ノー・キラーVS<5>
2人の竜騎士は真正面から激突した。
レジェヴァロニーエと黒い霧の竜は互いの首に咬みつきあう。
(実体だと思えるほどの再現具合だな。だが、本物の竜ではない!)
最小の動作で最高威力を出す拳に、黒い竜は口を離す。
咬まれた傷は両者すぐに塞がり、また激突する。
優とノー・キラーは攻防に揺れる背で応戦していた。
ノー・キラーが双銃で撃ってくる中、優は結界晶の結界で防御に回る。
(魔力の流れはわかっていても、この状態は不利ですね。私だけでも地上に降りて……)
そのとき、ノー・キラーに炎の魔力弾が着弾する。
撃ったのはルージュだった。
ルージュは街路樹の枝葉に身を隠し、優を援護する。
ブレイズバレットの炎を目印に、デュアルバーストを放つ。
弾丸はノー・キラーの身を守る結界をまた1枚破った。
(上手く通ったかわからないけど、シレーネとイルファンに話していた内容から推測すると優とノー・キラーの相性は最悪だわ)
持久戦が得意なノー・キラーと、ここぞと見極めて最高威力で一気に決着をつける優。
最初の戦いのときも決着をつけたと思えば、彼女は傷を治して立ち上がった。
最高威力を発揮する戦法を取るなら必ず見極めが必要になる。
一気に決着をつける方法で行くか、己を犠牲にして仲間に道を作るか。またはそれ以外か。
彼女の選択次第でルージュの戦い方にも影響が出るだろう。
(優がどんな戦い方を取ろうとも、私は優が最高の実力を出せるようにサポートするだけ! どんな方法でもしっかりついていくわよ!)
ルージュが銃を構えなおす中、ノー・キラーは彼女の位置を特定していた。
ドーンブリンガーで魔力を遮断しているのでわからないはずだが、二度同じ所からの弾道にノー・キラーはその場から動いていないと判断。
竜を方向転換させ、ルージュのもとへ飛ぶ。
レジェヴァロニーエは旋回し、ノー・キラーの行く手を阻む。
「行かせんぞ」
「竜の体で押しつぶしてあげるわ!」
ノー・キラーは黒竜の上を走る。
優も結界晶を短剣に変えて迎え撃つ。
黒竜がレジェヴァロニーエに突進し、ノー・キラーはレジェヴァロニーエの背に移る。
レジェヴァロニーエが傾くと優とノー・キラーは飛び降りて、住宅街の一角に着地した。
右手の銃が大剣に変わっている。
そこにシュヴァリエが合流した。
「優! 行きますわよ!」
『連繋!』
優とシュヴァリエの魔力が共有される。
シュヴァリエは篭手と結界晶に精霊剣・風を付与した。
優はルインに炎を纏わせ、熱波や炎とともに斬撃を連続で繰り出す。
ノー・キラーは騎士の立ち回りで大剣を使って防御しながら、優の隙を探っていく。
剣同士が鍔迫り合えば、ノー・キラーの剣の重さがひしひしと伝わってくる。
(正直、本調子じゃありませんからね……彼女の足止めしかできませんが……)
この場に立てているのは神聖術での回復とシュヴァリエの魔力共有のおかげ。
本来なら全力で行くところだが、今の状態が優を冷静にさせた。
(私の戦い方と彼女の戦い方は相性が悪いのは承知しています。下手な戦い方をすれば、皆さんに迷惑をかけてしまうかもしれません。ですが、諦めたくありません。相性最悪でも勝てる方法があるはずです!)
優は大剣を弾き、熱波を発して攻めに転じる。
そこにシュヴァリエの電撃が放たれ、ノー・キラーは後退した。
「優。わたくしやレジェ、ルージュがいることも忘れないでください。必ずあるはずですわ。勝てる方法が!」
「ええ、もちろん忘れていません。でなければ、ここに連れてきていません!」
追い打ちをかけるように攻めようと前に出た瞬間、咆哮が響き渡る。
黒竜に押され、レジェヴァロニーエがまさに今、住宅街に叩きつけられそうになっていた。
「レジェ!」
「優、よそ見は厳禁ですわ!」
シュヴァリエが結界で優を守る。
「レジェは大丈夫ですから、あの女に集中するのですわ!」
彼女がそう言えるのは、潤也、アリーチェ、シン・カイファ、ジャスティン、マルチェロ、ルージュが向かっているのが見えたからだった。
咆哮によって起こされた住民たちは窓から外の様子を窺う。
レジェヴァロニーエが黒竜を押さえながら、住宅街に被害が及ばないよう空中で踏ん張っていた。
「みんな、逃げろ! ここは危険だ!」
潤也が声を張って避難を促す。
シン・カイファも外に出てきた人たちに声をかけながら誘導する。
(おいおいおい、クルーアル救出作戦じゃなかったのか? すげぇ大事になってやがるぜ)
ジャスティンの話を聞き、思うことはいろいろあるシン・カイファ。
だが、肝心なことは聴けていない。
(クルーアルの強い動機が魔装に関わってる。その動機がなんなのかってのがな……いや、今はこんなことを考えてる場合じゃないな。避難誘導しないと死人が出ちまう)
ジャスティンやアリーチェとともに誘導する一方で、マルチェロはレジェヴァロニーエと黒竜の近くにいた。
その場には銀鎖が落ちている。
(レジェヴァロニーエさんの物ですね)
手に取り、上空を見上げる。
押され気味の彼女に、マルチェロは銀鎖に輝神の加護を与えた。
(あの竜が魔物やアンデッドの類に入るかわかりませんが、ちょっとは役に立つでしょう)
「マルチェロ!」
レジェヴァロニーエの声に、ハッとすれば揉み合う2体。
マルチェロは彼女の手元に向かって銀鎖を投げる。
「レジェヴァロニーエさん!」
投げられた鎖に、レジェヴァロニーエは尻尾で黒竜の顔を叩いてすぐ受け取った。
「助かった!」
鎖で黒竜の両手を封じ、破邪の裁釘を打つ。
魔力の流れが阻害され、形が不安定になった隙にそのまま拳や蹴りを飛ばし、反撃の余地を与えない。
マルチェロも黒竜の頭上に向けて夜空を割るように光を放つ。
オオオオオオオオオ……!
咆哮とともに、黒竜は光を浴びながら消滅した。