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<スカイドレイクIII>掴む未来

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<スカイドレイクIII>掴む未来
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~ 真なる終戦 ~

 かくして星霊玉『アダルの王』は、アダル島に帰還せり。これにより双子島の星霊玉は、先だってアダルの和平派よりイファトに返還を受けた『イファトの女王』とともに、揃って然るべき場所へと収まったと言える。
 血みどろの戦いは終焉し、これからは新しい未来が紡がれる。ならばそのための祝宴が行なわれなければ、両島ともその未来に向かおうという気分になれないではないか!
「待て待て待て! アダルは兎も角、イファトじゃこの前やったばかりだろうが!!」
「だってあの時はアダル人たちが攻めてきて台無しになっちゃったし、それに実際に『イファトの女王』が返ってくる前の話だったし……」

 ……などと主張した八上 ひかりの執ね……もとい尽力のお蔭で、改めてお祭り騒ぎが始まったのである。
 イファト人たちのために食事を作り、供することは、今や奴隷の地位に貶められたアダル主戦派たちもしなければならぬ。だが、彼ら自身もそれらを楽しむことになる……それがスライマーンⅠ世が定めた、祝宴の日の奴隷の在りかただ。
「奴らが作った食事など食えるか」
「アダル人たちだって、自分たちも食べる食事に毒なんて入れるわけがないのに~」
「確かに、『アダルの王』の返還は歓迎すべきことだ。だが、そちらを祝うのはアダルだけに任せればいいのでは?」
「アダルが昔のような繁栄をとり戻したら、その中からイファトへの賠償金も出るんでしょ? ここで寛大なところを内外に示せば、アダルも喜んで支払おうって気分になってくれるんじゃない?」
 文句を言うイファト人たちに笑顔を向けながら、杯を勧めて乾杯するひかり。その頭部が楽しそうに両手の間でお手玉されている様子など、随分と長い時間を共にする羽目になったイファト人たちはもう慣れっこだ。
「まあ……奴らが何かしてきたら、その時に首を刎ねればそれで十分か」
 ひかりに釣られてイファトの男も杯を呷る。勝利の美酒というものは、きっと人を寛大にさせてくれるのだろう……。
(過酷すぎる賠償要求は憎悪を煽るだけだものね。こうやって感情を落ちつかせていけば、きっと――)
 ――ひかりも安心してワハート・ジャディーダ国観光ツアーを再開することができるはずだ。

「……って、他の島への定期便の再開を待ってたダケなのに、こんなに時間が経っちゃったーーー!」



 星霊玉帰還の祭りはアダルでもまた行なわれ、しかし、こちらの雰囲気は重い。何故なら彼らにとっての終戦は、敗戦と、先祖たちの致命的な過ちを突きつけられるものであるからだ。
(これでは、いけません)
 はたして誰がアダルの人々の、失意の顔を見るため戦いを終わらせたものか。長い戦いで疲れた皆に、希望の未来を見せるため、紛争に終止符を打ったのではあるまいか。
 でもきっと――舞台の袖で暁月 弥恵の両瞼が閉じられる。自分には、正しい未来を示す力があると決意を胸に抱く。真の和平の象徴は、これからアダルを中心に広がってゆく。突如鳴りひびきはじめたサウンドに身を委ね、弥恵は舞台の中央へととび出してゆく!

 エクレール・エトワールの『スターフィッシュ』の調べに乗って、弥恵の肢体は空高く舞う。新造したばかりの劇場艇には太陽光を集めて散りばめる仕掛けが施されており、白く細い手足が神秘的に照らされる。
 真っ直ぐにどこかを目指す指先と視線は、昨日や今日の苦痛に囚われぬ、遠い明日を示していた。だからといって今日の人々の苦しみが、無価値であるとは弥恵も言わない。伸びあがるようなスターフィッシュの演奏は突如、激しく揺れる舞台のために不協和音へと変わる。きらめいていた太陽光は残らず失われ、弥恵はその場に倒れこみ、地獄の炎が辺りを囲む……。

