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【テスタメント】”天秤”の論理

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【テスタメント】”天秤”の論理
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グロム発見・青天の霹靂


 先日ポラニア連合王国軍から離脱し、南溟へと姿を消した戦略打撃潜水艦”グロム”の捜索の為、”ポラニア親衛騎士団”とポラニア王冠領軍、そしてポラニア艦隊は徹底的な捜索を行っていた。艦長マティウ・トレスキ大佐の”ピラー”破壊声明を受けてからは一層のことだ。
 しかし、未だに手がかりは掴めず、アレクサンドラとその部下達、そして特異者達は焦りをあらわにし始めていた。



 時間はやや遡る。
「確かに、ポラニア国内軍と”グロム”は密接な協力関係にあった。だが、今どこにいるかは、私には見当が付かん。今、国内軍の”グロム”担当官――元海軍所属の者を連れてくるから、それまで待ってくれ」
 ポラニア国内軍司令官、ヨシップ・ズロブトー今井 亜莉沙に告げた。
 亜莉沙がこのような行動――ポラニア国内軍からグロムの現在位置を聞き出すという手段に出たのは、”グロム”を止め、人工神格レーゲルの破壊の付帯的被害である死傷者1千万人という自体を防ぐ為である。彼女はその被害自体と、それによって引き起こされるであろう新たな憎悪の連鎖による戦争の激化を懸念していた。
 しばらくして、ポラニア連合王国海軍の制服を着、制帽を斜にかぶった若い男が現れる。
「ヨシップ親父――いえズロブトー将軍から事情は聞きました。現在のグロムの推定位置ですが、おおよそこの辺りかと」
 テーブル上に惹かれた海図の一点を指し、彼は告げる。
「その根拠は?」
 亜莉沙が聞くと、海軍士官は自信ありげに応えた。
「”グロム”の超大型レールガンの射程はポラニア連合王国軍も把握していますが、彼等はトレスキ大佐の砲術家としての技量を過小評価しています。あれは神業ですよ。ですので、想定射程半径内の外側で、なおかつ海流などが安定しているこの海域が”グロム”の潜伏座標だと想われます」
「射程延伸ができるってどういうことなの?」
「ラウム・テスタメントですよ。彼はゼネラルです。しかも精強な。そして砲術の神様でもある。ならば、射程延伸で”ネメシス”の到達距離を伸ばし、なおかつ一撃で人工神格レーゲルに命中させることも可能と言う事です」
 得意満面そうに告げる海軍士官に苛立ちを覚えながらも、亜莉沙は貴重な情報を得たことに感謝した。
「判ったわ。フィグネル大将にはその様に報告しておくわよ。貴方の推測が正しい事を祈るわ」
 亜莉沙は早速アレクサンドラの旗艦”ペルーン”へと向かい、その情報を提示した。
「なるほど、道理でポラニア海軍がいくら探しても見つからなかった訳か。その座標を中心に、改めて捜索を行うよう命令する。有難う、亜莉沙」
 ファーストネームで気安く呼ばれ、亜莉沙は動揺したが、同時に”この女たらしが……”とも思うのであった。
 そして現在。
 亜莉沙の情報により修正されたポラニア海軍の捜索により、”グロム”のおおよその位置を確定することに成功した”ポラニア親衛騎士団”は、発見の為に更なる緻密な捜索を行った。しかしその間多くの時間を費やした為、発見までの猶予は24時間を切っていたのである。

