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【テスタメント】”天秤”の論理

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【テスタメント】”天秤”の論理
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イレギュラー殲滅戦・激闘


 先のリーガ・ダム攻防戦における時空の歪みによって発生したこの世界のバグとでも呼ぶべき存在”イレギュラー”。その数は約1万にも昇り、通常の兵士では対応不可能な戦闘力と、ヒトに対する明らかな害意をもって、ポラニア連合王国首都リーガへと進撃を開始した。
 これを殲滅し、リーガの民人を護る為、”ポラニア親衛騎士団”を始めとするポラニア王冠領軍は、異能者とポラニア人との共同作戦を開始した。万一にも敗北すれば首都リーガにおける犠牲は絶大な物になるだろう。作戦に従事する者は、大なり小なりその危機感を持っていた。



「しゃっ! きゃおらぁ!」
 無数の観客を目の前に、咆哮を上げ、あらぬ敵相手に蛇拳を振るっているのは信貴・ターナーだ。
 なぜ彼女がこの一見奇行に見える行動を取っているかと言うと、それなりに真剣な事情がある。
 時は遡る。首都リーガ大都市圏へと迫り来る1万のイレギュラーの存在は、人々に恐怖と動揺をもたらしていた。これまで2度の大勝利を収めたポラニア王冠領軍が迎撃に当たっているとアナウンスがされても、完全にそれらを払拭する事は難しい。
 その状況を見て、信貴は思い至ったのだ。
 ――パニックが広がってしまうと自分が医療活動に加わっただけでは収集がつかなくなる。ならば、大人数の意識を自分に向ける事が出来れば不安の増大を抑止できるのではないか?
 とは言え、道具や環境の下準備が手軽で、いますぐ実行可能で、なおかつ目立つ為の手段になかなか心当たりはなく、信貴は首を捻ってううむと考えこみ、そして閃いた。
 ――あ! 子供の頃にコミックで読んだあれを今やったらどうなるんだろ?
 そのコミックはかなりスーパー寄りの格闘コミックで、当時の自分には超人としか想えない闘士達が闘い合う内容だったが、それに影響されたか拳法の道を進み、そして特異者として覚醒し、正しく超人レベルの戦闘力を得るに至った今なら、再現可能かも知れない。
「となれば、あとは実践あるのみだよね!」
 信貴はフロートバイクに搭乗して、超常感覚で、リーガのもっとも混乱し人通りの多い場所を探した。
「おっ、あの辺りかな?」
 スクランブル交差点の前の巨大なモニタに投影されるイレギュラー――その多くは人間の嫌悪を抱かせる昆虫や節足類のような形をしており、更には名状し難き、しかし恐怖をもたらす異型すら混じっている。モニタを注視する市民たちには明らかに動揺が走っており、中には怒鳴り散らす者や泣き出している者もいる。
 ――ああ言うの、わざわざ中継する事ないのに。
 真貴はその様に想いながらも、フロートバイクで群衆の中央へと器用に乗り込み、名乗りを上げた。
「私は真貴・ターナー、格闘家だよ! 今から皆さんに演舞を見せるから、こっちに注目してね!」
 何だ何だと、群衆の一部が真貴の方に注意を向けた。そこで真貴は、これまで会得してきた拳法の演舞を始める。まずは套路からだ。
 套路の流れるような動きに、群衆はどよめく。そこで信貴は実戦想定の技を繰り出してみせた。
 まずは螳螂拳。蟷螂のように腕を構え、想定した相手がパンチを繰り出すのを絡め取り、体勢を崩した所に連打と蹴りを打ち込んでいく。
