イレギュラー撃滅戦・殲滅
「今回の役目は、首都リーガに迫る”イレギュラー”の殲滅だ」
草薙 大和は相棒の
草薙 コロナ、母艦”ロート・フランメ”艦長の
レニア・クラウジウス、オペレーターの
雪神 白羽に向けて告げた。
「リーガに迫るイレギュラーは約1万、これが4集団、2千5百体ずつに分かれてリーガへと進撃している。一般兵士では対応不能で、メックや戦闘機と言った攻防に優れた兵器でなければ倒せない。もしイレギュラーのリーガ侵入を許せば、リーガは蹂躙され、数多くの犠牲者が出るだろう。それだけは絶対に阻止しなければならない」
口調は冷静だが、大和の表情は決意を固めた者のそれだ。
そして、大和の言葉を聞いている者達も、それぞれに決意を固めている。
「かなり骨の折れる作戦ですけど、なんとしても成功させるですよ!」
前線の自分達も、後ろに控えるリーガの住民も、誰も死なせない。コロナはその様に心に決めている。
「”グロム”の件で軍は大童なのに、イレギュラーまで出るとは厄介ね。”グロム”の無力化、イレギュラーの殲滅、どちらも成功させなければいけないわ。でも、私達の目前にいるのはイレギュラー。これに全力で当たりましょう。あなた達の支援はあたしに任せて」
レニアは上空からの支援により大和達を守り抜く事を誓う。
「此度の敵は異型の”いれぎゆら”。打ち倒す事に、何の躊躇もあるまい。背後に控える無辜の民を護るそなた等の決意、しかと受け取った。我も前線に出、そなたらを支援するぞ」
白羽は決断的口調でオペレーターとして大和とコロナを護り抜く事を誓った。
彼女等の応えを受け、大和は告げる。
「死地に付き合わせることになるが、必ず全員、五体満足で生還しよう」
コロナ、レニア、白羽はそれぞれ固い意志をもって頷いた。
そして大和達は”ロート・フランメ”を前進させ、イレギュラー集団約2千の前へと立ちはだかった。
「全方位索敵によると、メック級イレギュラーは5体。密集陣の中央部に存在しているわ。このデータは共有するから、常に確認しながら行動して」
レニアが大和達に告げる。
「了解だ」
「了解です」
「承知」
それぞれの応えを受け、レニアは大和達のメックを発進させた。
大和の”プギオ【C】”と【僚機】ワルーントリオ、コロナの”プギオTH【C】”と【僚機】ブラックバード丁改はは敵集団の真正面に、そしてその後方に白羽の”試製プギオO【C】”と【僚機】ホーネット・アサルトが着地する。その上空には”ロート・フランメ”が【僚機】スカイライダー×3と共に飛行しており、地上支援を行う準備を整えている。
「戦闘開始!」
大和の号令一下、まず大和とコロナが【小隊陣形】スパミングで小型イレギュラーに対し広範囲攻撃を仕掛け、粉々に砕いていく。その破片が消え去る前に、戦線に空いた大穴に向けてふたりは突進した。神速の動きは、白羽があらかじめ大地母神の依代をもって二人の機体を強化していた為だ。白羽は大和達の攻撃とタイミングを合わせてキュベレー・レイを大和達の進路前方に放ち、突破口をさらに深くえぐる。
そのまま大和は”プギオ【C】”を駆り、僚機とともに【小隊陣形】サンダーバッシュで密集陣をジグザグに、当たるを幸いなぎ倒して行く。のみならず、ブレイドダンスの剣舞で次々と小型イレギュラーを粉微塵に砕いていく。しかし数が多い。倒す側からイレギュラーは現れ、大和の機体にまとわりつこうとするが。
「そうはさせないです!」
コロナはそのフォローに周り、大和が撃ち漏らした敵をエイミングで確実に砕いていく。自身に群がるイレギュラーはあるいは僚機の力を借り、あるいはサイコフォーキャストで回避するが、やはり数の圧倒的な差に押しつぶされる、そう見えた時、バリアオーブの光がイレギュラー達を押し留めた。
「そなたら異型の好きにはさせんぞ!」
「ナイスアシスト、白羽!」
