クリエイティブRPG

【双月ニ舞ヒテ】哀楽、何を喚ばん【第3話/全5話】

リアクション公開中!

 135

【双月ニ舞ヒテ】哀楽、何を喚ばん【第3話/全5話】
リアクション
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last


〈プロローグ〉


 ――大兜率いる餓承衆と遭遇する少し前。
「紫艶様、昨日は族長への文書取り次ぎ、誠にありがとうございました」
 ダヴィデ・ダウナーは水殿山山道を登る紫艶に並んで歩き礼を述べた。
「確かにあれは俺が渡さなければ族長は見向きもしなかっただろうな。だが、あの族長をあそこまで動かしたのは貴様らだ」
 宵烏族では族長に次ぐ地位にいるせいか紫艶は元来かなり不遜な性格のようだが、黒羽山でのダヴィデらの尽力は高く評価しているらしい。
 だが、ダヴィデはそんな紫艶の態度に苛立つ様子も見せず、
「そう言って頂けて恐縮です」
 と微笑むと、
「ところで、今後紫艶様のことを出来ればもう少し親しみを込めてお呼びしたく……ああ、ついでに話し方も」
 と紫艶に伺いを立てる。
「……知らん。俺はそもそも宵烏族以外の者とここまで関わったことがない故、宵烏族の物差しでしか貴様らを測れん。まぁ……宵烏族を下に見るような不届千万な口を利かん限りは好きにしろ」
「では、早速紫艶と呼ばせてもらおう。そういえば、紫艶が族長から預かった“赤烏隊”も今日来ているのか? 宵烏族の精鋭部隊と呼ばれる赤烏隊、その由来も知りたいものだ」
「いきなり何という変わりようだ……」
 「好きにしろ」とは言ったものの、即座に呼び捨てにしてきたダヴィデに紫艶は呆れた様子を見せた。
 しかし、赤烏隊に触れられ「精鋭部隊」と言われたためか悪い気はしていないらしい。
「宵烏族には、代々族長だけに伝えられる古事や書物がある。赤烏隊のことも恐らくその中にあるのだろう、俺はその由縁も成り立ちも知らん。ただ、宵烏族の中から有事に備えて死をも厭わぬ覚悟と力を持った者が数名選ばれ、その集まりが赤烏隊だということは知っている。いざという時にはたとえ死んでも族長と山そして部族を守ることを誓約させられた連中ゆえに、宵烏族の中ではそこそこ特別扱いされている。それを勘違いする大馬鹿者の赤烏隊士もこれまで稀にいたが……そういう奴は俺が丁重に調教して一人前にしてやった。それはさておき……宵烏族は皆瞳の色が赤いが、あれは個々が持つ霊力の量や質で微妙に違う。暇があったら赤烏隊の目を見てみろ。あいつらの殆どはぞっとするほどの鮮紅色だ。隊の名もその辺りが由来ではないかと俺は思う。ちなみに、宵烏族の中では、瞳の赤味が鮮やかであればあるほど攻撃的な性格だと言われている。せいぜい赤烏隊を怒らせないことだな」
「成程……攻撃的となると、春ぴっぴとは真逆だ」
「はぁ? 誰だそのふざけた名は……よもや、あの大将軍の腑抜けた腰巾着ではあるまいな?」
 ダヴィデが春之進のことに触れた途端、紫艶の顔に嫌悪感が露わになる。
「いやいや紫艶、あれでなかなか強かなんだ春ぴっぴは!」
「……あんな、どう見ても鍛えていなさそうな軟弱野郎がか?」
 訝しむ紫艶に、ダヴィデは
「ああ! 家族愛を語らせたらもう――」
 と、鎮守 竜樹の肩を叩きながら
「――この鎮守さんも骨抜きになるほどさ! なっ、たっちゃん!」
 と答えてみるが、当の竜樹は魂の抜けたような目で遠くを見つめていた。
(春っち、何で「楽」の結界柱に行ったんやろなー。こっちに来とれば、「哀」の対で喜び語ればええんやし、そしたら昨日俺らが散々聞かされた家族とーくで独壇場に出来たやろ……に……)
『静が初めて歩いた時のことなんだけどね、あれは確か――』
 嫌でも思い出されてしまう春之進のマシンガントークが竜樹から容赦なく覇気を奪う。
(……もうええ! 脳内再生もうええて!)
 己の脳内で切なく暴れる竜樹の眼前で、ダヴィデは
「たっちゃん? おーい、たっちゃーん? ……竜樹お兄様?」
 と手を振り振り竜樹を正気に戻そうとし、それを見る紫艶は
「……やはり奴は俺には到底受け入れられんふざけた男だな」
 と悪態を吐く。
「ともかく……」
 ダヴィデは竜樹の前で手を振りつつ、
「……こうして紫艶と共に水殿山に登れるんは颯崚様が力を尽くしてくれたおかげでもある。宵烏族と閃燕族……対面して交誼を温めたら互いの印象も変わるかもな? 鳥族の良心が育つ地か……楽しみだ」
 と言って紫艶に笑顔を見せるのだった――

 これから結界柱に注ぐのが喜びの感情ということもあってか、水殿山中腹までは各々穏やかな気持ちだった。
 しかし、そんな和やかな道中の記憶を一瞬で消し去ってしまうほどに、今の水殿山は血の紅と鉄錆臭に塗れている。

