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竜へ捧げる鎮魂歌【第一話/全三話】

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竜へ捧げる鎮魂歌【第一話/全三話】
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「まさか機械類を通さないとは思いませんでした……しかし、代わりとなる力は存在するようですね」
 スレイ・スプレイグは辺りの様子を窺いながら呟いた。
 神殿内には様々な彫像や美しいステンドグラスが設置されている。だがそれよりも目立つのは先程潜った扉だ。人と竜の結びつきを誇示するようなデザイン、そして多種多様な草木がレリーフとして飾られている。
 竜信仰、そして自然に近しい文明。機械の類はないが、いっそこれくらいの方が人間の身の丈に合っているのではないだろうか。そんな気がしてならない。
 なにせ過ぎた力は様々なモノを呼び寄せる。
 発展と富をもたらすだけではなく、時には破滅への一手を担う事だってあるのだから。
「……偉そうに考えている場合じゃありませんか」
 訪れた切っ掛けが応援要請でなければもう少し考えることもできたのだが、いかんせんそうにもいかない。
 まずはここの危機を救い、落ち着いた頃にでも話を聞いてみたいところだ。
「それにしても竜に駆る騎士なんて男心に響きますよね」
 うまいこと力を貸してくれる竜が居れば良いのだが。スレイはそんな事を考え、目の合った一匹の竜へと近づいた。

「私の名前はスレイ・スプレイグ。良かったら力を貸していただけませんか」
 竜は鎌首をもたげ、スレイの言葉を静かに聞いていた。
 人が見れば気後れしてしまうような鋭い眼を数度瞬き、幾重もの牙をもごもごと動かし、大きな口を開いた。
『……構わぬ、我が名はフレルバータル。今より貴殿の翼となろう』
 竜は前足を折り、跪く。凶悪そうな見目に反し、口調は穏やかだ。
 やけにすんなりと応じてくれたものだと思ったが、状況が状況だ。おそらくは単身で駆けるべきか悩みあぐねていたのだろう。よくよく見れば表情は愁いを帯びている。
「ありがとうございます、急な事で申し訳ありませんが……行きましょう」

◇◆◇


 スレイはフレルバータルの背に乗り、ミンストレルの歌声を背に神殿から飛び立った。
 神殿に残っている人達は出来うる限りのサポートを買って出ている。周辺の眷属ならば問題無く瘴気を抑えてくれるはずだろう。
「とはいえ油断は禁物です。できるだけ神殿に被害が行かぬように立ち回りましょう」
 例えばそう、自らがデコイの役割を担うとか。
 敵陣へと入り込み、敵の注目を奪う。知能も無く、ただただ暴れ狂う存在であればそれも容易なことだろう。
 盾と槍を使えばある程度の攻撃を弾くこともできる。そこからカウンターに繋げられれば、時間は掛かるが倒す事もできるだろう。そうすれば神殿への被害も最低限で済むはずだ。
「フレルバータルさん、相手の懐へ潜り攪乱しますのでサポートをお願いします」
『承ろう』
 スレイは復讐の大盾を構え、槍の穂先を後ろへと下げた。同時にフレルバータルも大きく羽ばたき、速度を以て敵陣の中へと飛び込んでいく。
 黒い靄が辺りを支配していた。眷属を包み込む瘴気は、神殿内のミンストレルやシャーマン達の助力もあってその効果を薄めている。しかしながらそれでも空の色は陰鬱な色をしていた。上に広がっている青空とは似ても似つかぬものだ。
 速度を上げたフレルバータルはスレイが動きやすいように身体を斜めに固定した。獲物の可動範囲を広くするためである。
 それに合わせ、スレイは盾を振りかぶる。目の前に飛び出して来た眷属の猛攻を盾で受け止め、そのままいなすように後方へと下げる。代わりに打ち出されたのは信仰の白槍だ。
 攻撃を防がれ体勢を崩した眷属に向かって穂先を向ける。勢いを利用した攻撃は眷属の腹を貫いた。それを振り払えば、眷属は不気味な雄叫びを上げながら地面へと落ちていった。消滅の間際、見えたのは僅かな煌めきである。瘴気とは似て非なる輝きは白銀のように美しく、宝石にも似た光を放っていた。
 だがそれもすぐに消え失せる。瘴気が風によって弄ばれるのと同じく、光もまた霧散した。
「宝石ですか……?」
『あれは竜の宝珠。人間でいうところの心の臓に近しいものだ』
 フレルバータルは小さく嘶いた。慈しむような、哀れむような声色は羽ばたきから生み出された風によって拡散される。
 それに応えたのは近くに居た別の竜騎兵の竜だ。連鎖するような叫びにはフレルバータルと同じく悲痛な雰囲気を孕んでいる。
「……倒しても良かったのでしょうか」
『あれは倒さねばならぬものだ。ただただ暴虐の限りを尽くすものを放っておけば我らまで滅んでしまう。それに瘴気から逃れられれば、その魂は天へと還る事ができる』
 フレルバータルは上空へと視線を向けた。スレイもつられるようにしてその顔を上げる。
 視線の先に広がっているのは瘴気の無い青空だ。だが、フレルバータルはその先を見据えているように、遠い目をしていた。

『感謝しよう、渡り人よ』
 静かに、噛み締めるように呟かれた言葉に迷いは無かった。
「こちらこそ力を貸してくれてありがとうございます。……そして可能ならば、今後も力を貸してくれませんか」
 この襲撃を退けた後、危機に見舞われた世界を救うためにも。
『なれば神話の時代に行われた契約に倣い、祝詞を謳おう。名とは別に貴殿の翼だと言うてくれるか。それは人を乗せる事を選んだ竜にとって最大の賛辞だ』
「では……私の名はスレイ・スプレイグ。私の翼よ、どうか眷属を退けた後も力を貸して頂けませんか」
 スレイが騎士らしく恭しい態度で述べれば、フレルバータルは細い目を和らげ、満足そうに吠えた。
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