「危ない所を有難うです!」
大和とコロナが礼を言うが、白羽は檄を飛ばす。
「それよりもっと敵を倒せ! このままでは数に押しつぶされるぞ! 我も前に出る!」
「了解!」
「了解です!」
大和達は群れで襲いかかって来るイレギュラーとひたすらに闘い続ける。ダブルバレルライフルの実弾を撃ち尽くすとビームガンモードに変更し、銃身が焼き付く寸前まで連射を続け、数多くの小型イレギュラーを粉々に砕いていく。
さらに、レニアの”ロート・フランメ”が地上に向けスマートボムや大口径連装魔力砲に装填された魔力用焼霞弾を上空から放ち、大和達を包囲せんとするイレギュラーを打ち砕き、セキュルーションやプラズマウェイブでの足止めをも行って、大和達が無事前方の敵に集中できるよう支援を行っている。
「助かる、レニア」
「あたしはやるだけの事をやっているだけよ。あなた達と同様にね」
大和の礼に、レニアは何事でもないという面持ちで応える。
そして、イレギュラーが半数ほどに数を減らした所で、ついに好機が訪れた。
「正面距離150、メック級イレギュラー5体が密集しているわ! チャンスよ!」
「よし、コロナ、行けるな?」
「大丈夫です!」
レニアの指し示した方角を指さし、大和が告げると、コロナは頷く。
「行きます。吶喊!」
コロナは【小隊陣形】サイコバードを展開。僚機とともにサイコエネルギーに包まれて当たる敵を片端からなぎ倒し、そしてメック級イレギュラーに衝突した。
「行けぇッ!」
大和の応援に応ずるように、メック級イレギュラーのシールドを貫き、コロナと僚機が放つサイコエネルギーが5体のメック級イレギュラーを砕き、その破片も一瞬で蒸発して行く。
「やったのです!」
元気良く答えるコロナだが、実際は疲労困憊している。そんなコロナを労るように、大和は告げた。
「ああ、良くやった」
そして、残存する敵はレニアの砲爆撃で掃討され、約2千のイレギュラー集団は殲滅された。
「我の”ひいるさあくる”の出番が無かったのは喜ばしい事と言えるであろう。そなた等の奮戦はしかと見届けたぞ」
白羽は大和とコロナに告げる。
「いや、キュベレー・レイとバリアオーブだけで十分有り難かった。ヒールサークルまで使う羽目になっていたら、あるいは敗北していたかもしれない」
「そうです。最初の目的、”敵を殲滅し、全員五体満足で帰る”が達成できて良かったです」
「みんなご苦労様。回収しに行くわ」
レニアの声と共に、”ロート・フランメ”が降下を開始する。大和の”プギオ【C】”とコロナの”プギオTH【C】”、白羽の”試製プギオO【C】”はそれぞれ顔を合わせ、そして着陸した”ロート・フランメ”へと歩み寄っていった。
★
夏輝・リドホルムが臨時に率いる混成部隊の前に現れたのは、最後の集団、メック級イレギュラー12体を始めとする2千5百のイレギュラー集団だった。
「大群に驚いていた点を鑑みれば、ここまで大規模な出現は稀なのだろう。また終末思想が加速しかねん状況だが、議論は後回しだ。今は王都の守護が最優先なのでね」
夏輝が告げると、
高橋 蕃茄が応える。
「首都がなくなるのは困る、何の為に戦ってるのかって話になりかねん」
そして
砂原 秋良は、先に見えたフューチャービジョンをエカチェリーナ議会王に報告した時のことを思い出す。エカチェリーナは侍従から既にイレギュラー大規模発生の兆候を聞かされており、秋良の言葉にもさほど動じなかった。
『これはリーガを、ひいてはポラニアを護る為の闘いです。ポラニア王冠領軍の他、こちらから出せる兵力は全て出します。ですが、共に闘って下さる特異者の方々には感謝しています。必ず生きて帰って来て下さい』
真情のこもった彼女の言葉に、秋良は頷いた。
そして現在。彼女は朱色に染められた神官服を着、相克の聖剣を利き手に握った生身の姿で戦場に立っている。傍らに2機のバゼラード――バゼラード・ミスターとバゼラード・マスターを従えて。