 次は詠春拳。重心を低くしたステップで前へと踏み込み寸打を放つ。そこから想定した相手が反撃してきたのを想定して流す動作を行い、返す刀で肘打ちを打ち込み、そして腕を回し続けて連打を行う。
 最後は八極拳。極めて近接した敵を想定し、震脚と共に肘打ちを放つと、もう1回震脚を行い鉄山靠を振るって想定した敵を吹き飛ばす。
 これらの演舞は、スペシャリストとして磨き上げられた信貴の肉体美と、スペシャルゾーンを用いた演舞の精密かつダイナミックな動きに魅せられ、群衆が次第に真貴の方へと興味を引き始める。
 いつの間にか、誰かが気を利かせたのか、モニタの画面も真貴の演舞へと代わっていた。
 そして現在。
 真貴は、今回の演舞のトリとして、こう宣言した。
「拳法には動物の動きを模したものがあります。形意拳や象形拳というものですね。今から私は蛇の動きを模した蛇拳という拳法で体重100kgのカマキ……もとい、60kgの蛇と戦います」
 蛇拳VS蛇? どのような演舞になるのか、さっきまでの不安と動揺を忘れ去った群衆が、興味津々に眺める中、信貴は蛇拳の型を取った。
 その瞬間、観客たちは”見た”。腕を鎌首をもたげた蛇のように構える真貴の前に現れた、やはり鎌首をもたげ、とぐろを巻いた体重60kgの大蛇の姿を。
 そして現在。真貴は素早い腕の動きで大蛇を挑発し、大蛇の攻撃に合わせて素早く飛び去り構え直し、一転攻勢に出て大蛇の頭を痛打する、などといった演舞を、先の咆哮と合わせて行っていた。群衆の眼にはもはや大蛇が本物として映り、声援も飛ぶ。
「姉ちゃんがんばれー!」
「蛇なんかに負けるなよ!」
 そして。
 真貴の一撃が大蛇の頭を貫くと、群衆から歓声が上がった。
 彼等に向け、信貴は一礼する。その姿は、まさに武道の達人に相応しい物であった。



「みんな、倒した敵の数を数えておけよ。一番多かった奴には、俺が一杯おごってやる」
 星川 潤也は僚機のパイロット達に告げた。すると笑い声が起こる。
「雑魚も数に入れて良いんなら、俺達のほうが有利だぜ?」
「精々ご相伴に預かりますか」
「おい、それは俺がもらった」
 軽口を叩き合っているが、その後ろには緊張感が隠れている。自分もまた、そうだと潤也は想った。
「良い、みんな? 強い個体は潤也にまかせていいわ。みんなは雑魚の排除に専念して。そうすれば潤也も戦いやすくなるから。大丈夫、私の言う通りに闘えば勝てるわ」
 潤也を始めとするポラニア国内軍部隊を指揮しているアリーチェ・ビブリオテカリオは、軽口を持ってなお消えない緊張感を、理を説くことで解きほぐす。
「有難う、アリーチェ」
「ベベベ別にあんたの為に言ったんじゃないからね! イレギュラーを確実に始末する為なんだから!」
 素直に潤也に礼を言われ、ついツンデレの癖が出てしまうアリーチェ。すると潤也は真剣な表情で告げた。
「そうだ。イレギュラーをここから先には行かせない。必ずリーガの人たちを守って見せる」
「ああ! 俺達も精々頑張るぜ!」
「最善の健闘を、してみます」
「お嬢ちゃんの気持ち、たしかに受け取った!」
 ポラニア国内軍のパイロット達からも、アリーチェに向けてメッセージが送られる。アリーチェはその想いに応える為、そしてリーガを護る為、最善の指揮を取ろうと決意した。
 そして、潤也達の戦線でも戦闘が始まった。
 群れでやってくる数mの軟体生物型、百足型の小型個体の後ろから、メック級の大きさを誇る巨大蜘蛛型の個体が現れる。その数総数2千と、アリーチェは全方位索敵で把握した。異様な生物の大群という威容に、誰かがゴクリと固唾を呑む。
