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<スカイドレイクIII>掴む未来

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<スカイドレイクIII>掴む未来
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~ 決戦 ~

 地上都市ムウェネ=ムタパを支える巨大マナ・タービンが再停止したとの報は、稼働からそう経たない頃だった。その原因が強大なンゴジたるキリムンクバであることは、あらかじめ予想のされていたことだ。
 であれば、これもまたこれまで彼らを相手に紡がれてきた、砂原 秋良の物語の一部。下げたペンダントの宝石が照らす未来に向けて、彼女は再び立ちあがるだけだ。
(おそらくは、あなたも譲れないのでしょう。ですが、私も退くわけにはゆかないのです)
 準備は、万端にしてきたつもりだ。半ば異世界に錨打ったような境界人の心と体は、この世のどれほど強烈な力にも容易くは怯まぬであろう。
(ですが……はたしてこちらからの攻撃も効くのか否か)
 ネックレス――『Luce Tenera』の光は輝いてはいたが、しかし随分とか弱かった――いいや。
 秋良は首を振る。“か弱くとも、確かに光っている”。キリムの放った縛めの光は容易くふり解かれて、あたかも効いておらぬかのごとく。だがそれを見て無駄だと断じてしまうのは、結果ばかりに囚われた認識であろう。
 キリムが光をひき千切るために、どれほどの時間を費やす羽目になっただろうか?
 数瞬だ。
 しかし、秋良が幻獣殺しの幻魔剣を掲げ、彼の懐へと飛びこむまでの。
 キリムはとんでもない存在ではあるが、決して無敵の存在ではない。そうでなければ彼は以前の邂逅で敗北を喫してはおらぬし――何より秋良の宝石が、弱々しくとはいえ佳き側の未来を指しているはずがない。

 吹き抜けの天井を思わせる広さのサンゴの中で、キリムは憤りながらも手狭そうに身を捩ってみせた。たったそれだけで、彼の体は届きつつあった秋良の切先から遠ざかる。
「ですが……諦める理由にはなりません」
 すでに何もなくなった空間へと突き出された剣は、しかし最初の勢いのまま、真っ直ぐにキリムまで伸びてゆく。否、秋良自身が空中を加速して、自身ごと切先をますます加速させている。
 人の業にてこの幻想から目覚める時は、決して遠い未来ではないだろう――。

 ――これは望んだ物語、幻想断ち斬る境界人話――……。



 もっともその物語が完成を迎えるためには、まだ紡がれねばならない物語が幾つもあるのだが。
 たとえば、キリムに関する物語でさえも、全てはいまだ語られてはいない。
 キリムの友、ンクバにまつわる物語に至っては尚更だ。
 だからそちらの物語にも終焉をもたらすために、ルキナ・クレマティスもまた飛翔する。背には翼……その真の持ち主たる界霊獣と一体になった彼女にとって、その翼は自らのものも同然であろう。

 風を操り、翼に当てて、みるみる近づき来るルキナの存在は、ンクバには不躾に自らの領域に土足で踏みこむ不埒者であった。しかもその掌に溜めた瘴気が、彼のマナを汚染するものであるともなれば。
 だが雷精はばちばちとせせら笑ってみせる。この不届き者は加速を追い風に任せるばかりに、直線的な動きしかできないではないか。
 であれば、どれほど穢れた瘴気であっても、雷速での自在な移動のできるンクバには当て得ない――しかし。

「お蔭で、ンクバの引きつけが叶いそうですね」
 ルキナの目が細まったのを見て、ンクバは瘴気が自身と朋友をひき裂いたのを知った。
 だが、その程度が何ぞ? 同じ場所から戻れぬのなら、別の場所から戻ってやればいい。しかも、都合のいいことに……ルキナの逆側――キリムの背側からはジェットを噴射しながら、松永 焔子のスチームアーマーが飛来するところではないか!
 一度は雷撃にて追いつめた蒸気鎧の動きを、ンクバは今も記憶している。その装甲が先日と異なり黄金色に輝いているのは気になるが、出力向上程度で挑んでこようとは片腹痛い。
 そう思って雷撃を放ったンクバは次の瞬間……その認識がすっかり間違いであることを知った。

 中の焔子まで茹であがりそうなほど激しい熱マナが、全てを灼くはずの雷撃をも焼いた。辺りに響いた耳鳴りめいた高音ノイズは、おそらくはンクバの悲鳴であろう。

 承知している。雷精の雷撃をむかえ撃ち、そればかりか蹴散らして本体にまで熱量を届けるためには、蒸気鎧にどれほどの負担を強いねばならなかったかを。
 そればかりか搭乗席にまで伝わってくる熱に意識を奪われぬためには、焔子自身も自らの気力の限界と勝負しつづけねばならぬ。
「ですが……ムウェネ=ムタパの未来の懸かった戦いですから、勝たぬわけにはゆきません。それに、以前翻弄された相手に……再び負ける私ではありませんわ!」

 さらに別方向へと行く先を変えて逃げてゆくンクバを、蒸気鎧は執拗に追いかけていった。熱気で半ば朦朧としかける意識の中でも、今自分はンクバの背面から攻撃しているように見えるが、実際には球電型のンクバにとっては正面も背面もないのだろうと、頭は冷静に状況を判断しつづける。
 時折、ンクバは散発的に雷を放つから、真後ろを避けて後方に誰もいない位置を確保しつづけて追いかけて。そして自らも休むことなく、次々と熱気を浴びせてみせる。ンクバをマナを乱す熱気で攻めつづければ……受ければもちろん、先手を取って焔子を攻撃してみた場合にも、彼は自らのマナを消費する羽目になる!
「他の方を攻撃させる余裕なんて奪ってみせますわ。ここから先は……我慢比べですわ!」
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