 全身が灼かれる苦しみを、もがくように、あがくように、よろめくように立ちあがった弥恵は全身で表現してみせた。それはアダルの人々が今、そして少し前まではイファトが、ムタパが、さらにその前はオルドがワーハが新龍が五島連合が置かれていた状況だ……。
 ……でも、その怯えたような、嘆くような踊りの最中も……弥恵の指先と視線の方向が、それまでと変わらなかったことに気づいただろうか?
 今もなお、希望はそこにある。光という光が失われ、全身をアイラ・デーニッツの演出する業火に焼かれても、弥恵が見えなくなった光から目を背けることはない。すると……どうだろう? しばらくおどろおどろしいように続いた曲調はまるで溜めるかのようにしばらく穏やかになり……舞台裏のニコレット・スタイネムが指示すると、消えたはずの光が舞台に戻りはじめる。
 アイラが手首をぐいと捻ると、炎は、花火のように弾けて散った。直後、色とりどりの光が最初以上に舞台を満たす。この光さえあれば苦しみの記憶など要らないのだろうか? いいや、苦しんだからこそ人はその価値を知る。音色は明るく、そして激しく変わる。そして弥恵の両の爪先は光と音との中で激しく乱舞する!

(アダルの皆様……イファトの皆様……それからこの舞台のために駆けつけてくださった、世界じゅうからの皆様も!)
 ここからは弥恵自身も歌を届ける番だった。腰の刀をすらりと抜けば、それは実際にはスタンドマイク。暗い時代が終わりを告げて、新たな時代の夜明けが始まった今、互いに傷つけあう必要なんてないという願い。
 魂の底から発せられる歌声が、圧倒される観客たちの驚きさえ塗りつぶす。エクレールのビートもまた力強さを増して、弦も千切れんばかりにかき鳴らされる!

 いつしかライブ会場が大きな手拍子に包まれていたことに、ニコレットは気がついた。
(ここまでは……おおむね予定どおりの演出ね。実際には途中、予定にない突風を吹かせて弥恵のスカートをめくらせたりもしてあげたことに、本人は夢中すぎて気づいていないみたいなのが面白ポイントだけど)
 ただ彼女は同時に知っていたのだ……その予定を崩しかねない要素が、ぶっきら棒な表情のまま激しい演奏を続けるエクレールの中で、ひそかに鎌首をもたげていたことに。
(……仕方ないわね。これでいいでしょう)
 黙って再生装置を音響装置へと繋げ、タイミングを見はからった後、徐々にエクレールの演奏の音量を下げて録音音源の音量を上昇させる。これでエクレールも気づいたことだろう……あとはニコレットの指示に従っておけば、自分の魂の欲求に忠実になっていいのだってことに!

 一瞬の無音の溜めの後、ライブのクライマックスは始まった。黄色い歓声が至るところで上がり、聞こえる手拍子もこれまでで最大のもの。演奏担当のエクレールまで手拍子を始めてしまって曲は音源頼りではあるが、それでもクライマックスは止まらない。
 揺さぶられるように島じゅうが揺れたのは、アイラが再び地震で演出したからか。それとも観客たちの熱狂が自ずと生みだしたものか。
 ステージ内に眩しい光が現れる。それもニコレットの演出……? いや違う。劇場艇の演出可能範囲を越えた遥かな高みに、まるで新しい太陽が生まれたかのような輝きが生じたではないか!
 普段は歌なんて歌わないし訓練したこともないエクレールさえ、いつしか声がかれるまで歌をひねり出していた。いや彼女のみならず、多くの人々がおのずとそうしてしまう。

 奇蹟だ。

 きっと誰もがそう信じただろう。
 だが、決して奇蹟なんてあやふやなものじゃない。誰もが苦しみの中でも希望を失わず、正しい未来を目ざせたならば、希望と歓びに満ちた日々は必ずやって来る。

 そう――今日、同じことをしてみせたライブの参加者たちが、夜明けの光を具現化したように。
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