 だが、潤也はそれらの異型を見つめ、アリーチェの「戦闘開始!」という号令の直後、乗機”FFMEMK-I”を最大船速で突進させた。ポラニア国内軍の歩行戦車部隊もそれに続く。さらに潤也の【僚機】ハイサイフォス×2とアリーチェの指揮装甲車、そして【僚機】サイフォスキャノン×2の2個分隊が前進して行く。
 先手を取ったのはアリーチェだった。
「【小隊陣形】オールディレクション!」
 潤也達を追い越し、自らの式装甲車を中心に【僚機】サイフォスキャノンの2個分隊で全集防御姿勢を取り、あえて孤立したかに見せかけ、イレギュラーが包囲してきた所に全力射撃を行う。猛烈な砲火に晒されたイレギュラー達はポリゴンが割れるように分解していく。彼等が生命ではなくただの現象である証左だ。これにより、最前列にポッカリと穴が空いた。
 「まとめて打ち払ってやるぜ! キャヴァルリイストライク!」
 アリーチェが開けた空隙に、緋色のマントをはためかせた黄金のメック、”FFMEMK-I”はキャヴァルリィブレードを振るい、周辺のイレギュラーをまとめて吹き飛ばし、戦線の傷口を大きくしていく。
「くそ、こいつら数が多い!」
「それは前から判っていた事です!」
「やらせはせんぞぉ!」
 ポラニア国内軍のパイロット達も素早く前進し、小さくそして素早く動く異型相手に、先読みや【小隊体形】スパミングなどを用い、精密狙撃や広範囲射撃でイレギュラーを仕留め、戦線の穴をさらに大きくして行く。
 だが、イレギュラーは一旦引いて行く。アリーチェはその動きを見逃さず命じた。
「各機、この隙に弾倉を交換しなさい。30秒後に次の敵が来るわよ」
 アリーチェは敵味方の位置を索敵宝珠改による全方位索敵で的確に把握し、それを的確な指示に落とし込んでいた。熟練のコマンダーならではの熟達した指揮と言えよう。
「銃身も交換しなくちゃな。焼付きかねん」
「そうですね。補給機材は十分ですからやっておきましょう」
「とっととしろよ、すぐ次の敵が来るぞ!」
 ポラニア国内軍パイロット達は手早く弾倉・銃身交換を行うと、すぐさま配置に戻る。その間、白兵武装故に球切れの心配のない潤也は不測の事態に備え警戒を怠らない。
 そして訪れた第2波には、複数のメック級イレギュラーが混じっていた。
「こいつらは俺に任せろ! みんなは小型を頼む!」
 潤也が叫ぶと、三者三様の答えが返る。
「任せとけ! 雑魚を一番潰してあんたから酒を奢ってもらうのは俺だからな!」
「最善を尽くします。ご武運を」
「おい待て! 酒は俺のもんだ! とにかく頑張れよ坊や!」
 更にアリーチェも、ポラニア国内軍と反対側の方向に指揮装甲車と【僚機】サイフォスキャノン×2の2個分隊を突撃させ、全集防御姿勢を取る。
「本当に戦場は地獄だぜッ!」
「死中に活あり。地獄に仏ありです」
「アリーチェ観音様々って訳だ!」
 ポラニア国内軍パイロット達がどこで覚えてきたのか判らない仏教の知識をひけらかしながらも、アリーチェの指示により先制攻撃で数多くの小型イレギュラーを殲滅していく中、潤也は1対3の劣位に置かれてなお不敵な笑みを浮かべていた。
「ライズ・オブ・キャヴァルリィ!」
 メック級イレギュラーをいなしながら溜めた力で、1体をまず一刀両断する。無数のポリゴンとなって分解し消えていくそれには目をくれず、もう2体をそれぞれ視界に納める形で一旦引くと、まず1体が襲いかかって来た。
「――斬」
 襲いかかって来たメック級イレギュラーを再びライズ・オブ・キャヴァルリィで一刀両断にするが。
