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竜へ捧げる鎮魂歌【最終話】

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竜へ捧げる鎮魂歌【最終話】
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「邪竜の封印に竜の命を捧げる……んな方法認めたら、あたしらは避難民や避難竜にどう顔向けするのさ!? ここで認めたら嘘同然じゃんさ!!」
 リズ・ロビィはダイル・ウスンが行おうとしていた封印の方法を知り、声を荒らげる。
 それは避難してきた人や竜たちを「見捨てない」と宣言したリズにとって到底認められるものではなく、また必要な犠牲だと割り切れるものではなかった。
「それに勝手に決めるようとしていたなんて酷いのさー、守りたいのならもっと別の道を模索するべきなのさ!!」
「ええ、それに封印は一時的なもの……封印の度に数多の竜の命が必要とされるやり方は受け入れたくありません」
 シルノ・アルフェリエはリズの叫びに同調し、表情を陰らせた。
 ここに来たとき、彼女はこの世界についていたく感銘を受けていた。
 人と竜が共に暮らす世界、そして未だ見ぬ素晴らしい景色。戦いが終わった後、是非ともバルと一緒に見に行こうと考えていたくらいなのに――最終決戦を目前に直面したのは犠牲を伴う平和の掴み取り方だった。
 確かにそれで平和は訪れるかもしれない、だが残された者達や勝手に決められた人間はどう思うのだろうか。人と竜が手を取り合うこの国ならば、手放しに封印を喜んでくれる者など居ない筈だ。
 ならば答えは決まっている。人と竜、どちらも心から幸せだと思って貰えるような方法を採るべきなのだ。
「……邪竜をここで討ちましょう」
「そうなのさ、助けるのなら人も竜も関係ないっ……あたしらオーバーチュア騎士団で全てをオールインして全部勝ち取ってやるのさー!!」


 リズとシルノが決意を固めているすぐ傍で、今井 亜莉沙は大きくため息を吐いた。
 決して彼女らの言い分に呆れているわけではない。亜莉沙とて、この国を救いたい想いは同じだ。
 邪竜を討ち、真なる意味での平和を勝ち取る。
 その為に必要なのは吟遊詩人の歌と舞である。そして今回、歌を紡ぐのは吟遊詩人である亜莉沙――つまり、彼女は与えられた役割に悩まされているのだ。
「邪竜に近づくためにはあたしの歌が必要ってのは分かる、分かるけど……うぅ、こうやって考えてみると責任重大で地味にプレッシャーね」
 勿論、吟遊詩人を放棄したいという訳ではない。誰かの平和を守れるのであれば、喜んで戦場へと赴くだろう。もし己が竜騎兵であったのなら誰よりも果敢に空を駆けていたはずだ。……しかし今回は役割がいつもと違うのだ。
「みんなはアークでこんなプレッシャーと戦ってたのか……」
 亜莉沙は小さく息を吐く。バルバロイの領域中和をするため、星詩によって牽制していた者らの気持ちを今となって味わうことになるとは。亜莉沙は小さく頷き、勢いよく顔を上げた。
「……それが分かっただけでも、この地に来た甲斐があるってものよね!!」
 この気持ちを上手く昇華することができれば、きっと今後アークでも良い働きぶりに繋がるであろう。歌姫が何を考え、何を想い、前線に居る者らを力づけているのか。きっと全てが終わった頃には掴み取ることができるはずだ。
「川上さん、アニーちゃん!!」
 亜莉沙は待機していた川上 一夫アニー・ミルミーンに近づき、その背をドンと叩いた。
「あなたたちがいつもやっているように、あたしも頑張るわ」
 一夫とアニーは顔を見合わせた。最初は唐突な宣言に戸惑ったものの、亜莉沙の様子を見ているうちに言いたいことは伝わってくれたらしい。表情を緩め、一夫が先に言葉を紡いだ。
「何やら決意を固められたようですね、私も不慣れな身ながら皆様のお役に立てるように行動するつもりです」
『契約者も……それだけ大きく頷いていれば、我を介さずとも伝わるだろう』
 アニーの隣に居たヴァルターは通訳を止め、ぶんぶんと大きく頷いているアニーを眺め、目を細めて笑った。

