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【アルカナ】神に捧げる聖殺

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【アルカナ】神に捧げる聖殺
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 砂埃を巻き上げて、隣国アル=アフディルとの国境へ向かう輸送トラックが数台。
「あれですね」
 シーナ・ロンベルクは借りていた双眼鏡をノー・ウェアの人に返すと身を潜めていた砂丘で立ち上がった。
「それでは私は定位置につきたいと思います。よろしくお願いします」
「ああ。手を貸してやりたいが、人手が足りない。誘導はシーナさん1人にさせることになってしまうが、よろしく頼む」
「心得ています。どうかこちらのことは気にしないで、ご安心ください。
 ご武運を」
 シーナはぺこりと頭を下げて、その場から姿を消した。
「さあ、いよいよ戦闘開始だ。
 といっても、目的は奪還で殲滅じゃない。事がすんだら速やかに撤退しよう」
 カルの言葉にチャスたちがうなずく。カルもうなずきを返し、砂埃除けのゴーグルを目元に引き下ろして戦闘用バイクのエンジンをかけた。


 ふわあ、とケアティックアルカナ悪魔ことカイは、先頭を走るトラックの助手席で大あくびをする。
 退屈だった。女子どもを食いものにするような連中と話が合うとは思えないし、話をしようという気も起きないが、それにしたって退屈すぎる。景色はどれも砂、砂、砂。たまに立ち木があるくらいで、何の代わり栄えもなく、見ていて楽しいものでもない。
「あー、くっそ。どうせ暑いなら碧海のリゾートとかで寝っ転がって、水着姿の美女を眺めていたいもんだぜ」
 ターコイズブルーの海を眺め、パラソルの刺さったトロピカルドリンク片手によりどりみどりのナイスバディの美女たちにご奉仕してもらうなんて、サイコーじゃないか?
 ところが現実は、砂埃にまみれて暑さに我慢しながら狭い車内でクズどものお供ときている。
 まったく。仕事でもなきゃとっくに放り出してるぞ、こんなこと。
 ますます座席に深く沈み込み、顔に乗せたテンガロンハットの下でぶつぶつ文句を垂れ流していたが。突然バックミラーに映り込んできたバイクの影に、にやりと笑った。
「そうこなくちゃな」