 アンフィビアスアサルト級エアロシップ”メインクーン”の艦長である叉沙羅儀 ユウは、メインクーン隊所属の”ヘビークルーザー級エアロシップ”に座乗するミラ・アーデットに命じ、”グロム”の正確な位置を突き止めようとした。
「頼んだわよ、ミラ」
「判っておる、ユウ」
 信頼がうかがえる短いやり取りの後、ミラは全方位索敵を展開する。するとかすかに、”グロム”と思しき反応があった。しかしまだ方向だけしかわからない。
「変温層の上か下かも判らぬ。まずはより精査が必要じゃな」
 ミラは試製索敵メガリスをその方向に送り込み、より正確な探知を行おうとした。ミラは試製索敵メガリスからの情報を、、”メインクーン”に乗り込むラーナ・クロニクルとファストオペレーションで情報を共有し解析していた。具体的にはアレクサンドラがポラニア海軍から取り寄せた海流情報や変音域の深さ等のデータを取り込んで、より探索の精度を増している。
 同時に、バトルクルーザー級エアロシップ”リュッツォウ”に座乗するSAM0000575#土方 伊織}もグラーフ・シュペーと共に全方位索敵を実施。グラーフのシンフォニック・タクトから同様の反応を得たため、【僚機】試製索敵メガリスと【僚機】ホーネット・アサルト改を向かわせる。
 その頃アデル・今井は、エア・クッション型揚陸艇”ACVケルキラ”に座乗し、亜莉沙と共に”グロム”を捜索していた。今回は敵が”グロム”単体なので、探信宝珠のアクティブソナーを遠慮なく打ち放していく。すると、やはりかすかにエコー音を拾えた。ただし、変温層の上か下かで距離が変わるので、実際その方向に進みながらアクティブソナーを打ち続けなければならない。
『ちょっとアデル! うるさいわよ!』
 連続する大音響ソナー音を、”ACVケルトラ”の下で直接機体越しに聞くことになった亜莉沙から苦情が届くが。
「”グロム”発見の為です。我慢して下さい」
『判ったわよ。我慢するから、出来るだけ早く”グロム”を見つけて』
「承知してますとも、姉様」
 アデルは冷静な表情で告げた。しかし内心では、”グロム”が人工神格レーゲルを破壊した後の第3勢力化、世界の脅威となることを懸念し、一刻も早く発見せねばと逸る心を抑えていた。
 そして待つ事数時間。ついにミラとグラーフ、そしてアデルは、ほぼ同時に”グロム”の位置を特定した。
「”グロム”を発見したのじゃ。直ちに全軍に連絡して総攻撃を開始するべきじゃのう」
「伊織さん、”グロム”の艦影らしき反応を強く捉えましたわ」
「この巨大な艦影、間違いなく”グロム”です。全軍に連絡しつつ、ソナーでの追尾を行います」
 3人の言葉にユウと伊織、亜莉沙は応える。
「判ったわ。そちらからも攻撃を開始して」
「はわわ、すぐそちらに向かうのです」
「追尾は危険な仕事だから頑張って。あたしは”グロム”本体を討つわ」
 そしてミラは【僚機】プレゼントボマー×3で”グロム”へと対潜爆弾を投下し、亜莉沙は乗機”X・クレイモア改”を駆りアクアパックで潜水して行った。対”グロム”戦の本番の開幕である。
 これに対し、”グロム”はその巨体に似合わぬ高機動で対潜爆弾を避け、”X・クレイモア改”に対しては護衛潜水艦である小型無人SSVをハッチから発進させて迎撃する。
「小型潜水艦――早い!」
 亜莉沙は敵小型潜水艦の速度に驚愕しつつも、発射された魚雷を磨き抜かれたサクセサーの力で避け、アクアパック標準装備の魚雷を発射。敵小型潜水艦を1隻撃沈し、更なる目標的を求めて前進する。
『姉様、敵小型潜水艦に狙われています。援護を』
 アデルの”ACVケルトラ”にも敵小型潜水艦が1隻追尾してくる。敵小型潜水艦が”ACVケルトラ”に向かい魚雷を2発射出するが、アデルは”ACVケルトラ”の高機動を生かして回避し、”グロム”の追尾を諦めない。しかしそれは敵小型潜水艦の脅威ともなるという事で、先程の通信と相成ったのだ。
「了解、あなたの救援に一旦向かうわ」
 亜莉沙は”X・クレイモア改”をアデルを追う敵小型潜水艦に向け前進させ、魚雷を射出する。魚雷の航跡は見事に敵小型潜水艦を追い、命中とともに爆発と轟音が響く。
「有難う姉様」
「姉妹だからね。それでも有り難いと思うなら毒舌は慎みなさい」
「それは出来ません。性癖ですから」
「あなたの性癖、歪んでるわね……」
 亜莉沙は苦笑を浮かべながら、”グロム”の方向へと”X・クレイモア改”を向けて前進する。
「他の仲間が”グロム”艦内に潜入するって言うから、ここはひと暴れするわよ!」
