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理想の未来に死にゆく絆:第7話

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理想の未来に死にゆく絆:第7話
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ノー・キラーVS<1>


 夜風が潮の匂いを運ぶ。
 鐵の双璧は港にてノー・キラーが現れるのを待っていた。
 ここに来る確証はない。
 頼みの綱のクルーアルも肉体から離脱する機会を探るのに必死だったため、どこから来るのか全く予測できないという。
 空からかもしれないし、海からかもしれない。
 確率は低いが、オルディアを経由して来ることも考えられる。
 それでも2人は港を選んだ。
 鐵の双璧として立ちはだかり、仲間が到着するまで自分たちで足止めできたら。
 捕らわれた彼だけでなく、街の人たちも護れる。

「なぁ……相棒。飛鷹の話、どう思った?」

 潮風が頼斗の額を撫でる。

「……俺は、誰かを犠牲にして、力を手に入れたいとは、思わない」

「だよな。作戦の表向きはクルーアルの体を取り戻すことになってっけど、ノー・キラーを煽って染まる武器に傷をつけてもらうのが本来の目的だっけか?」

「ああ」

「だったら……俺たちはその前提を全部取っ払う。この作戦の表向きを本命にして戦うぜ、相棒!」

「ああ。奪う命はひとつでも少なく、救う命はひとつでも多く。そのための道を、照らす」

 左から海をかき分ける音と、何かが軋む音がした。
 鐵の双璧は武器を構える。
 一艘の木製ボートが船着場に止まり、人影が降りた。
 薄暗い視界の中、ヒールの音と光沢のある真っ赤な口紅だけが目立つ。
 人影は立ちはだかる2人の前で止まった。

「あら……お出迎え?」

「まぁな。それに俺たちはおもてなしも頼まれてる。退屈はさせないぜ」

「それは素敵ね。でもできれば長い時間楽しませてくれると嬉しいわねっ!」

 ノー・キラーと頼斗。
 両者の武器が重高い音を鳴らして衝突する。
 ジャストフィットする愛槍と奇妙な紋様が描かれた白銀の丸盾で攻撃を受け流しながら、彼女が使用している武器を探る。

(突く風とバックラーがぶつかったときの感触からして、槍と大盾。騎士のスタイルか)

 対魔族特化術式が刻まれた千羽矢の矢が彼女の隙を射るが、バチバチバチと音を立てて消滅する。

(矢が届きやしねえ。相棒はアレと戦ったとき弓の魔力を解放しちまったからな)

 頼斗は前に踏み込んで槍の突きと盾の防御を織り交ぜながら果敢に攻めれば、彼女は歌を口ずさみながら応じる。

「歌なんて余裕だなっ!」

 槍捌きは頼斗の方が上。
 それでも彼女は焦ることなく、突き、断ち、防御を流れるようにこなす。

(今はできるだけ体力を削って、強烈な一撃を叩き込むタイミングを待つ!)

 槍と丸盾を握る手に一層力が入る。
 高揚する感情に身を任せ、頼斗は盾と槍を振るっていく。
 その勇敢な姿勢とノー・キラーに千羽矢は目を離さない。
 こういう状況なら愛弓である紅き鳳凰を握っているが、今回は違う弓を取っていた。
 成体クロッツとの戦いでただの大弓になってしまった愛弓の代わりに引くのは、遠雷の轟。
 雷の力を宿したクロスボウだ。
 当初、魔力のない大弓を使おうとしていた千羽矢。
 だが正義が「染まる武器を使うからこれを使え」と貸してくれたのだ。
 片手弓であっても射法八節は心得る。
 立つ位置を決め、背筋を伸ばして胸を張り、弓を持ち上げ、相棒に当たらないように狙いを定める。
 矢を射るペースは普段より少し遅いが、この方が命中率は高く、心も研ぎ澄まされる。

(アルゲングランスは効かないのか……?)

