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【アルカナ】神に捧げる聖殺

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【アルカナ】神に捧げる聖殺
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「大昔、アルカナを欲した愚かな人間たちが戦を起こしてたときも、アルカナ自身が発端となったことはなかった。
 そりゃアルカナも人間だからね、考え方の違いやなんかで衝突することはあったさ。でも、個人のけんかの範囲を超えることはなかったよ。特に近代になってからは、みんな意識してアルカナの力は使わなかったし、そのせいか力がだんだんと弱くなってきているような気さえしてたんだ。少なくとも書物に書かれているような、偉大な力って感じはなかったね。
 こんなの、ただの名誉職。当番制の役目だって、先代の審判はよく言ってたしねえ。あの子はほんと、お気楽娘だったけど、まあそんなもんだったよ、アルカナなんて」
 世界のどこかでアルカナが死ぬか、権利を放棄したら次のアルカナが生まれる。アルカナは世界にあって当たり前のものだから、その者も「ああ、自分の番なんだな」と思うくらいで、「この力で世界を牛耳ってやろう」とか「オーダリーを皆殺しにしてやろう」なんて考えたりはしなかった。
ケアティックアルカナの数が多ければ、星の王ケアティックになり、世界はちょっぴりケアティック寄りになる。オーダリーが多ければ星の王オーダリーになり、世界はオーダリー寄りに。
 要はバランスなのさ。別にたいしたことじゃない」
「じゃあどうして今こうなってるんや?」
「あの御方がそう望まれたから、だろうねえ」
 あの御方――つまり、ケイオスか。新たな星の王を名乗る男。
「そもそもがアルカナ星の女王を追い詰めることに手を貸すなんて、聞いたことがない。あたしには今でも考えられないことさ」
 タヱ子は少し考えこみ。『星の子と22人のアルカナ』という絵本について話した。
星の子から剥がれた光がアルカナなんですよね?」
「そう言い伝えられているね。かなり昔に、星の王が詩人に話した内容だとか」
「下巻の内容をご存じですか?」
 その問いに、隠者は片方の眉を上げて関心深そうな表情をした。
「あれに下巻があることを知ってるのかい?」
「1000年前の幽霊船に上巻だけあったんです」
「1000年前か。なるほどなるほど」
 隠者は、「さてどう答えようか」とでも思っているような素振りの後、こう答えた。
「下巻なんて、ほんとはなかったんだよ」
「えっ!?」
「少なくともあたしが知る限りではなかったね。初版が出たとき、本は1冊だったはずだよ。いつからか話が付け足されて、それが下巻とされるようになってた。そう、ちょうど1000年と少しくらい前だったかもしれない。
 でも、絵本としてはちょっと内容がアレだったんでね。出た当時はケアティックの時代だったから、まあちょっと過激なくらいは容認されてたようだけど、時代がオーダリーになって、子どもの教育上良くないってことで星の子がわれわれの元へ降臨されたところで「おしまい」とすることにして、結果的に元に戻ったってわけさ。
 今では下巻があったこと自体知ってる者が少ないくらいだからね、ちょっと驚いたよ」
「ほー。けど、それも変な話やな。作者はほんとにわからへんのん?」
「さてねえ、ずっと昔の話だからねえ。アルカナの誰かだったとも言われてるけど、本当かは今になっては誰にもわからないね。星の子も、新しい人の肉体に入ると前の記憶は忘れてしまうらしいからね。今の状態が特殊なんだとディアさまはおっしゃってたよ」
「それで、下巻の内容なんですが……」
「ああ、ごめんよ。ちょっと脱線しちゃったね。
 下巻……下巻ね……」
 隠者は記憶を探るように、視線を上へと向ける。
 あるいはこのとき。彼女は先々について計画していたのかもしれない。あとになってタヱ子と泰輔はこのときのことをそう振り返る。しかしこのときはそのことに気付けておらず、隠者の邪魔をしないよう、黙って話の続きを待っていた。
「あたしも読んだのはかなり昔のことだからね、概要くらいしか話せないけど、たしかこんな話だったと思う」

 隠者が話した内容は、こうだ。
 地上の人々は光の精霊――星の子の降臨を歓迎した。星の子は賢く、思いやりにあふれ、彼らにさまざまな恩恵を与えた。それによって人々は団結し、頭脳と精神、文明を発達させていった。彼らは、自分たちに恩恵を与えた星の子を崇拝し、自然と星の子が彼らの統率者となり、先導者となっていった。
 星の子星の女王となり、後の世にアルカナと呼ばれる22人の側近たちの中からつれあいを選んだ。
 その後、星の女王は1000年ほど生きて、5人目の伴侶の子を産むと亡くなった。人々は彼女の死を大いに悲しみ、そして彼女の残した星の子アルカナたちとともに大切に育てた。
 その星の子もまた数百年生きて、子を成すと亡くなった。その次の星の子も同じだった。
 そうして地上の人々に混じって数百年、数千年と生きていく彼女を、ただ1人、見守る者がいた。
 小さな星である。
 小さな星は最初のうち、星の子の願いが叶ったことをとても喜んでいた。星の子がみんなに囲まれてうれしそうに笑っているのを見て、本当によかったと思っていた。
 だが何百年、何千年と過ぎていくうちに、だんだんと、暗い影が心に差し込むようになる。

   もういいでしょう? もう十分満足したでしょう? 戻ってきてもいいんじゃない?
   神様はわたしの友達がほしいという願いを叶えて、きみを与えてくれたのに。
   友達がほしい気持ちがどんなものかを知ってるきみが、どうしてわたしにこんな寂しさを味あわせるの?

 一度そんな疑念が生まれると、もうだめだ。消えない。あんなにも見られてうれしかった、星の子が幸せそうにしている姿すら苦痛に感じるようになる。星の子の周りにいて、笑っている人間たち。常に星の子の傍らにいる22人すら憎くて憎くて……。
 小さな星は憤激し、神様に訴えた。

   どうか星の子を連れ戻してください。それがだめなら新しい星の子をください。

 しかし神様は「願い事は1つだけ」と、小さな星の訴えを退けた。
 小さな星は絶望し、こんなひどいことってないと、泣いて、泣いて――人間たちに囲まれて笑っている星の子星の子を囲んで笑っている人間たちを見て、さらに孤独を深めた。それは星の子をもらう前よりずっと深い孤独だった。星の子のいる喜びを知ってしまった後だったから。

   忘れないで、星の子。きみはわたしのものなんだ。
   彼らのものじゃない。
   決して。

「――それから小さな星は……」
 隠者はそこで言葉を途切れさせた。思い出そうとするように目を閉じて、むーっと唸る。
「それからどうしたんです?」
「どうしたんだっけね。思い出せないねえ。何しろ、数十年前に読んだっきりなんでね」
 すまないねえ、と謝る隠者に、自然と前のめりになっていた泰輔は背もたれに背を戻し、頭を掻く。
 肝心の部分が結局わからずじまいだが、思い出せないものはしかたない。
「1000年くらい前か……。元節制はんなら知っとるかな」
「私が訊いてこよう」
「頼むわ」
 立ち上がり、広間を出て行く顕仁の耳に、泰輔の声が届く。
「そんで、アルカナって結局何なんです?」

「さてね。あたしもこのしるしを額にいただき、アルカナと呼ばれるものの端くれではあるが、アルカナの意識も記憶の継承もあるわけじゃないからねえ。
 ただ、教皇によると、高位の精霊ということだね」
 


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