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<スカイドレイクIII>掴む未来

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<スカイドレイクIII>掴む未来
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~ ムタパ、それから……(1) ~

 その後アニーを宥めるために、大和がどれほど苦労したことか。彼女が再び上機嫌になってくれるには、ムタパに、大沈降以前の主要各国の料理レシピと、マナから食材を合成する軍用携行食生産システムが眠っているとムシカワヌに伝えられるのを待つことになる。
 そう、十分な量のマナをとり戻した今ならば、先史文明の技術を使って失われた料理さえ再現できる。もっともムシカワヌ曰く、この合成食料は天然ものと比べれば格段に見劣りし、貧民用の配給か軍用食くらいにしか使われなかったとのことだ。つまり……今もスカイドレイク世界に伝わるギアストーン:レーションの技術とさほど変わらないものであったのかもしれないが。

 何故そんな話を聞く機会があったのかといえば、大和には別件で、ムシカワヌに話しておきたいことがあったからだ。
「十分なマナを得られるようになって、ムタパが閉ざされた後の星導物理学の知見も手に入るようになった今ならば、マナ嵐を中和するためのマナも見つかるんじゃないか?」
「できたとしても、何千年かかるか知れたものじゃないでしょう?」
 横からそんな苦言を呈したリアだって、本当にそんな未来が来ればいいと願っているひとりだ。幸いにも、ムシカワヌも各国との共同研究に前向きでいてくれている……本当にそんな未来が訪れるとしたら、世界は一体どう変わるのだろうか?

「いずれにせよ、皆様には我が国からの褒賞が必要となります。先程の質問への回答もその一環となりますが、まずは皆様のご要望をお聞きすることにいたしましょう」
 これまでは僅かな支払いすら困難であったムウェネ=ムタパは、サンゴの完全開通により、十分な報酬の用意ができるようになった。
 とはいえムタパの紙幣など何束積まれても、雲上世界にとっては溶かして再生紙にする程度の役にしか立つまい。役に立つとしたら、アニーの言うようにこの地の珍しい料理を振舞うとか……あるいは。

「もう、神様を装う必要なんてないんでしょ? せっかくめでたい勝利の日なのだから、ちょっとは嬉しそうに……にこっとしてみてよ!」
「はは、苺炎様の仰るとおりですね♪ 我々も国民の良き隣人でありつづけるために、もっと笑顔を学ばねばならないかもしれません」
 対応していた御使いの木面の表情こそ変化なかったが、口調はどこかユーモラスに変わり、室内モニターにはスマイルマークがうつし出された。もうムシカワヌは人々に、過剰な省エネルギーを強いる必要はない。国民たちの混乱を招かぬことを考えたなら今すぐというわけにはゆかないだろうが……ようやく、少しずつでも人々を抑圧から解放できるのだ。

 ……ということはこれからは御使いたちは、もっとフレンドリーに接してくれるようになる!?
「ねーねー御使いさんって何歳ー? 彼氏とかいるのー? どんな人が好みだったりするー?」
 いきなりナンパを始めたアキラ・セイルーンの背筋が次の瞬間凍る。
「御使い殿、こ奴を不敬罪か何かで牢にぶち込んでくれても構わぬぞ。てか是非ともぶち込んでやってくれ」
 後頭部にルシェイメア・フローズンの視線が冷たくつき刺さっていた。慌てて弁解する声は裏返り、額に浮かぶのは大粒の汗。
「じょ、冗談だよ冗談。他愛もないことを訊いて和やかな空気を醸し出そうとしただけデスヨ? ……いや忘れてなんていないって! そ、そう……つまり、なんであの森にはあんなにもでかい木が育つほどのマナが満ちてるのか、御使いさんはなんか知ってるー?」
「そうですね、私の年齢は秘密で夫はムタパ、好みはムタパを愛してくださる方。北の森が清浄なマナで満ちている理由は、おそらくはかの地の地下に何らかの秘密があるのだろうと考えられています」
「これからの世界、柔軟な応対が重要になるのは確かじゃ。とはいえ、戯け者の問いには答えずとも構わぬと記録しておくとよいぞ? ……ともあれ、調査のためにサンゴ内を飛空船で通行しても構わぬかの?」



 かくしてアキラたちは今、巨木の森の底を往く。
「結局、森の正体はムシカワヌでも判ってないってことなんだよな……あの後、御使いはどんな話をしてたっけ?」
「この森が、大沈降前には存在せなんだという話じゃったのう。マナ嵐が地下の何かを刺激し清浄なマナを噴出させ、その影響により木々が異常成長を遂げたと思われる……じゃったかの。ほうれ、何か手がかりは見つかったかの?」
「く~っ、ムシカワヌがかわいこちゃんレーダーで何か見つけてくれてればなあ! ……あ、精霊たちがこの先にマナの溢れ出るところがあるって言ってる」
 そんなこんなの調子ではあったが、一応は成果は出ているらしい。森の中に幾つか見つけたマナの噴き出し口は、さながら精霊――ワハート・ジャディーダで言う『ジン』の集会場だ。
 ……もっともそういったパワースポットは、大型で強力な生物も集まるものではあるのだが。
「ま、そんなの相手せずに逃げるけどな!」
「調べてみるのではなかったのかアキラよ。もっとも、確かにアレらと正面から戦うのは避けたいところじゃが」
 普段どおりの漫才の後、飛空船はぐいと軌道を変えた。静かにその場を離れる船を、巨大生物たちは幸い気づいてもいない。
「ま、別に噴き出し口はここだけじゃないんだし、他のとこも調べまわればひとつくらい判ることだってあるさ!」
 調子のいいことを、と肩をすくめるルーシェ。
 だが実際、それでいい。何故ならこの探索の最終目標は人類の地上帰還なる途方もないものなのだから、今日明日を焦る必要なんてない。マナ・スポットが森の広がりに合わせるように2列に並ぶという事実さえ掴めてしまえば……あとはこの世界の人類に任せておいたって、いつしか秘密が解きあかされる時が来るに違いあるまい。
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