あなたを護る切り札
フィリアの胸に頭を預けて眠る
私 叫は、賑やかな声で目が覚めた。
視界に飛び込んできたのは、店で野菜や果物を選ぶ人々の姿。
顔を左から右に向きを変えると
「あ、起きた」
頭上からの声に顔を上げると、目を柔らかく細めるフィリア。
私叫はおはようのキスを彼女の唇に落とすと、フィリアも私叫を軽く寄せて唇の端にキスを返してくれる。
「フィリアさん、ここどこ?」
「えーと、港からちょっと離れた市場だよ。この辺で朝ごはん食べてたんだ」
もそもそ体勢を変えると、彼女の服にパンくずがついている。
私叫を抱えたままパンを食べたのか、彼の服にもちょっとだけついていた。
私叫はフィリアに見られないよう、ささっと払う。
「もちろん、アイスくんの分も買ってあるけど食べる?」
「食べる……!」
「よぉし、じゃあ、景色のいいところで食べよっか!」
◆ ◆ ◆
フィリアが選んだのは港へ降りる階段。
彼女は私叫と自分が座る場所に、ピンクの小花柄の白スカーフを敷く。
左端にフィリアは腰を下ろし、その隣に私叫が座る。
バスケットから取り出されたのは、手のひらサイズの丸パン。
焼きたてなのか、ほんのり小麦の甘い匂いがする。
「ジャムも買ってきたんだけど、どれにする?」
赤、オレンジ、紫の瓶が並べられる。
色合いからして、いちご、マンゴー、ブルーベリーだろうか。
「フィリアさんのおすすめは?」
「んー……マンゴーかな!」
「それにするの」
蓋を開けてもらい、ジャムをスプーンで掬って乗せる。
甘く芳醇な香りとともに口に運べば、マンゴー香るさっぱりとしたパンに変身した。
「おいしい?」
こくこくと頷く私叫。
「おかわりあるからねー」
小さいので1個食べるのに時間はかからない。
私叫はフィリアにジャムを塗ってもらいながら、朝食を楽しんだ。
◆ ◆ ◆
「フィリアさん」
「どうしたの?」
フィリアがバスケットにジャム瓶を仕舞う最中、私叫は持ってきた武具類を置く。
「フィリアさんのために戦う術をいろいろ考えてみたの。フィリアさんに意見もらいたいの」
「え、私、あんまり詳しくないよ……!」
「僕フィリアさんを護る覚悟はできているの。フィリアさんのためなら頑張れるの」
フィリアは瞳を潤ませながら両手で口を覆う。
感動しているようだ。
「わかった! 私で良ければ見よう! 最初の案を聴かせて?」
「最初は……ビンタなの」
「ビンタ?」
「ダンスで異様に柔らかくなった体とにゃんこの構えで鍛えたおててから繰り出されるビンタ。近接用だね」
「う、うーん。危ないと思うよ?」
「じゃあ、やめる。次は超遠距離デュアルバースト……二連なの」
「それなら行けるかな……? 銃2つ持ってるし、ファラウェイで射程伸ばせば……」
「じゃあ、それにするの。あと、装備どう思う?」
「今着てる狩猟着なら大丈夫じゃないかな。魔力遮断は有利だと思うよ……ん? これって黒晶の欠片……! どこで拾ったの!? 触っても大丈夫なの!?」
「? 大丈夫なの。地下トンネル行ったときに拾ったんだ。もしかしたら誰かの落とし物かもしれないの。……いる?」
「ううん。アイスくんが持っていて。魔神の加護を破るのは対魔族で必須だから!」
「わかった。銃はどう?」
「追尾機能があるんだっけ。それならいいかもね。ノー・キラーは早かったから追尾はありがたいかも……って、忘れてた!」
フィリアは急に立ち上がり、敷いていたスカーフを仕舞う。
「アイスくん、私パーティーに行くドレス買わないと!」
2人は港を後に、急いでドレスショップを探す。