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【アルカナ】神に捧げる聖殺

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【アルカナ】神に捧げる聖殺
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 リュクスがあてがわれたのとは別の治療室(大部屋)では、元気になった女海賊たちが早くもばたばたと退室準備を始めていた。
 苦しんでいた昨日と180度違うその様子に納屋 タヱ子は驚く。
「やあ、タヱ子さん。見舞いにきてくれたのかい? うれしいねぇ」
「皆さん、起きていて大丈夫なんですか」
「元気も元気! ほらこのとーり!」
 力こぶを作ってわははと笑う。
 血色のいい肌。包帯やガーゼは取り払われて、痛みを我慢している様子もない。曇りのない笑顔に本当に復調したようだとタヱ子も判断した。
「よかった」
「あんたたちの治療のおかげさ。あれがなかったら今もベッドでウンウン唸ってただろーね」
「船長があとであらためて礼を言いに行くって言ってたよ」
「エレミヤさんたちに伝えておきます。
 それで、ミスティさんは?」
「あっち」
 部屋の隅を区切る衝立を指す手に従ってそちらへ行き、「失礼します」と断って回り込む。そこにはミスティだけでなくクリスティアノスの姿もあった。
 ミスティの手には携帯が握られている。
「オロノア号と連絡していたんですか」
「ああ。小島を中心に付近を捜索していたが、まだレダは見つからないそうだ。
 あのとき、海へ放り出されたのを見たのが最後だったからね、もしかしてと思ったんだが……」
 ミスティにもクリスティアノスにも、そのまま沖に流れてくれているんじゃないか、との期待があった。そのほうがまだケアティック側に捕まるよりずっとマシだ。
 だが現実は甘くない。
 ミスティは、はーっと重い息を吐き、何度もそうしたからに違いない、くしゃくしゃに乱れた髪を指で梳き上げた。
「小島の砂浜で、半分砂に埋もれたレダのジャカードの破片が見つかった」
「ジャカード?」
「武装機巧だ。あの子が右腕に付けてる」
「ああ……」
 あの巨大な戦輪を操るガントレットか、とタヱ子も思いあたった。
「あの子が立っていた場所からは離れてる。あたしたちがいなくなった後、やつらに海から引き上げられたんだろう」
 レダは正義だ。見逃してもらえるはずがない。
 連れて行かれたとして、考えられる場所はケイオスの城、魔術師の城、あるいはその領地のどこかが有力だ。
「とにかく、荷物がまとまり次第、あたしたちはここを出て西の海岸へ向かう。そこでオロノア号のみんなと合流して、一度F.O.G.へ戻る。仲間がもっと有力な情報をつかんでいるかもしれないし、ケアティックアルカナにけんかを売るなら、それなりの許可と準備が必要だ」
「……わたしは、ここを動けん」
 クリスティアノスは葛藤のにじんだ低い声でつぶやいた。
「わかってるよ。しかたないさ。あんたにはあんたの責務がある。
 あの子は大丈夫、ちょっとやそっとのことじゃくじけない子に育ってる。もう立派にF.O.G.の女さ。そしてF.O.G.の女はね、団結力が強いのさ。決して仲間を見捨てたりしない。絶対にあの子を見つけて取り戻すよ。約束だ」
 クリスティアノスの広い肩に両腕を回し、ミスティは抱擁で彼を慰めた。
「ミスティさん。わたしも連れていってもらえませんか」
 タヱ子の申し出に、ミスティは「え?」と驚く。
「そりゃかまわないけど……あんた、ほんとにいいのかい?」
「わたしもレダさんが心配なんです。
 クリスティアノスさん」
 タヱ子はクリスティアノスの金色の目をまっすぐに見上げた。
 どこも似たところのない2人だと思ったが、このまっすぐな気性に、やはり親子だと思う。
 2年前のあの日。あとほんの少し早く光城に到着できていたなら、先代正義も救えていたのだろうか。そうしたらこの人は最愛の女性を失って傷ついたままの心を抱えこんだりせず、レダは母親と長年のしこりを解いて父親のことも教えてもらえたり、クリスティアノスと親子の再会を果たせていたのだろうか。
 もう取り返しのつかないことを考えたところで得られるものなどないが、それでも、思わずにいられない。
「きっとレダさんを無事に取り戻してきます。わたしを信じてくださいますか」
「…………ああ、頼む」
 クリスティアノスとタヱ子は約束の握手をかわした。
「よし。じゃあさっさと荷作りをすませてしまおう。隠者に礼を言ってるころには作戦に出て行った者たちも戻ってくるに違いない。あんたも仲間たちの報告を聞いてからのほうがいいだろ?
 出発は夕刻だ」
「わかりました」
 準備のため、タヱ子は治療室を出た。
 
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