ノー・キラーVS<2>
「港側から爆発音がした」
エーリッヒの耳が鐵の双璧が突破された合図を捉える。
「うわぁ。俺たちが船で来た方角から来たんだ」
幸人はそれだけ言って沈黙した。
新しい革靴に問題がないか確認し、良風旅団メンバー全員に声をかける。
振り向きもせずに。
「みんな、俺ちょっと先に行くね。自分のペースでいいから後から合流してくれると嬉しいな!」
「しゃちょー、それどういう意味……」
リコが問いかけた瞬間、幸人が消える。
「あれ!? しゃちょー!?」
「あそこだ」
「どこ?」
エーリッヒが指した建物の屋根に幸人はいるが、リコの今の視力では捉えられなかった。
「とにかく急ぎましょう。ノー・キラーさんを奥に進ませると街の人たちにも被害が出ます!」
スレイはバリオスに跨がって先を急ぐ。
「あっ、スレイちゃん、待って!」
翼を広げ追うユエに、他のメンバーも続く。
イルファンとアリシアの側につくリコは何かを思いついて、急に足を止めた。
「リコ、どうした?」
「イルファン、わたし別角度から攻めてみる!」
「わかった。狙われないように気をつけろ」
「うん!」
リコは他のメンバーと別の方向に駆け出した。
その一方で、ノー・キラーは自分の身に起こった異変に気付いていた。
(結界が1枚破れている……紅蓮の焔の名も伊達ではなかったのね)
揺らめく炎を背に、ノー・キラーは歩みを進めると幸人が立っていた。
「こんばんは、レディ。今宵は月と炎がとても綺麗な日ですね」
「こんばんは、恐れ知らずの双銃士。そうね、あと悲鳴があれば最高なんだけど」
「鐵の双璧はどうしたのかな?」
「鐵の双璧……? あぁ、あの子たちね。鐵でも何でもなかったわ」
「へぇ……俺が知ってる鐵の双璧はめちゃくちゃ強いんだけどなぁ……」
「そうなの? だったら私の方がもっと強いわね」
両者、二丁の銃を構える。
「良いドレスを着てるんだから、一緒にダンスでもどう?」
「あら、素敵。ちゃんとリードしてくれないと、別の人をパートナーにしちゃうわよ?」
2人同時に駆け、高速のリロードとともに激しい撃ち合いになる。
幸人は凪祓で空を舞い、パーフォレイターメインで乱射。
ヴァルネラブルポイントで急所を探りながら、前や後方、斜めに動いて狙いを定めさせない。
魔弾迅雷も装填して発砲するが、彼女にとって痛くもかゆくもないようだ。
幸人は何か仕組まれていると見て着地し、雷の術式が刻まれた靴の力を利用して高速移動する。
ノー・キラーは縦横無尽で舞い踊る幸人に肩の力を抜いて銃を乱射。
彼の弾に当たらないように軌道を逸らすなどの相殺を試みる。
(そこ……!)
幸人は大きな隙を見つけ、着地。
靴の力で瞬間移動して懐に飛び込み、ノー・キラーの首元に銃を突きつける。
しかし、彼女も幸人の額に銃口を突きつけた。
撃ち合っていた弾が今になって、当たり合い、全ての弾を相殺する。
「やるわね」
「そっちこそ」
ノー・キラーが引き金を引くべく指を動かした瞬間、幸人は後退してパーフォレイターからデュアルバーストを放つ。
彼女はそれをまともに受けるが、首元に銃痕はない。
だが、また1枚結界を失った。
(あ、危なかったぁ……靴がなかったら頭貫通してたよ……!)
ノー・キラーからの弾は靴と稀なる幸運が働いてくれたおかげで、ぎりぎり躱せた。
「その恰好でよく動けるよねぇ」
幸人は銃を構えながら、フリルが幾重にも重なったドレスをまじまじと見る。
レオタードにガーターベルト、ニーハイソックスにピンヒール。
ドレスは蹴りができるように前開きになっている。
デコルテは大きく開かれ、左の長袖はきめ細かいレースでできていた。
黒で着飾った彼女は褒められて、上機嫌になる。
「どんな衣服でも戦えるのが強者の証よ」
すると、右手の銃が格納され、炎を纏った鞭が握られる。
「ねぇ、その右腕って……」
その瞬間、幸人は気を失った。
ノー・キラーは鞭を手にした瞬間、幸人の首に巻き付け、一気に締め上げて意識を奪ったのだ。
これがローグの奥義、ファジーフロウなのは彼女のみが知る。
「ふぅ……次」
鞭を幸人の首から解くと、蹄鉄の駆ける音がする。
彼女は来るであろう次の敵に身を構えた。