~ 新たなる空 ~
それから、どれだけ雲の上を進んだだろうか。
綾瀬 智也の飛空船のマナレーダーは、一度は薄くなった眼下のマナ嵐が再び分厚さをとり戻したことを通知した。
海洋上空では薄くなり、陸地上空では厚くなるマナ嵐。その嵐の厚みがもう一度薄くならないまま数百キロほどは進んだことで、智也は自身の推測が正しかったことを知る。
かつてムタパより東に大洋を越えた先にあったとされる大陸、サフル。
クロノメーターと太陽の位置から示される緯度と経度は、まさしくその輪郭が作る範囲の只中にある。
(マナの連鎖反応が陸地に沿って広がったことを考えたなら、この地もムタパ同様、最後に雲海に沈んだ地のひとつであるでしょう)
それゆえにムタパのようなマナバリアに覆われた都市が見つかるのではないか――そんな期待が智也を駆りたてる。ムシカワヌの国際情勢データベースによれば、この大陸はムタパよりはるかに先進的だった、
サフリア連邦なる巨大国家により全土を支配されていたらしい。すなわち、地球におけるオーストラリアだ。
だが……同時に不安も生まれる。
本当にサフリアにもマナバリア発生装置があったのだろうか?
よしんば装置が設置されていて、何らかの方法でマナ嵐の到来を把握し得たとして、人類が300年間も生存できるほど十分な食料を確保できたのか?
まるでその不安が的中したかのように、雲海はただその場に延々と横たわっていただけだった。マナバリアの発するマナの反応はおろか、人々が空に逃げのびた証拠すら見つかりはしない……。
そろそろ、智也自身の食料が心許なくなってきた頃だ。いい加減大人になれと、心の中の理性が囁く。
ええ、きっとそうなのでしょう。これまでの国々が幸運だったというだけで、本来は大沈降後の人類生存なんて絶望的なもの……そう思いこんで諦める前に、虱潰しの最後に回された、最南東端の空域だけ調べてゆこうと決意した時……。
智也の飛空船のレーダーに映ったものは――それは人類の生存を意味するものなのかそれとも無関係な自然現象なのか――マナバリア発生装置により生まれる反応とは全く異なる、地表の放熱現象だった。