「!」
 残心の際に、襲いかかって来たのとは別のメック級イレギュラーが放った蜘蛛の糸のような高分子ワイヤで全身を絡め取られ、身動きが取れなくなる――と想ったが、キャヴァルリィマントをパージする事で、何とか罠から逃れられた。
「小癪なッ!」
 潤也は浸透してくる小型イレギュラーの始末を【僚機】ハイサイフォス×2に任せ、小癪な敵へと対峙する。蜘蛛型メック級イレギュラーは、技を繰り出す隙を与えないかの様にチョロチョロと前後左右に動き回り、潤也はそれを目で追うのに精一杯だ。
「くそっ、仕掛けるチャンスは……」
 ギリッと、潤也が歯噛みした所で、【僚機】ハイサイフォス×2が【小隊陣形】オフェンスシフトを取り、メック級イレギュラーに命中弾を浴びせる。大したダメージでなかったが、その一瞬の隙を見逃す潤也ではなかった。
「ライズ・オブ・キャヴァルリィ! 光になれーッ!」
 真っ向から振り下ろされたキャヴァルリィブレードに唐竹割りにされるメック級イレギュラー。その姿が砂のようにかき消えて行くのを見て、潤也はほっと一息付いた。
「アリーチェ、そっちは無事か?」
「オールディレクションでまとめて片付けたわよ。アンタこそ生き延びて良かったわね」
 ツンとした声音の中にも、ねぎらいの心が聞き取れる。
「有難う、アリーチェ」
「だだだだからそんなんじゃないってば! 勘違いしないでよね! あたしはただ、アンタがやられると戦線が崩壊すると想ったから」
「判った判った」
「判ってないぃぃッ!」
 アリーチェの悲鳴が、何もなくなった戦場に響いた。
 そう。イレギュラー2千5百体。それを潤也達とポラニア国内軍の兵士達は殲滅してのけたのだ。
「で、結局誰が一番多く敵を倒したんだ?」
「それは気になります」
「もしかして」
 ポラニア国内軍パイロット達はアリーチェを見る。
「あ、あたし?」
 どうやら、戦闘記録によるとその様だ。
「なら、アリーチェには酒はまだ早いから、ジュースを奢ってやる。ヴァージン・メアリーでどうだ?」
「子供扱いしないでよねッ!」
 アリーチェはぶんむくれたが、内心潤也達が全員生き残り、責務を果たせた事に満足していた。



「敵イレギュラー集団およそ2千を発見! これより迎撃行動を開始せよ!」
 バトルクルーザー級エアロシップ”プラーヴ・エクレール”に座乗するレベッカ・ベーレンドルフは、指揮下武隊に対して号令した。
 彼女達の部隊は特異者と志願兵のポラニア軍兵士からなる混成部隊である。レベッカが作戦前にアレクサンドラと掛け合い、ポラニア軍から桐ヶ谷 遥に付いていっても良いと感じる者を一時的に指揮下に加える事となったからだ。
「これは特異者だけではなく、ポラニア人が国土と民人を護る為の闘いだ。ならば、協力して事に当たるべきだろう?」
 レベッカの意見にアレクサンドラも同意し、ライトキャリアー級エアロシップ1隻及び、戦闘機”ヴィフラ”と歩行戦車”フサリアL”それぞれ1個中隊がポラニア側からレベッカの指揮に入ることになった。
 レベッカは戦闘機部隊を自身の指揮下に入れ、歩行戦車部隊はアルフレッド・エイガーの指揮下に置いた。そして、【空戦術】戦速増加でイレギュラー集団の進行方向へと高速で前進し、全方位索敵でイレギュラー集団の位置と隊形を把握したのである。
 彼女は敵の各個撃破を狙っていたが、イレギュラーは4つの集団に広く分かれ並行進撃しており、横合いから突いても各個撃破は困難と判断。直近のイレギュラー集団、約2千と対峙することとした。
「大型がやけに多いな」