秋良は想う。
――視えてしまった悲劇の未来は望むものではありませんからね。ならば、できることをしましょう。あの絶望が、嘆きが、涙が現実のものにならないように。ここに生きる彼や彼女達の未来が少しでも優しいものになるように。
その思いを胸に、彼女は呟く。
「さあ、物語を綴りましょうか」
一方
アキラ・セイルーンと
ルシェイメア・フローズンはいつもの如き痴話喧嘩をしていた。それというのも、リーガ市街でのあまりのアキラのはしゃぎ過ぎにルシェイメアがぶんむくれていた為である。
『思いが力になる世界……! つまり、セイルーンさんがモテモテになりたいと願えばモテモテになれるはず! 今こそラウム・テスタメントを使うとき! うおおおおおモテモテになる! モテモテになる! モテモテになってかわいい女の子たちとウハウハでメロメロのぐへへへだヒャッハーーーー!!!』
リーガ市街を散策していたアキラは美人を見つけてはその様な妄想を巡らし、テンションを高めて、ついにはダダ漏れでそう言うセリフを吐いてしまったのだ。アキラにいつも振り舞わされているルシェイメアとしてはたまった物ではない。
『この痴れ者が! この街の民人に危機が迫っておると言うのに何たる体たらくじゃ! わしは真面目に仕事をしておったと言うのに、肝心の貴様がその有様とは。またギャザリングヘクスを食わせて正気を取り戻させるぞよ!』
『アッハイ……スミマセン……』
その様なやり取りを戦場にまで引きずって来たアキラとルシェイメアである。険悪な雰囲気になるのも当然であろう。
「全くおなごの尻ばかり追いかけおって。リーガの、ポラニアの、ひいては世界の命運を背負っている身だという自覚をじゃな」
「ルーシェ、くどい! 判ってるって、市長自らの依頼だからな。どちらかに肩入れするのは卑怯な気がするけど、頭の良い人に考えるのは任せて、俺はやる事をやれば良いんだろ?」
「そんな殊勝な事を言っても騙されんぞよ。貴様の考えていることなどお見通しじゃ」
「ふーん、だったらルーシェ、俺の考えている事を当てて見ろよ」
「貴様のことじゃ。どうせ”この闘いでヒーローになってモテモテ”などと虫の良い事を考えているんじゃろうよ」
「ヒエッ」
まさに思惑を看破されてしまい恐怖するアキラ。そこへルシェイメアが畳み掛けた。
「今度そんな不埒な事を考えてみるがええ、即座に第1級優先排除目標にして全砲門で吹き飛ばずぞえ」
「アッハイ……」
ルーシェの怒気に当てられ、小さくなって頷くアキラだった。
そこへ、夏輝からの通信が入る。
「夫婦喧嘩も良いが、そこまでにしておけ。もうすぐ会敵だ」
「誰が夫婦か誰が!」
「わしの方からお断りじゃ!」
アキラとルシェイメアが同じタイミングで応える様を見て、夏輝は頭を抱えそうになる。が、気を取り直し、全部隊に告げた。
「さて。仕事の時間だな。いつも通り裏方として尽力するとしようか」
そして、戦闘が始まった。
アキラの”バゼラード”がマインレイヤーで敷いた地雷原と、夏樹が【小隊陣形】バレットシャワーを用いてカルトロップランチャーから発射された撒菱が小型イレギュラー集団の行く手を阻み、無数の爆発と共に小型イレギュラーは砕けていく。しかし、奴らは群れでやってくる。圧倒的な数の暴力の前に、機雷原と撒菱は突破された。
「ならこれでどうだ?」
夏輝は”砲柱:スズメバチ”から魔力拡散弾を、”放槍:サザンカ”からマジックジャベリンを連射し、小型イレギュラーの群れを制圧射撃する。さらにルシェイメアの旗艦級シールドクルーザー改から発射されたツインコンプレッションカノンが、先行していたメック級イレギュラーに命中し、粉々に砕く。
それでもなお、敵の数は圧倒的だ。たちまちのうちにメック戦闘距離にまで近寄られる。だが、夏樹の【空戦術】制空権確保で有利を得ている友軍は動じない。