◇◆◇


 オーバーチュア騎士団は拓いて貰った活路をひた進み、谷底の入り口までやってきた。
 周囲で交戦こそしているものの、みな上手い具合に道を維持してくれている。彼らの行いを無駄にしないためにも、なんとかして邪竜を倒さねばならない。
「さあ、皆――ブランダーバスだけじゃない、ハイラハンにこれから始まる平和へのオーバーチュアを奏でてやるのさー!!」
 リズは声を上げ、拳を握りしめる。
 共に扉を潜り抜けた団員へと順々に視線を送り、その拳を突き上げた。
「団長命令だ……あんたらの全部を振り絞って人も竜も救いなさい!! オーバーチュア騎士団!! 征くぞ!!」
 リズの声を皮切りとし、それぞれが谷底へと降りていく。
 シルノはバルに、亜莉沙とアニーはヴァルターに。そして一夫とリズは王都の避難民キャンプで知り合った竜の翼を借りる事にした。
 谷底は亀裂のような形をしており、少し降りれば暗さが増していく。一夫の握りしめたトーチが人魂のようにゆらゆらと揺らめき、嘆きの底へとゆるやかに降りていく。
 辿りついた一行を出迎えたのは邪竜、そして共に戦うことを決めた渡り人達である。邪竜の瘴気を祓うため、それぞれが出来る事をこなしている所であった。

「ありがとうなのさー!!」
 リズは運んでくれた竜にお礼を述べ、背を叩いた。掌に伝わるのはゴツゴツとした感触であり、その中には多数の傷跡が残されている。眷属達の侵攻によって負ったものなのか、はたまた年を重ねた結果なのか、リズには分からなかった。だが、もし後者であるのならばこの竜もまた、封印に必要な欠片となっていたのかもしれない。それを思えば、此度の戦いは絶対に負けられないものなのだと尚奮い立ち、同時に幾ばくかの悲しさも襲い来る。
「運んで頂き、ありがとうございます。……さあ、参りましょう団長」
 一夫は感傷に浸っていたリズの肩を優しく叩いた。
「……勿論、そのために来たのさー!! ……アリサ、頼んだぞ!!」
 荒々しい口調を受け、亜莉沙はヴァルターの背中から降りた。
 大きく息を吸い込み、団長の声に応える。
「人も、竜も、世界もまるっと救うわよ!!」
 想いが確かな力となるように。亜莉沙はそう願い、ネオクラヴィオンを広げて巻物に描かれた盤面に手を触れた。魔力を流し込み、演奏するのはノスタルジーコンプレックス。

 扉の向こう側
 僕らを待っていたのは 空浮かぶ王国と天翔る竜(つばさ)達
 王都の空を覆う闇、助けを求める人達へ
 助けの手差し伸べる為、きっと僕らは呼ばれたんだ

 演奏と共に紡がれたのは近くの瘴気を吹き飛ばすような力強い詩だ。
 この地に来た理由、そして自分たちが成すべき事。短いながらに時間を共にした人と竜達の想いを詩に乗せれば、彼女の周囲に暖かな光が生み出される。
 光は緩やかに尾を引き、オーバーチュア騎士団を包み込む。キラキラとした輝きが肌に触れれば、小さな花火のように閃光を携えてくれた。
「さあ、行って!!」
 亜莉沙が短く叫べば、駆けだしたのはヴァルターとバルだ。

