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<スカイドレイクIII>掴む未来

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<スカイドレイクIII>掴む未来
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~ 双子島の朝 ~

 東の雲海より昇った太陽が見たものは、すっかり静まりかえっていた双子島だった。
 主だった者たちが妹島に攻めこんだのち、ついぞ帰ってこなかった兄島アダル。そうやって現れた主戦派たちを残らず捕縛して、安堵の夜を過ごした妹島イファト。それぞれの静寂の理由こそ異なれど、得たものだけは変わらない……どれほどぶりかも判らぬ夜襲を恐れる必要のない眠りを、双子島の人々は手に入れたのだ。

 もっとも、石龍島の位置する高空特有の、雲に遮られることなき鋭い朝陽が射しこめば、人々はちらほらと起きあがり、改めてこの新しい空気の下へとぶらつき出ることになる。まずは、昨夜の戦勝の宴を片づける女たち。それから、長年の警戒の癖が抜けきれず、自ずと目の覚めた戦士たち。
 けれども、宵街 美夜が思うに。他の戦士たちと同じ理由で家の外に現れたはずの女戦士ハスナの横顔は、それとは異なる眩しさで輝いていたのではなかろうか? 腕っ節ばかりが取り柄なわけでなく、美しいだけのお飾りでもない。強さと美貌の両方を備えた輝くダイヤ。
「この後、どうするおつもりかしら?」
「もっとデカい舞台で戦いたい気分だね」
 清々しそうに答える彼女はきっと、この先、どんな槍も弓矢も通じない、全く別種の戦いかたが必要な世界が広がっていることを察知していただろう。
「そうね――なら先ずは手始めに、こんな舞台はどうかしら? これまで蔑ろにされてきた女性の声を、貴女が纏めて皆に届けるの」



 これまで殺しあってきた相手だからこれからも殺す。男たち――主戦派がそんな単純な結論に飛びつきたくなる気持ちは、アルヤァーガ・アベリアとて解らぬでもなかった。
(だが、それで十分だったのは『これまで』の話だ。『これから』は国と国の関係のようなものだ。どれほど個として憎んでいたとしても、それを島同士の関係に持ちこむべきではない)
 朝餉の後、合議が始まる。その場でまずアルヤァーガはこのように語りはじめる。
「奪われた怒りが引いた引鉄であれ、その芯は誰かのためや何かのため……自ら以外への想いが始まりだったはずです。であるならば、今変わりゆくこの世界に対しても、人々は始まりの感情を忘れてはいけないはずです」

 はて。それは『誰かを傷つけたい』であっただろうか?
 否。その前に『誰か大切な人を侮辱されたくない、傷つけられたくない』があり、敵を殺めるのはそのための手段にすぎなかったのではあるまいか?
 手段にすぎぬ想いに囚われて、最初に戦った者たちの軌跡を蔑ろにしてしまっては……もはや、何をするにも正義などあろうはずもない。

「故郷を想う気持ちがあるならば、その想いを以て抗って魅せてください。彼らがかつてそうしたように」
 アルヤァーガが見せたのは、互いに互いの武勇を認め、固く握手しあうノイエスアイゼン軍人とオルド連邦の戦士の姿だった。
 彼らが互いのために失った戦友が、はたしてどれほどに上るだろうか。だが、その数は互いに黙し口にすることはない。それで、かまわぬではないか……少なくとも彼らが同じ希望のため進むかぎりは。



「それで子供たちが飢えなくなるのなら、あたしゃ何だっていいんだがね」
 しばし沈黙に支配された議場の中で、突然、中年女がまくし立てはじめた。
「ここで攻めこめば全てが終わるって言って毎度戦いに出ていって、本当に終わった試しがあったかい!? ハスナが敵の首を3つも持ってかえった時に、アンタたちは一体どうだったっけね!
 ああ。アタシも、他の女たちも、アンタたちよりもハスナの信じる人とそのお仲間たちを信じるって決めたよ。余所者だからって構やするもんか。アンタたちもこの人の話を聞いてご覧なさいな! それでも承服しがたいっていうのなら……アンタたち、アタシたちの首も刎ねるのかい?」

 もしかしたら男たちよりもこの賢明な主婦のほうが、よっぽど正しさというものを知っていたのかもしれないように天峰 真希那には思えた。
 もちろん、彼女らとて散々自分たちを苦しめてきた者たちを、無罪放免するつもりなんてないのではあるし、真希那とて無罪という形でなければならないとは思わない。
「だが……処刑すれば禍根を断てるのだろうか?
 逆だ。
 確かにこの紛争の発端は、アダルがイファトに攻めこんだことだと聞いた。それは間違いなく罪だ。一方で、禍根が生まれたのは何時か? イファトがそれに報復し、アダルの民を殺してしまった時だろう。
 ならば禍根を断つために、イファトこそ誤らない決断が必要だ」
「それにね、アタシたちもいい加減、もうおとぎ話にしか残ってないような、ひもじい思いをしない生活をしたいんだよ。この人は言ったよ――そんなにこいつらに罰を与えたいっていうのなら、イファトで身柄を預かるってのはどうだ、ってね。大賛成だ! だって、つまりはイファトのために働かせようって話だろ。それともこいつらを残らず殺して、代わりにアンタたちが奴隷のように働いてくれるのかい……それならそれで構やしないんだがね」

 それから中年女はどっかりと捕虜たちの目の前に腰を下ろして、建国主スライマーンⅠ世は奴隷はいつか解放できる日のために持つものだと言ったじゃないかと説いた。
 アタシはアンタたちを許しはしないが、これ以上余計な気を起こさずにいてくれるならアダルに帰してやることができる、と、おそらくはそういうことだ。
 やはり賢い女性だ、と真希那。和平を結ぶのに最も説得しなければならない相手の、説得のしかたを心得ている。処刑など、その説得の手間を惜しんでいるだけだ――そう信じていた真希那の前で、彼女は鮮やかな解決法を提案して実際に説得の手はあるものだと示してくれる。



 誰もが承服できるとはかぎらない道。
 それでも賢い女たちの弁舌の甲斐もあり、今は、一旦はこれ以上命を奪わぬ方法を模索してみることになる。

 では、その模索は本当に答えに行きつくのだろうか?
 その結果を知る前に、まずは遥か南方での一幕を物語るとしよう……。
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