 亜莉沙は浮上しつつある”グロム”の艦腹に取り付くと、ハイパー・ビームリボルバーを零距離で撃ち込み、溶融した部分にシュテルネリヒターを突き立てる。その為、シュテルネリヒターは”グロム”の2重艦腹を易々と貫き、大量の水泡を発生させる。
「どう? これでこっちを無視出来なくなったでしょ?」
 不敵に言い放つ亜莉沙は、次の瞬間水泡に包まれ、”グロム”から振り落とされた。
「メインタンクブロー!? こいつ、浮上する積り!?」
 亜梨沙はコクピットで驚愕の声を上げる。だが、これは好機だ。仲間が潜入する隙が生まれる。亜莉沙はグロムの余剰浮力を減らす事と敵小型潜水艦を引き付ける事を目論み、再び”グロム”を追った。だが、グロムは思ったより高速で、味方のいる方に追い込むのが精一杯だ。
「後は頼むわよ……」
 追撃を続けながら、亜莉沙はその様に思うのだった。
 その頃、ユウはイリヤ・クワトミリスフレイヤ・アーネットの”プギオ【C】”と”プギオSU【C】”を発進させた。
「”グロム”はアクアパック装備メックと同等の速度を持っているけれど、機動性はそこまではないわ。それを利用して、味方部隊の方向に追い込んで。もちろん迎撃が出てくると思うけど、それを削って本体攻撃の手数を増やすのが目的よ」
「了解」
「了解ですわぁ」
 ユウの指示に、ふたりは応える。そして発信後、アクアパックで”グロム”の側方を突いた。
 当然、敵小型潜水艦が迎撃に出る。これはアクアパック装備メックより早く、機動性もある為、相当の難敵だ。
「! 来る!」
 イリヤの後ろに回り込み、MHD推進で音もなく急接近してくる小型潜水艦の気配をラウム・テスタメントにより気取った彼女は、MEC制動で素早く機体を動かし、敵の魚雷発射前に魚雷を発射する。それにより攻撃タイミングを見失った敵小型潜水艦が回避行動を取るが、魚雷を避けきれず、爆発轟沈した。
「だけど、これでは済まさないわよ」
 イリヤは浮上しながら換装パーツ『ウェポンチャンバー』を開く。そこには対潜ミサイルランチャーと予備弾倉が格納されていた。
「対潜ミサイル1番、3番、2番、4番発射!」
 号令一下、4発の対潜ミサイルがコールドランチされ、点火して水面を突き抜けミラとアデルが探知している目標――すなわち”グロム”と小型潜水艦にそれぞれ2発飛んでいく。空中の然るべき一点でブースタを切り離し、落下傘を開いて弾頭部が水面へとゆっくり落ちていく。水面に着水した段階で落下傘は切り離され、弾頭部の魚雷が高速で至近距離の”グロム”と小型潜水艦2隻へと突き進む。
 当然、こうした攻撃は探知されやすいが、魚雷に追尾されている側としては逃げの一手を打つしか無い。グロムはマスカーとデコイを大量にばらまき、かろうじて難を逃れるが、機動性と攻撃力に全振りしている小型潜水艦はそんな便利な物はない。自らの機動力で避けようとするが、至近からの不意打ち同然の攻撃ではそれも不可能だった。
「これで、3隻」
 爆沈する2隻の小型潜水艦の爆音をソナーでキャッチし、モニタから反応が消えたのを確認してイリヤは呟く。
 この段階で残る護衛の小型潜水艦は3隻だが、うち1隻をフレイヤがウェポンライドした。
「さぁさ、可愛い子ちゃん、言う事を聞いてよねぇ」
 小型潜水艦はフレイヤの思い通りに動き、残る護衛潜水艦2隻に向けて魚雷を発射。1席は回避するが、残る1隻は回避に失敗する。しかし爆沈の寸前、フレイヤの”プギオSU【C】”に向けて1発、フレイヤの操る小型潜水艦に向けて1発魚雷を発射した。
「あらあら悪い子ねぇ。さてと、回避をするわぁ」
 ディレイアヴォイドで敵の予想攻撃範囲を見定めたフレイヤは、辛うじて至近距離でかわす事に成功するが、近接信管が作動し爆音と衝撃が”プギオSU【C】”を揺さぶる。しかし、サイコバリアを展開していたおかげで損害は軽微だ。
「危なかったわぁ……って、可愛い子ちゃんが撃沈されてるじゃない!」
 袖触れ合うも他生の縁、短い間だったが付き合いのあった小型潜水艦の損害に、フレイヤは少しだけ心を痛めた。
 イリヤとフレイヤの攻撃で、”グロム”は味方の大部隊が展開している方向へと進路を変更した。迎え撃つのは、アレクサンドラの旗艦”ペルーン”他エアロシップの大艦隊と、大規模メック部隊がである。
「ここで”グロム”を浮上させる。沈まん程度に攻撃を行え!」
 アレクサンドラは凛々しく号令した。

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