逃げバレ
(幸人、遅いわね……)
ルージュは森の洞窟に向かいながら、ときどき振り返っていた。
全員ついてきているかの確認もあるが、幸人がトイレに行ったっきり合流してこない。
(道に迷ってるとかじゃないわよね?)
顔を伏せて考えるルージュの隣で、優は彼女のショートパンツの右ポケットから紙切れのようなものが出ていることに気付く。
「ルージュ、パンツの右ポケットから何か出てるよ」
優の指摘に、ルージュはそれを引っ張ってみる。
「何かしら」
二つ折りにされた紙を広げてみると
ルージュちゃんへ
俺いなくても充分な戦力揃ってるし平気だと思ったので
G案件に行かず、フィリアちゃんたちと出かけてきます。
G駆除、頑張って!
「~~~~っ、幸人!!」
◆ ◆ ◆
その叫び声が届いたのか、幸人はダレストリスの中心街でぶるりと身震いする。
(んー、そろそろバレる頃かなー)
彼はトイレに行ったあと、一旦港に戻っていたが、誰もいなかったので1人ぶらぶらと歩いていた。
(はい、あの、正直に言いますと逃げて来ましたよ俺は!! 虫はねダメだよ……ギチギチ音がするのもダメだし、テカってるのもダメだし、感情ゼロみたいな目もダメだし、尾とか口から体内器官グパァするのもダメだし、群れてブンブンしてるのもダメだしもう相性最悪なんだよぉ!!)
「ママ~、あの人お腹痛いのかな?」
「大丈夫だから、無視しなさい」
顔芸する幸人の側を1組の親子が急いで通り過ぎる。
(そりゃあさ、日常生活で見かける小さいの程度なら気持ち悪いけどまぁギリセーフですよ? でも話聞く限り、結構規格外らしいじゃない? だったらアウトですアウト。俺の人生において出来る限り関わりたくない案件の1つなんですよマジで! その代わりフィリアちゃんとダイア君をキッチリしっかりエスコートします!! って意気込むのはいいんだけど、2人ともどこ行ったの?)
大通りを歩いているが、2人の姿は見当たらない。
街でゆっくり過ごす仲間もいるだろうと、彼らの姿も探しているが、見知った顔はない。
(あーあ。しばらくぼっち散歩だねーこれは。まぁ、まずは服飾系の店が並んでいるところに行ってみよっか)