「……バルさん、ヴァルターさんとはお知り合いですか?」
 シルノは邪竜へと向かいながらバルへと問うた。
『癖を見抜ける程度には』
「それなら丁度良いですね」
 元より共闘する策は立てていた。相手の癖を理解しているのであれば問題はない。そう考えつつ、シルノは今更ですが、と前置きを置いてから気になっていた事を尋ねてみた。
「バルさんは邪竜討伐について、やはり無茶だとお考えですか?」
『妙な事を問う、忘れたのか』
 バルは翼を動かしながらも小さく笑った。
『――私は翼だ、契約者が望むのであればどこまでも共に駆けるのみ。ダイル・ウスンがなんと言おうともな』
 翼となった時点で選ぶ未来は決まっている。それがたとえどのようなものであったとしても、契約者が信じる道を往くのみ。バルにとってはそれ以下でもそれ以上でもないのだ。
「分かりました、私と契約したこと……絶対に後悔させません。共に邪竜を討ちましょう。緋の翼!!」
『承知した』
 バルは平行して飛んでいたヴァルターを抜き去り、先制攻撃を試みる。迫り来る眷属を躱し、邪竜本体へとその身を滑り込ませた。
 瘴気の幕の奥、待ち構えていたのは王都で見た竜に比べても一際大きな竜であった。
 こちらに気がつき、邪竜は口元をゆっくりと開く。緩慢な動作で吐き出したのは耳を塞ぎたくなるほどおぞましい雄叫びだ。
 するとバルの動きが一瞬鈍った。勢いは削がれ、何かに苦しむような素振りを見せ始める。後方についていたヴァルターもまた同じように動きが鈍くなってしまった。
『ヴァルターまで!?』
 アニーが慌てたように叫び声を上げた。
「――お任せ下さい!!」
 アニーが声にならぬ叫びを上げたのと同時に、離れた場所から一夫が声を張り上げる。
 間髪入れず紡ぐのはトルバドールの星詩である。此度は呪術者として振る舞っていた一夫だが、戦闘は苦手だと自負していた。そこで考えたのが、完全なる後方支援である。呪術者らしい加護は望めないかもしれないが、皆を助けたい気持ちは誰よりも強い。前に出て攻撃をする事よりも、守りの要として後方に留まる事を選んだのだ。
 コブシの利いた歌声がそれぞれの背中をそっと後押しするよう紡がれた。機械を通さぬ世界において歌声には限度がある。しかしそれでも役立ってくれる事を願い、一夫は声を張り上げた。
 仲間の戦意を損ねないように、立ち向かう勇気を称えるように。
 紡がれた歌声は瘴気を祓う事は叶わない。だが、呪術者としてならば通ずるものがあるかもしれない。
 願望にも似た祈りを抱き、一夫は負けじと声を張り上げる。
 すると祈りが通じたのだろうか、はたま呪術者としての加護が上手く働いたのだろうか。様子のおかしかったバルは二、三度目を瞬きかぶりを振るった。
『……問題無い、駆けるぞ契約者』
「大丈夫です、このまま攻撃します!!」
 咆哮の呪縛より逃れたバルは翼を翻す。追撃を許さぬ速度で駆け、接近と共に身体を傾けた。
 バルの翼と邪竜の腕がすれ違う間際、シルノはオグルブレードを振り下ろす。流れるような連続攻撃で相手の爪を切り落とし、速度を出しているバルに合わせその衝撃を往なした。だが、見計らったようにやってきたのは今し方産み落とされた眷属である。
 亜莉沙によってある程度眷属の出現は抑えられている。しかしそれにも限りがあった。太陽神バトゥカンの歌声より逃れた個体がバルの尾を引きちぎろうとその爪を振り下ろす。
『させません!! ヴァルター!!』
 待ったを掛けたのはアニーだ。ヴァルターに指示を出し、複数の光を伴い眷属へと接近する。彼女が腕を振るえば、生み出した光は刃へと形を換え、滑るようにして眷属とシルノの元へと向かっていった。意思があるように剣は踊り、眷属の爪を弾き飛ばす。
『契約者は守りを任せろと言っている』
「分かりましたアニーさん!!」
「あたしもいるぞ!!」
 リズの叫びと同時に、彼女の操る鞭がしなる。眷属の尾へとそれを絡め、振り回すことによって無理矢理こちら側へとたぐり寄せた。
「さあ、大博打だ。あたしを空へ運んでくれ――月神セオラ、見ているんだろう!!」
 リズは空へと手を伸ばす。その先にあったのは薄暗い谷底からも確認できる一際明るい四つの星――その中でも静謐な輝きを秘めた一等星だ。
 星は変わらず輝いている。リズが急くように限界まで腕を伸ばせば、かの星はそれに応えた。真昼の空に麗しい光の線が走り抜ける。谷底と空を結ぶ柱が如く、その光はリズへと降り立った。
 その瞬間、リズは光の柱の中に何者かの姿を見た。藍色の鱗を携え、今まで見た竜の中でも一際瀟洒な佇まいをした竜だ。
「月神セオラ、美しく彩られた世界を護る為に調教師リズ・ロビィに力を貸してくれええ!!」
 かの竜が口を開くのと同時に、リズの身体が僅かに宙へ浮き、背には竜の翼を模した炎が力強く羽ばたいた。