* * *


「酷い……どうしてこんなことに……」
 お駒は今にも泣き出しそうな顔で辺りを見回した。
 四方八方から閃燕族のものと思われる悲鳴が聞こえ、空を見上げれば逃げ惑う紺色のシルエットが黒い何かに衝突され、まるで猟銃に撃ち落とされる鳥のように落下していく。
「こいつは何とかしねぇと、話を聞き出すどころじゃねぇ……」
 出羽での戦いに「ハッピーエンド」という名の終止符を打つために、敵について推測を立ててそれを裏付けられるだけの情報を欲している飛鷹 シンはそう呟くものの、せいぜい応急処置が出来る程度の持ち合わせしかない。
 それもそうだ、他の渡来人たちはもちろん、シンもまさか水殿山で餓承衆と派手にぶつかり合うことになるなど想定していなかったのだから。
 すると、思い悩むシンの姿を目に留めたお駒は、
「閃燕族さんの救護は私たちで何とかしますから、シンさんは出来る手助けだけやって下さい!」
 と声を上げた。
「たぶん、シンさんが集める情報は、みんなにとってマイナスになることはない筈ですっ。大丈夫です、こっちには他にも頼れる人たちが沢山いますから!」
(……参ったな。迷惑掛けるってのに、また気ぃ遣わせちまった)
 シンはどこか申し訳なさを感じたが、迷っている暇などない。
「分かった、必ず何か掴んでみせる!」
(残された時間はたぶんもう少ねぇ。でも、ここまで確実に前進してきたんだ。だから、あと少し……確実に考えて、この世界を本当の意味で救うんだ)
 シンは仲間たちから離れ、アリア・ファールスと一緒に鬱蒼と茂る雑木林の中に姿を消した。

* * *


「敬太郎殿、呼びつけてすまない」
 古城 偲は敬太郎に軽く頭を下げる。
 敬太郎は餓承衆に許嫁とその父を殺された武士で、偲とは二人の供養が縁で知り合った。
「いや、何の。私で良ければ力になろう」
 大切な家族を丁寧に弔ってくれた偲には大恩がある。
 もちろん武士団のトップである雅仁の命令でもあるが、敬太郎は出羽が平和を取り戻すその日まで偲に出来る限りの助力を惜しまないつもりだ。
 とはいえ、偲が今回敬太郎に頼もうとしていることは、彼にとって酷なことではなかろうか……と、偲は内心案じている。
「滋姫様の結界をいち早く砕くことで、雅仁様や武士団、それから渡来人の力を取り戻すんだ」
「恐れ多くも天鳥様がお築きになったという結界柱……私のような者の力がどこまで及ぶか分からぬが、全力は尽くそう。して、古城殿、結界柱は如何にして壊すと?」
 敬太郎は出羽武士団の中ではこれといった役もないただの武士で、餓承衆との戦いの全容を知り対処を心得ることの出来る立場にはいない。
 天鳥が結界柱を築いたことは聞き及んでいても、その具体的な破壊方法までは知らないのだろう。
 逆に、偲の方は渡来人として様々な情報を得ていた。
「うん、僕も実際に結界柱の破壊に挑むのは初めてなのだが、やり方なら聞いている。心を……特に今回は怒りの感情を伝えるだけでいいらしい」
「怒り……か」
 躊躇いがちに視線を這わせた敬太郎を見て、偲は
(一度鎮めたはずの感情を再び刺激して怒りとして吐き出してもらうなど、やはりまずかっただろうか……)
 と後悔しかける。
 しかし、敬太郎は双眸に強い光を宿し、
「相分かった。それはきっと今の私であるが故に出来ることであろう。古城殿、黒羽山の結界柱、必ずや壊そうぞ」
 と偲に答えた。

◆目次◆


〈プロローグ〉
〈怒哭槍の如く(1)〉
〈怒哭槍の如く(2)〉
〈怒哭槍の如く(3)〉
〈Swallow tears(1)〉
〈Swallow tears(2)〉
〈Swallow tears(3)〉
〈Swallow tears(4)〉
〈Swallow tears(5)〉
〈Swallow tears(6)〉
〈Swallow tears(7)〉
〈Swallow tears(8)〉
〈Swallow tears(9)〉
〈Swallow tears(10)〉
〈Swallow tears(11)〉
〈Swallow tears(12)〉
〈Swallow tears(13)〉
〈Swallow tears(14)〉
〈Swallow tears(15)〉
〈Swallow tears(16)〉
〈喜笑槌の如く(1)〉
〈喜笑槌の如く(2)〉
〈喜笑槌の如く(3)〉
〈喜笑槌の如く(4)〉
〈喜笑槌の如く(5)〉
〈灰冠怒突の叫び(1)〉
〈灰冠怒突の叫び(2)〉
〈灰冠怒突の叫び(3)〉
〈灰冠怒突の叫び(4)〉
〈灰冠怒突の叫び(5)〉
〈灰冠怒突の叫び(6)〉
〈灰冠怒突の叫び(7)〉
〈灰冠怒突の叫び(8)〉
〈灰冠怒突の叫び(9)〉
〈エピローグ(1)〉
〈エピローグ(2)〉
〈エピローグ(3)〉
〈エピローグ(4)〉
〈エピローグ(5)〉
〈エピローグ(6)〉

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last