 背後に迫る戦闘用バイクの存在には、護衛トラックに乗る組織の男たちも気付いていた。
 ここは国境に続く一般道だが、あんないかにもないかついバイクに乗る者がこの国の一般人であるはずがない。
「しかも、ピストルを持ってるときてやがる」
「国境の警備兵、ってこともねぇか。おれたちはフリーパスだからな」
「どこの組織の者か知らないが、たった1人とはなめられたもんだぜ」
「俺たちの金ヅルを奪おうってんなら容赦しねえ」
「やっちまえ!」
 荷台を覆っていた幌が開き、そこから銃口が見えたと思うや銃撃が始まった。
「問答無用かよ。いや、予想はついてたけどさ」
 小銃による連射を蛇行で避けながら、カルもピストルで応戦する。蛇行するバイクから、しかも片手なので精密射撃は不可能だったが、当てることが目的ではないので問題ない。
 敵の銃弾はバイクにも当たったが、バイクはびくともしなかった。
 そうしてしつこくチェイスをしたところで、被弾したふりをして速度を落とし、バイクを転倒一歩手前のように頼りなく揺らす。
「やったか!?」
 カルがバイクを止めたのを見て、トラックの速度が落ちた。
「けがを負ったようだぞ」
「生きてんなら捕まえて、どこの組織の者か吐かせろ!」
 トラックが反転して戻ってくるのを見て、カルは「食いついた」と短く無線でチャスに知らせる。
『了解だ。こっちもマインは設置完了。
 間違ってもさらわれた人たちのトラックまで吊ってきて、突っ込ませるなよ』
「わかってる」
 そしてカルはバイクを回頭させ、来た道を戻った。
「おっ、逃げる気だぜ」
「逃がすな! スピードを上げろ!」
 逃げる相手を見て、自分たちの優位を確信した男たちは勢いづく。
「あ? うそだろ? そこまで能なしなのかよ?」
 バックミラーで見ていたカイはカルの作戦を見抜いていたが、先頭トラックではどうしようもなかった。無線で命令するには遅すぎる。それに、彼が言ったところで聞きはしないだろう。
 カイはテンガロンハットを持ち持ち上げ、つぶれた前髪をくしゃりと掻いてふくらませると、となりの運転手の肩をたたいてトラックを止めさせた。
 あんなばかどもはほうっておいて、このまま自分たちだけで国境へ行くもアリはアリだが、雇われ護衛の身ではそうもいかないだろう。
(それに、こっちがおれには本当の目的だしな)
 先を読んでのものではなかったが、その判断がカイに幸運に働いた。
 次の瞬間、本来ならトラックが進んでいたであろう場所に、千羽矢によるブラッドレインが降りそそいだ。
(……避けられたか)
 突然速度を落としたトラックの鼻先をかすめて地面に落ちた水の矢を、千羽矢はホークアイで見た。
 だが問題ない。
 すぐさま放った第二射が、停止したトラックのボンネットを貫く。
 そのわずかに生まれた時間差に、トラックの男たちには外へ出られてしまったが、突然空から降ってきた矢に驚いて迎撃の体制を整える前に、クウハクやユン、メレク、ノー・ウェアの者たちによる側面からの奇襲が始まっていた。
「くそっ! 近づくんじゃねえ!!」
 あせり、もたつく手で、盲滅法に銃を乱射する。
 そうしてばら撒かれた弾は、コーネリアの錬成した鉄壁が防ぎ、お返しとばかりに錬成された地弾が男たちに向けて飛んだ。
 その様子を見ながら千羽矢は中距離から雷霆の弓で援護射撃を行う。
 戦闘中、爆発音とともに地揺れがきたが、カルたちの作戦を知っている千羽矢たちは動じなかった。しかし、組織の男たちは違う。
 驚き、音のしたほうを振り返る。
「なんだ? 今のは!」
 混乱し、そう口にしながらも想像はついていた。向こうには最後尾を走っていた護衛トラックがいる。バイクを追って行った先で、何かあったのだ。
「あの黒煙……、まさかトラックが爆発したのか……?」
 動揺し、攻撃の手が止まったのを見て、クウハクはフラカンを巨大な鎌に変化させた。後ろポケットに突っ込んだ藍銅のネックレス、それに千羽矢がばら撒いてくれた水の矢のおかげで、十分水量は足りている。
 それで一気に薙ぎ払おうとしたとき。
 銃弾が大鎌に当たり、これを砕いた。
「ばかな!?」
 水を核としているが、大鎌は水の精霊たちによる魔法武器である。銃弾が砕けこそすれ、大鎌が破砕するなど本来あり得ないはずだ。
「悪いな。おれの銃弾も特別製なのさ」
 トラックの屋根を陣取ったカイが、銃口でテンガロンハットのつばを持ち上げ、嘲るように笑って教えた。
 テンガロンハットの下から見えている額に、全員がはっとなる。
アルカナ!?」
 驚愕した彼らにおかまいなしに、カイは今度はクウハク本人に銃口を向ける。それを阻止したのはやはり千羽矢だった。
「おっと」
 矢を避け、飛び退いた先でカイは「やっぱ、先に始末するのはおまえのほうかな」とつぶやく。
「……なぜ。アルカナがこんな所に」
 しかも誘拐組織にいるなんて?
 そんな彼らの疑問に、カイは肩をすくめて答えた。
アルカナだって人間。生きるためには何かと入り用でね。金が必須なんだよ」
 後ろ盾なし、しがらみなしで生きたいなら、自分で稼がなくちゃいけない。当然だろ?

「おれが今ほしいのは、リゾートへ行く飛行機のチケット、VIPルーム宿泊チケット2人分。だから死んでくれ」

 カイは千羽矢の射つ矢を回避しつつ、高台にいる彼の足元を崩した。
 


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