「来ましたね。だが狙い通りです」
蕃茄は腕を換装パーツ『フィンガーマシンガン』に換装した”ファントムNA改”を駆り、連装ビームキャノンによる複数体攻撃、サイコスプレーポッドによる広範囲攻撃と、アダマンチウムワイヤーで長距離へと伸ばしたフィンガーマシンガンの連射で次々と小型イレギュラーを砕いていく。【僚機】試製プギオTH(無人)【C】をも操り、背後へ浸透される事を防ぐのも忘れないのが、戦巧者の蕃茄ならではと言えよう。
そして秋良は、バゼラード・ミスターとマスターに小型の殲滅を任せ、自身は浸透して来た小型イレギュラーを情況予測により次の行動を把握し、遍現疾駆により加速して相克の聖剣で叩き斬り続ける。斬っても粉々になるだけで、返り値を浴びる事が無いのは幸いだが、精神的にはともかく肉体的な疲労は徐々に溜まっていく。
「しかし、これも物語を紡ぐ為。ここで退くなんてあり得ません」
汗を拭い、秋良はそう呟いた。
そしてアキラは、ルシェイメアの討ち漏らした敵をアダマンチウムビームアサルトライフルによるエイムショットで次々と撃破していく。小型故に通常のメック戦闘とは感覚が違うが、おちゃらけた態度にふさわしからぬ熟練の技能が、それを成し遂げていた。
「絶対絶対生きて帰ってモテモテになってやるー!」
マイクをミュートにしたコクピットの中でアキラは叫んだ。
そして、夏輝の指揮下に置かれたポラニア軍歩行戦車部隊は、戦列を組み、小型イレギュラーをある地域へと押し込んでいく。そこは、彼があらかじめ描いてあった巨大魔法陣の中だ。ほぼすべての小型イレギュラーがそこへと押し込められた時、夏樹は号令した。
「【小隊陣形】コラプストリック!」
たちまち、巨大魔法陣内部の小型イレギュラーが猛射を浴び、砕け散る間もなく消滅していく。戦況はこれにより逆転した。
「これより反転攻勢に転じる!」
夏樹の号令とともに、残るメック級イレギュラーに向かい、ルシェイメアの”旗艦級シールドクルーザー改”が前進してツインコンプレッションカノンを放ち、蕃茄の”ファントムFA改”が【小隊陣形】サーキットブレーカーで関節部を狙い撃ちして動きを封じ、秋良のバゼラード・ミスターとバゼラード・マスターが行進間射撃を行いつつ前進、アキラのバゼラードもアダマンチウムビームアサルトライフルを連射しながら前進する。後方からはポラニア軍歩行戦車部隊の支援射撃が雨のように降り注ぐ。
たちまちのうちに、関節部を損傷したメック級イレギュラーは回避も取れず彼等彼女等の攻撃によって砕かれて行く。僅かに残る小型イレギュラーももはや脅威ではなく、秋良の相克の聖剣によって砕け散る。
かくして、2千5百のイレギュラーを殲滅した彼等彼女等は、他の部隊もその任務を全うしたと聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。1部隊でも、1体でも討ち残せばその分リーガの民人に被害が出ることは容易に予想出来たからだ。
「今回も裏方だったが、良い仕事が出来た」
夏輝はその様に呟き。
「仕事に裏も表もありませんよ。ですが本末転倒の事態は避けられました」
と蕃茄が応える。
「――これで人々の紡ぐ物語も守られるでしょう」
秋良は遠い目をして呟き。
「やった! 勝ったぞルーシェ!」
「うむ。貴様もよい働きじゃった。ご褒美にキスくらいなら許しても構わんぞ?」
「うーん……」
「何じゃ、わしだと不服か!」
「いやなんかもっと新鮮味があるシチュエーションでお願い。頼む。頼みます」
アキラとルシェイメアは仲良く夫婦漫才めいた会話を続けている。
それを見て、夏輝は平和の尊さを実感し、蕃茄は何となく白けてしまい、秋良は優しげに”これもまたひとつの物語”などと想うのだった。