 艦橋でレベッカは呟く。数は約300。大型個体のおよそ6割がこの集団に終結しているようだ。
「まさに主力と言う訳か……期せずして狙い通りにはなったが……」
 彼女が考え込んだ所に、遥から通信が入った。
「大型はわたしに任せて。必ず撃滅してみせるわ」
「だが数が多いぞ?」
 レベッカの懸念に、遥は凛として告げる。
「この”クラウソラス”と、味方の連携、そしてわたしの意志の力があれば、どんな逆境でも覆せるわ」
「――なるほど、この世界は意志の力がヒトの力になる世界だったな。任せる。しかし必ず生きて帰れよ」
 その様にレベッカは告げ、遥に大型を任せる事とした。
「はるにゃんが大型に専念してくれるならオレも助かる。さてと――」
 アルフレッドは指揮下のポラニア軍歩行戦車部隊に告げた。
「こいつは人間同士の殺し合いじゃねぇ! 家族を、友人を、仲間を守る戦いだ! 遠慮はいらねぇ、全力で叩き潰してやろうぜ!」
 その決起の号令は、指揮下のポラニア軍パイロット達の心に響いた。
「無論だ! やってやるぜ!」
「俺達の故郷、リーガをやらせはしない!」
「イレギュラー共を殲滅だ!」
 口々に闘志のこもった声が上がる。
「よし、野郎共、降下開始!」
 アルフレッドの号令に従いポラニア軍浦項戦車部隊が降下開始するのと同時に、一際目立つ巨体を誇る”クラウソラス”が降下していく。
「空戦部隊、地上部隊を援護しろ! こちらは敵の足止めを行う!」
 レベッカの号令とともに戦闘機部隊が加速し、空を飛ぶ蝙蝠型イレギュラーの群れへと突進する。一方”プラーヴ・エクレール”は中口径三連装魔力砲2基に魔力砲用焼霞弾を装填し、セキュルーションにより敵集団の足止めを行う。イレギュラー集団の先頭に着弾した焼霞弾は周囲に大火災をもたらし、その威力によりイレギュラーは足を止めた。
 そして、戦闘が始まった。
「はるにゃん、大型は任せた! 突破口を啓くぜ!」
 アルフレッドは小型イレギュラーの蝟集している部分をレベッカの的確な誘導により捉え、その後方を進んでくるメック級イレギュラーを【僚機】EWACプギオ【C】2機により正確な位置を把握し、そこへの突破口を啓くべく、【ZOC】オフサイドトラップで敵の出鼻を挫き、更には【小隊陣形】オフェンスシフトにより先制の一撃を叩き込んだ。たちまち、蝟集していた小型イレギュラー群がポリゴンが割れるように分解していく。
「敵は脆いぞ! 気後れせずにどんどん弾を打ち込んでやれ!」
「応!」
 アルフレッドの威勢の良い言葉に、ポラニア軍パイロット達も元気よく反応する。
 そして、彼等が開けた突破口へと遥の”クラウソラス”が、ホーミングミサイルを牽制打にしつつビームガトリングガンを連射しながら、スラスターを全力噴射しホバリングで突入。突然の事で対応が遅れたメック級イレギュラー数体をまとめてデュアルビームソード2刀流のブレイドダンスで葬り去る。メック級イレギュラーが煌めきと共に崩れ去る中で剣舞を舞う”クラウソラス”は、まさに伝説の武神の如き姿に見て取れる。
「まだまだこの程度じゃ済まないわよ!」
 トランスユニットとラウム・テスタメントによりサイコフュージョンとサイコデュレーションの力をトランスヒューマン規格を超えて引き出している遥にとって、体感時間は引き伸ばされており、メック級イレギュラーは殆ど停止しているかに見える。その分消耗は激しいが、それを補って余りある戦闘での優位を遥は確立していた。
「よし、はるにゃんが大型を全部やっつけてくれる! こっちは小型を撃ち漏らすな!」
