報せを受けて
ダレストリスの港で冒険者たちが依頼の人数分配をする中、
松永 焔子の右肩に何かがのしかかる。
警戒の視線とともに顔を向ければ、キンカジューに似た黄土色のサルが座っていた。
(確かこのサルは……)
出発前、風の肩に乗っていた。
テラポッタと飛鷹が呼んでいたのを思い出し、警戒を解く。
彼女から視線の圧が消えたのがわかったのか、テラポッタは溜息をついたように力を抜き、背に括り付けてある筒状の羊皮紙を差し出す。
開いてみれば、指先に赤いインクをつけて書いたような文字で「ひだかかえってきて」とあった。
焔子はでかでかと書かれたホラー文字を容赦なく破り、その下に続く内容に目を通す。
ノー・キラーの屋敷から染まる武器の修理について書かれた本を盗む。
クルーアルが働いてくれないので、できれば援護がほしい。
レガリスに残った者たちからの重要な情報に、焔子は目を細める。
(染まる武器の修理本なんてものがあって、その所在まで突き止めてたとは……)
彼女がクルーアルを疑っていると、白いマントを羽織った者が前に立つ。
「お手紙?」
そう訊いてきたのはリインだった。
「ええ。風様からです。クルーアルがノー・キラーの屋敷の住所を教えてくれたそうで、テラポッタが帰り次第乗り込むと」
「ふぅん……行くの?」
「行きます。少々気になることもありますし」
リインは焔子の右肩に視線を移す。
ふっ、ふっと息を荒くするテラポッタに、彼は懐から透明な液体が入った小瓶を取り出した。
「もし何かあったときにテラポッタに飲ませてあげて」
「これは?」
「魔獣用の魔力回復液。人族は飲んじゃだめだよ」
「わかりました」
焔子はリインから小瓶を受け取ると、早速レガリス行きの船に乗る。
「頼んだよ、焔子……」
船に乗る彼女にそうつぶやき、リインはメジェールの屋敷に行く冒険者たちと合流する。
その近くで
ルージュ・コーデュロイは成体クロッツを駆除すべく装備類を確認していると、
紫月 幸人が素通りする。
「幸人、どこ行くの?」
一瞬肩を跳ねさせ、幸人はへらりと笑いながら振り向く。
「お手洗いだよ」
「そう。ここからだと少し時間かかるから、先に出発するわね」
「りょうかい。俺のことは気にせず、どんどん進んでいいからね」
そう言って幸人は足早に街の方へ歩いて行く。
成体クロッツを駆除する冒険者たちも、優とルージュを先頭に港を発った。