ノー・キラーVS<9>
「ダイア……?」
ノー・キラーは2人に聞こえないようにつぶやく。
成長術で大きくなっているダイアに、ある人物の面影が重なって嬉しそうに微笑んだ。
正義たちはそれに構わず、左右から縦の一閃を振り下ろす。
ノー・キラーは右手を黒の大剣に変え、両の刃を受けて薙いだ。
「私の知るダイアはもっと小さいはずなんだけど」
「夜だけおっきくなるからな」
「そう……どうして剣を向けるのかしら?」
「……う……クルーアルの体を取り返すためだ!」
まだ剣を取る理由が定まってないとはっきりわかるたどたどしい答え。
だが、今はそれでいいと正義は思っていた。
そうでなければ、この戦いで死ぬ。
「クルーアルの体を取り返す、ですって……?」
ふふふと声を上げて笑うノー・キラー。
ダイアは腹を抱えて笑う彼女にムッとする。
「何がおかしいんだよ」
「だって、あなたは私以外にもう1人剣を向けなきゃいけない相手がいる。まずはその人に向けなさい。そのかわり……白閃。あなたが私の相手をするのよ」
「いいだろう。ダイア、下がれ」
「俺も戦う!」
「下がれ。今のお前には敵わない」
「わかんないだろ!」
「二つ名、赤銅級が次々と倒れている。お前が有効打を与えられると思えない」
「正義!」
これ以上話すと本音が漏れると思い、応えなかった。
場当たり的な理由で戦うなら、剣を取るのをやめろ。
こう言ってしまえば、彼は間違いなく剣を握らなくなる。
ここを越えてこそ、ダイアはまた一段階成長するだろう。
正義は白導
(しろのみちびき)をノー・キラーに振り下ろす。
彼女は黒の大剣で受け流し、それぞれ得意とする剣術で応戦する。
「剣もできるのね」
「最初は剣士だったからなっ!」
容赦なく打ちつける黒と己が握る白に、正義はアルテラでの過去がちらつく。
愛する者と過ごす未来が欲しいゆえに、白から黒に染まった正義。
だが、今の彼に握られているのはそれを皮肉るような白銀。
彼からすれば、白が戻ってきたわけで。
これがどんな意味を示すのか、まだわからない。
(俺が再び白を握ることを許されたのか、それとも戒めみたいなものか、はたまた運命か……)
正義は白導に闇と猛毒の術式を刻んだ。
魔族に由来する射技だが、白導はそれを受け入れ、黒く染まる。
黒の斬撃はノー・キラーの左腕を斬り落とそうとするが、結界が阻む。
術式が消えると、白導の剣身は白銀に戻り、月明かりに照らされて白を放つ。
(ダメもとで使ってみたが、意外と馴染むもんだな)
魔族の術式を刻んでも、白導に何かしらの異常は見られない。
斬撃で彼女の体力を削っていく正義だが、なかなかノー・キラーから疲労の色が窺えずにいる。
魔法を使っていない純粋な剣術だからか、魔力の流れもそこまで感じない。
相手を注視しながら斬撃を繰り返していると、薙ぎが迫る。
正義は両手で白導を握った瞬間、剣身が伸び、幅が広くなった。
盾で捌くように剣を受け、えぐるように石畳に叩きつける。
下半身にできた大きな隙に、正義は竜の力を解放。
一刀両断するように、白導を薙いだ。
刃はノー・キラーの脇腹に当たった。
だが、竜の力を持ってしても結界は破れない。
「ぐっ……」
どっとくる疲労に、正義は膝をついた。
「正義……!」
ダイアが駆ける前に、ノー・キラーは容赦なく正義を斬ろうとする。
その瞬間、双剣が正義を庇うように大剣を弾き、前に並んだ。
「来たわね。銀の聖剣使い……!」
遥は静かにグロリアスを構えると、従剣:ツヴィリング・ガードが隣につく。
「わたしに合わせて」
それだけ告げて、遥は駆けた。