 アルフレッドは、焼霞弾で起こった火災を避けて2方向から進軍してくる小型イレギュラーの群れに向け、各個撃破の体制を取った。【ZOC】オフサイドトラップにより片方の群れの出鼻を挫きつつ、もう片方の群れに【小隊陣形】オフェンスシフトで猛打を浴びせる。アダマンチウムビームマシンガンやビームライフルの閃光が無数に走り、地上を這う小型イレギュラーが小さな群れの単位で粉々に砕かれていく。
 そしてレベッカは、アルフレッドに呼応する様に、【ZOC】オフサイドトラップで動きが鈍っている集団に対し、中口径三連装魔力砲2基から焼霞弾を発射。猛爆撃を受けた小型イレギュラー集団は瞬く間に粉々になり数を撃ち減らしていく。これにより敵小型イレギュラー集団は双方とも大損害を被っていた。
 一方、レベッカの指揮する戦闘機部隊はその加速力で、羽ばたくしか推進手段のない蝙蝠型イレギュラーを手玉に取り、次々と打ち砕いていった。空戦は多数が少数より圧倒的有利とは言え、レベッカの卓越した指揮と”ヴィフラ”の性能は、その不利を補って余りある物だった。
 その頃、遥は残るメック級イレギュラーに自分の総てをぶつけていた。人機一体の境地に達した彼女は、目にも留まらぬ速さでメック級イレギュラーを倒していく。同様の境地に至らなければ、遥がどのような動きをしているか、動体視力が追いつかないであろう。ニューロエイジを極め、ラウム・テスタメントでそれを超える事により、遥は前人未到の境地に達していた。
「これで30!」
 最後のメック級イレギュラーを倒した遥は、全力を使い切って息を切らす。サイコデュレーションもサイコフュージョンも解除され、世界は元通りの時間を刻んでいる。額に流れる汗を拭い、遥は後方の小型イレギュラー集団を見つめた。
「おーいはるにゃん、こっちも片付けたぞー!」
「はるにゃん呼ばわりするな!」
 アルフレッドの呑気な声に、思わずそう返すが、声に力が入らない。ずっしりと疲労がのしかかってくる。
「あれれ元気ないな。まああれだけの大立ち回りを演じたんだ。帰ったらゆっくり休めよ」
「言われなくてもその積りよ。だけど、本当に敵集団を殲滅したの?」
 遥の問いに、アルフレッドは頷く。
「そうだ、キミと、オレ達の力でな。キミがこれまで見せた”異邦の騎士”の”意志の力”と”連携の力”でもって、意思もなければ連携もないイレギュラー達をやっつけたんだ。ポラニア軍も、これで更に意思と連携の力を理解するだろうよ」
 ふ、と、遥は微笑んだ。
 ――自分がやってきた事は無駄ではなかった。確かに伝わり、そして広がっている。
 その満足感を噛み締めながら、眠りに落ちかける遥に、レベッカの鋭い号令が掛かる。
「敵イレギュラー集団を殲滅。全機、母艦に帰投せよ」
 そして遥とアルフレッド、そしてポラニア軍パイロットに対し、レベッカは一転優しく告げた。
「みんな、ご苦労だった。1機1人たりとも失わず、敵の主力集団を叩けたのは大成果だ」
 レベッカの労いの言葉を受け、ポラニア軍パイロット達が一斉に口笛を吹き、そして喜びを顕にする。
 遥は微笑み、そして”プレーヴ・エクレール”へと帰投するのだった。
 一方、レベッカは完全勝利に胸を撫で下ろしていた。ひとつでも間違えば、犠牲が出るかもしれない大軍勢だったのだ。遥の奮闘とアルフレッドの援護がなければ、恐らくそうなっただろう。何よりも味方の犠牲を厭う彼女ならではの感情だった。
 それ故に。
「感謝するぞ、遥、アルフレッド」
 レベッカはそのように呟いた。

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