 リズは吠え、眷属へと向き合った。胸に宿る奇妙な感覚を魔力へと変換し、再び鞭を振るった。
「眷属は任せな、その間に邪竜を!!」
 叫ぶのと同時にリズは駆ける。月神セオラの力を借り、邪魔立てする眷属を灰燼に帰すべく飛び立った。

『ヴァルター、邪竜の注意を引いてから離脱はできますか?』
 アニーは衝撃波で邪竜のブレスを弾き、ヴァルターへと問うた。
『問題無い。ヤツに合わせれば良いのだろう?』
『ええ、攻撃を合わせます。どうやら怪我を負っても直ぐに回復されてしまいますので』
 アニーの言う通り、邪竜は傷を負っても回復をしていた。大きな傷は治るのが遅いところから、魔力消費が大きいのだろう。その証拠に周囲の瘴気は先程よりも薄まっている。生み出された眷属の数も少なく、大打撃を与える事が場を制すのに有効だろうとアニーは考えた。
『構わぬ、ヤツに合わせるのは癪だがな』
 ヴァルターは少しだけ眉を顰めた。どうやらバルとは些か因縁でもあるようだ。しかし厭うような感情は見られないので、人で言う所の腐れ縁なのかもしれない。
『シルノとやら、我が契約者は待機せよと申した!!』
 アニーの言葉を翻訳し、ヴァルターは望むとおりに邪竜の視界へ躍り出る。小虫のようにわざとらしく横切り、その注意を引きつけた。
 踊るように空を飛んでやれば、溜まりかねた邪竜はその牙でヴァルターを捉えようとその身を伸ばした。
『ヴァルター!!』
 アニーの声を受け、ヴァルターは高く跳躍した。ゆるやかに弧を描き、空中でひらりと宙返りを見せる。一度目は牙から逃れる為、そして二度目は助走を付けるための距離を開くためだ。そのまま滑るようにして邪竜の懐へと潜る

「――アニーちゃんが行くのなら、あたしの光も連れていって!!」
 願い、鈴を鳴らしたのは亜莉沙だ。
 曲調を無理矢理整え、紡ぐのはノスタルジーコンプレックスのサビである。

 今鳴り響け 勝利の鐘
 人と竜の想いを乗せ
 今鳴り響け 勝利の鐘
 呪われた鎖を今断ちきり
 ――新しい世界の序曲を奏でよう

 サビを唄いきれば、亜莉沙に纏っていた光がアニーの方へと飛んでいく。
 アニーはそれをそっと受け止めるように優しく触れた。
『幻影よ、力を貸して!!』
 光は輝きを増し、どんどんと膨らんでいった。気がつけば光はヴァルターと同じような
竜へと変わり、邪竜を翻弄するように周囲へと飛び立つ。
 追っていたものが増えた事に驚いたのだろうか。それとも光を厭ったのだろうか。邪竜は僅かにだが動きを止めた。

