもアクセサリーも、ただ自分を飾って楽しむためのものじゃない。これからのハスナには必要なものだ。
外交のため?
……いいえ、美夜とのデート用。
「とはいえ、確かに疲れさせて仕舞ったかも知れないわね」
美夜がぱちりと指を鳴らせば、両脇からハスナの腕を取っていた淑女たちはようやく彼女を解放した。そして口々に美夜へとまくし立てる。
「お姉様! 慣れない女
(ひと)に無理はさせないであげて!」
「人生を狂わされる側としては、恐ろしくて恐ろしくて仕方ないのです」
それらは抗議であるようで……実際にはファッションブランド『ライラ・ジャミーラ』の共同代表たちは、同時にくすくすと笑ってみせる。今をときめく実業家たちも、元はと言えば美夜の見いだした素敵なレディ。
「ま、そういうものだと諦めるしかないのは確かよ」
「せめて、飛びきりのシャーイを教えておくわね」
ジェシーと
ナーディヤの生暖かい目。それらをハスナはただ受けいれる以外の道はなかった。
「では往きましょう」
エスコートする美夜の腕に掴まって、ハスナはなされるがままについてゆき──……。
夜、ウォークスが灯りの洩れる船室を覗くと、
弥久 ラーニャが何かを書きつけていた。
拝啓、アイユーブ様
あれから、世界は大きく変わりましたが、アイユーブ様はいかがお過ごしでしょうか?
そんな出だしから始まる手紙には、最後に奴隷商
アイユーブに手紙を出してから今までの出来事が記されていた。
あの手紙の返事は届いていない。当然だ、ウォークスに連れられて潜ったゲートの先は、あちらからは認識すらできぬ場所にあるのだから。
だとしても彼女はアイユーブが善意の人で、奴隷商なんて恐ろしい響きに似つかわしくない人物だと信じて疑わない。人々が人攫いからさえ奴隷を買って育てる男として毛嫌いしているのだとしても、彼女にそれまでよりマシな衣食住と教育を与え、病気でもほうり出さずにいてくれて、治療してくれた今の母とめぐり合わせてくれたのは真実なのだから。
……、まさかマナをよく切れる剣で斬りかかったウォークスさんが、あんなことになってしまうとは。
ところで、このお手紙にはムウェネ=ムタパで種を売って手にいれた、古い民芸品を同封して送ります。
どうぞ、兄姉弟妹の生活費の足しにして下さい。
そこまで書いてから少し首を傾げた後……ラーニャは、アイユーブ様も健康にお気をつけてください、と追伸を添える。
それから猫の姿になって小さな窓をすり抜けてゆくと、甲板の夜風に全身を当てた。