即席ダンスレッスン
一行はメジェールの屋敷に近い港に戻り、邪魔にならないよう端で練習することにした。
「ゆっきーと潤也くん、ダンス教えられるんだね!」
「まぁね! これでも昔はいろいろと嗜んでいてね、簡単な社交ダンスくらいなら教えられるよ。ま、本当に基礎の基礎だけどね」
「俺はアイドル世界でプロデューサーやってるからな。ダンスレッスンなら任せてくれ」
「まずは実力がどの程度あるか確認だね」
「音楽要りますか?」
「あ、お願い!」
幸人はフィリアの前に手を差し出す。
「レディ、1曲踊っていただけますか?」
「ふふふ、喜んで!」
右手を背中に添え、左手を繋ぐ。
幸人が下がってリードすると、落ち着いたテンポの曲が流れる。
確認するのは全てのダンスの基礎ともいえるボックスステップ。
前、横、閉脚。後ろ、横、閉脚。
これを相手に合わせて繰り返すだけだが、幸人は違和感を覚えた。
(??? フィリアちゃん、地味にできてる?)
ボックスステップは完璧だが、足を踏まないか心配らしく視線が下がっている。
「フィリアちゃん、気にはなるだろうけど足下ばっかり見て相手を見ないのは失礼だよ」
「あ、あぁ、ごめんね!」
「俺があわせるから、ちゃんと俺の目を見て息を合わせて」
「う、うん!」
恥ずかしそうに目を合わせてくれるフィリアに満足しながら、さりげなくダイアとフィルにも視線を移す。
フィルは潤也と踊っているが、フィルもフィリア同様足下を見てしまっている。
ダイアはアリーチェと組んでいるが、ステップがばらばらでリズムに合わせるのに必死だ。
その様子を私叫は見学していると、彼の傍にパロトが止まる。
「アイス~ オドラナイノ~?」
「パロトは踊れるの?」
「ミテテ~」
バッと両翼を広げ、足を交互に上げながらくるりと回ってみせるパロト。
「あれはできないの?」
私叫はボックスステップする3組を指す。
「マエ ト ヨコ ウシロ ト ヨコ シカ デキナイ」
やってみせるパロトだが、ジャンプしての移動になる。
足の構造からして閉脚は無理だった。
「僕もやるの」
パロトとアイスはお互いぴょんぴょん跳んでいると、音楽が止まった。
「ねぇ、フィリアちゃんとフィル君って、実はちょっと良い家の子でしょ?」
幸人の指摘に2人は身体を小刻みに震わせる。
「そっそそそそそそそそんなわけないよな! あねききききききききききき!」
「そそそそそそそそうだよ! 私、ドレスも下着も自分で選べないんだよ!? 育ちが良い子は自分の物は自分で選べると思うんだけどななななななななな!」
「本当に?」
ぶんぶんぶんと勢いよく首を縦に振る姉弟。
「怪しいな~。でもここでは関係ないから深くは触れないでおくよ」
ほっとした表情で息をつく姉弟。
だが、幸人は厳しい指摘をする。
「ダンスを見てて思ったんだけど……まずはフィリアちゃん!」
「はい!」
「視線ちゃんと合わせて! あと足下見ない!」
「う、はい!」
「フィル君!」
「な、何だよ」
「踊っているとき、何回かぶつかりそうになったからリードちゃんとやる!」
「苦手なんだよ~」
「でもぶつかったら怪我にも繋がるから、そこはちゃんとしておいた方がいいと思うぞ」
「わかったよ……」
「それとダイア君! 君は一から特訓! 基本中の基本はマスターしよう!」
「頑張る……!」
「そうと決まったら個別練習開始! 俺はダイア君指導するから、潤也君は2人をお願いね!」
「任せろ!」
ダイアと幸人がボックスステップの動きを確認する中、潤也はフィルとフィリアを連れ出す。
「フィルはリードが課題だから、近くで誰かに踊ってもらう方がいいな」
「じゃあ、私踊ろうか?」
「あぁ、頼む。ペアを組むなら……」
「フィリアさん、僕と練習しよう」
私叫が立候補する。
「身長差があるから、両手握ってくるくる回るのはどう?」
「うん、それにする」
「よし、決まりだな。フィリアとアイスが踊りながら近づいてくるから、フィルは俺をリードして上手に避けてくれ」
「姉貴、まじで手加減しろよ」
「もちろん!」
だがその数分後……
「いって!」
「うおおお!」
「危ねえ!」
「うわ!」
フィルはフィリアとアイスのくるくるダンスに翻弄される。
特訓は日が暮れるまで続いた。