「参りましょうバルさん!!」
 それを見て動いた者がいる。待機していたシルノだ。
 邪竜の死角へと移動していた彼女は魔力で炎を作り上げ、バルの身体へと纏わせた。轟々と吠える炎はあっという間に広がり、シルノとバルを包み込む。
 火竜であるバルにとっては然程問題ないが、シルノにとってはそうもいかない。風の加護によってある程度抑制できるとはいえ、一歩間違えれば呑み込まれてしまいそうなほど炎の勢いは強かった。
『契約者、燃えはしないのか!?』
「大丈夫です、私を信じて下さい!!」
 シルノが言い切れば、バルは僅かに眉を寄せた。だが、彼は翼である。どう動くかなど決まっていた。
『……望むのであれば!!』
 バルは炎を携え、場を制している瘴気を掻き分けるように邪竜へと向かっていった。一人と一匹を包む炎は尾を引き、通過した場所に小さな炎を残していく。速度が上がれば炎の勢いも上がる、勢いが上がれば風で御するのが難しくなっていった。
 シルノはチリチリと肌を焦がす熱気をその身に受けながらも、竜のように吠えた。
「……これが英竜一体の技――全力で行きます!!」
 炎の流星が邪竜の背へと落ちた。
 衝撃により、周囲に蔓延っていた瘴気が暴風によって掻き消されていく。
 だが、それも徐々に戻り始める。邪竜の中にまだ魔力が残っているためだろう。
「バルさん、今度は――」
『その前に治療だ、あの男が確かそうだったな!!』
 バルはシルノの衣服に残っていた火を尾で掻き消しながら一夫の元へと駆けた。ひったくるようにして一夫を掴み、その場から距離を置く。眷属が迫ってきていないことを確認しつつ、シルノと一夫を地面に降ろした。
「あたしも頼むのさー!!」
 一夫が治療を行い始めると、現れたのはフラフラのリズである。よくよくみれば背中周りの服は焦げつき、翼のあった場所など殆ど原形を留めていなかった。
「力を貸してくれたのは良いけど、あたしまで燃やすことはないのさー……意外に荒っぽい神竜なのさ……」
「リズさんもボロボロですね、私もちょっと燃えてしまって……」
『ちょっとで済むようなものではないだろうに、行くのならば治療を終えてからだ。カズオとやら、治せるか』
 バルは尾でシルノの足元をたしたしと叩き、一夫に視線を向ける。
「少しばかり時間は要しますが……何も問題はありませんよ。多少前線に戻るのが遅れたとしてもね」
 ほら、と一夫は谷底から上を指さした。
 そこには今し方降り立とうとしてきた渡り人の姿がある。
「治療を終えたら合流しましょう。眷属を牽制するのも良いかもしれませんね、邪竜が眷属を生み出せばその分魔力も消費するでしょうから」
 幸いな事に辺りの薄暗さは改善されつつある。皆が力を振るい、邪竜の魔力を削ぎ落としたからだ。これならばトーチもお役御免となるだろう。
「そして……邪竜も皆と同じように空へ還れるといいのですが」
 一夫は治療をしながら呟いた。
 その瞳に憐憫の想いが込められているのは気のせいではない。何故ならあの邪竜もまた、穢れの犠牲者なのだ。
『――然り、ブイルクカンもまた犠牲者である』
 相槌を打ったのはバルではなく、戦線離脱してきたヴァルターである。
『雄叫びを受けた時、感じたのは深い嘆きだ。契約者を失うことへの恐怖――簡単な契約を結んだ我らですら心掻き乱されるようなものだ。古の契約に則っているのであれば……それは計り知れぬものだろう』
 半身を捧げるその代償はあまりにも大きい。ヴァルターは嘆き悲しむような表情を浮かべ、背に乗せたアニーへと鼻先を近づけた。
「……だったら、とっつぁん。ちゃちゃと治療して、相手の魔力を削るのさー!! 平和へのオーバーチュアはまだ始まったばかりなのさ!! ……みんな、まだいけるな!?」
 人と竜を救うと宣言したのだから、邪竜も救ってやらねばならぬ。リズが荒々しく問いかければ、各々はしっかりと頷いてくれた。

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