 ファラウェイで射程を伸ばし、弓の効果で一撃の威力も高いはず。
 もう一度、アルゲングランスを射ってみる。
 やはり、先ほどと同じで弾ける音を立てながら消滅した。

(膨大な魔力を持つ相手で、効かないのならわかるが……)

 狙いは間違いないのに刺さりもせず消滅する現象に納得がいかず、千羽矢は何度も魔力を阻害しようと試みる。

(相手をよく観察しなければ……最初のときよりも強くなっているのは、確実だ)

 千羽矢は相棒とノー・キラーに集中して、再び狙いを定める。

(相棒が苦戦してんな……! やっぱり準英雄装備以上じゃなきゃ厳しいのか?)

 当たるのを間近で目撃している頼斗は相棒の矢が届かないことに悔しさを覚えていた。
 アルゲングランスと鷹が交互に放たれているが、彼女は涼しい顔で歌っている。
 時折余裕があると、それらを大盾で受け、威力を殺す。

(こっちの攻撃だけじゃねぇ。相棒の攻撃もちゃんと見てやがんな)

 睨む頼斗に気付くと、にやりと笑うノー・キラー。
 頼斗は顎を思いっ切り蹴り上げる勢いで、左脚に込めていた力を解放する。
 しかし、ノー・キラーは大盾を水平にして防ぐ。
 頼斗の左脚に強烈な痺れが襲い、ノー・キラーも不動穿砕による衝撃の振動に肌を震わせた。

(かっってぇ!! この大盾、機械族並に硬い……!)

 そう認識した瞬間、大盾によるアバランチが迫る。
 頼斗はバックラーで打撃を緩和させるが、それでも吹き飛ばされてしまった。

(まだ、まだぁ……!)

 相棒が抑えてくれている。
 早く立ち上がり、再び挑もうと槍を握った刹那、それは起こった。

「は……は……はぅ……は……」

 上手く息ができない。
 気道を内側から何らかの力で押さえつけられているような感覚に、槍を支えにして何とか立つが、ノー・キラーが2人に見える。
 彼女は頼斗への攻撃を止め、歌を歌い続けていた。

(まさか……な……)

 頼斗は内側から体を侵されていた。
 心を殺す禁断の歌、トラジディーで。
 いち早く相棒の異変に気付いた千羽矢はフックショットで彼を後退させようとクロスボウを構えた瞬間、頼斗が震えながら千羽矢の方に振り向いた。

『ちはや、にげ、ろ……』

 唇がそう動いた刹那、頼斗の目が大きく見開かれ、首から血しぶきが上がる。

「相棒……! あ……ぐ……」

 叫んだ瞬間、真紅のロングコートの隙間を槍が貫いていた。
 焼けるような熱さと痛みが全身を一気に駆け抜けていく。

「準備運動に付き合ってくれてありがとう」

 嫌みのようににっこり笑って、ノー・キラーは槍を抜く。
 胸の痛みに座り込む千羽矢。
 彼女はヒールを鳴らしながら、街の方へ歩いて行く。
 左手の槍を魔法で消し、大盾を義手の右腕に格納しながら。

(このまま、進ませるわけには、いかな、い)

 炎が勢いよく燃えるような熱さを胸に、千羽矢は炎流矢を番える。
 何かがこみ上げてくるような感覚に咳込めば、血が石畳を染めた。
 彼を動かしているのは、弓の道を通る者なら知っているであろう言葉、一射絶命だった。
 次の矢に期待を寄せるのではなく、1本の矢に己の命をかける気持ちで一射一射を大事にしろという意味が込められている。
 人によっては、「一射ずつ丁寧に引きなさい」といった優しい言葉で教えられることもあるかもしれない。
 だが、どんな教え方であれ、最終的にはこの言葉に辿り着く。

(俺は、この矢に、全てを、賭ける……!)

 遠雷の轟の電流が激しく流れ、炎流矢がまっすぐに放たれた。
 矢はノー・キラーの背中の中心に当たると同時に爆発と炎が広がる。
 彼女がどうなったかわからない。
 千羽矢は胸に軽く手を当てながら、頼斗の側に腰を下ろす。
 急な出血に千羽矢は眩暈を覚え、その場に倒れ込んだ。
 どちらかの血を頬に受けながら、ピクリともしない相棒の顔を目に焼き付ける。

 ――俺はいいから、俺はまだ大丈夫だから……相棒を……頼斗を助けてくれ。

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