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竜へ捧げる鎮魂歌【第一話/全三話】

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竜へ捧げる鎮魂歌【第一話/全三話】
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 四柱 狭間がアークに来たのはちょっとした好奇心であった。
 異なる世界の力がどのような在り方をするのか、そして自身がそれと向き合うとすればどのような変化をもたらしてくれるのか。それを試しにやってきたのが始まりだ。
 ――その道中、バルバロイの襲撃に遭うまでは順調だった。
 数の多さに劣勢を悟り、一先ずは離脱し援軍を待つ予定だったのだ。
 だから逃げ込んだ洞穴、その先にあるものがまさか更に異なる世界だったとは思いもしなかった。

「門を潜ったときに変わったのか?」
 狭間の呟きが神殿内に落とされた。
 擬態している訳でもなく、ただの人型としてぽつりと立っている。何かの影響を受けたのか甚だ疑問ではあるが、胸にあるコアに変わりはない。
「……いや、ここで考えていても仕方ないか」
 多少違和感は生じるものの、それが分からない以上はこの地で探り、目の前の脅威である邪竜の眷属を退けなければならないだろう。狭間がそう考えていると、目の前に影が落ちた。

 狭間を見下ろしていたのは一匹のドラゴンだった。
 鋭い目つきを細め、何やら様子を窺っている。異形の者であるということを悟られたのだろうか、あるいは邪竜に連なる者として認知されたのだろうか。狭間は居心地の悪さから無意識にコアがある胸に手を当てた。
「あー、僕は――」
『なんだ渡り人の兄ちゃん、おかしな輩だなあ』
 鋭い目つきとは裏腹に、ドラゴンはウキウキとした様子で語り始めた。
『人……じゃあねえなあ、いや人か? 見た目は人なんだけどなあ……』
 ドラゴンは狭間の周りをうろうろしながら考え込んでいる。
 そして答えを見つけたのだろう、鋭い目を大きく見開いた。
『外なる者か。いや渡り人だから外っちゃ外なんだが……あれだろ、人で言うところの余所モンだな。だからそんな変なオーラしてんだな』
 ドラゴンはうんうんと頷き一匹で納得している。とにかく怪しまれずに済んだことに安堵し、狭間は小さく息を吐く。
「そんな感じだな……ところでええと」
『俺の名はサンサル、アンタの名は?』
「ええと、狭間だ」
『狭間だな、分かった分かった。困っているようだしお前の翼になってやろう』
「翼……?」
『……知らんのか? やっぱり外なる者か。この国では相棒の竜を翼と呼ぶんだ』
 飛べぬ人に変わり、その者を運ぶ担い手のドラゴンを『翼』と称するらしい。そしてそれは竜にとっても名誉な事、数多のドラゴンたちは竜騎兵と縁を結ぶ事により一人前として認められるらしい。
『困ってそうだから俺がお前の翼になる。なーんも分からんって顔してるお前の世話をすればダイル・ウスン様も褒めて下さるだろうからな』
 サンサルはウキウキとした表情で膝を折り、背中の方に視線を向けた。
『生き残りたければ俺を翼に選びな、どこにだって飛んでいってやるぜ』

◇◆◇


 利害の一致から狭間はサンサルを翼に選んだ。ほぼ成り行きのようなものではあるが、分からぬ事が多い狭間を気遣う態度に嘘偽りはない。それを信じ、サンサルの世話になることにした。
 ドラゴンの背は馬よりも揺れる。自分の足元に羽や分厚い筋肉があるので致し方が無い。手綱がないのは竜を重んじているからだろうか、それとも絶対に落とさないという考えがあるのだろうか。どちらにせよ、異なる世界で培った経験は今のところ活かす事が出来ている。
『攻撃の仕方は決めてんのか?』
「隙を見て急所を狙う。できれば精神攻撃も考えたいけど……異世界だし、知性も無いようだから効果は望み薄かな」
 知性の無い相手の心へ干渉したところで然して効果もないだろう。それならば確実に仕留められるような部位を狙うか、行動の要でもある翼を落とすのが良い。魔力を込めた刃ならば遠距離攻撃も狙える、反撃のブレスに関しても護符があれば問題ないだろう。
『一対一ならそれでいいかもな。んじゃ、あれはどうする?』
 ほれ、とサンサルが顎を向けた。その先に居たのは二体の眷属である。
「それについても考えてある」
 狭間はそう述べ、手甲に手を掛けた。指先で軽く摘まんでやれば粘着性の糸が引き出される。細く頼り無い見目をしてはいるが、強度は折り紙付きだ。
「先に謝っておく。すまない」
 狭間はサンサルの尾にそれを幾重にも巻き付けた。強く引っ張ってやっても外れることはないだろう。それを確認し、サンサルに飛行の指示を出す。
『なんだかネバネバしてるなあ……んでどうする?』
「合図を送る、そしたら相手の頭上に急上昇してくれ。できれば二体が纏まるように動いて欲しい」
 サンサルは同意の代わりに大きく羽ばたいた。
 向かい来る眷属を引きつけ、翻弄するように青空を自由に飛び回っている。
 狭間はそのまま眷属達の様子を窺い、追っ手の進路が重なった時を見計らいサンサルに合図を出す。
「今だ!!」
 サンサルは進行方向を変え、天高く急上昇していく。それを追うのは二体の眷属。こちらに向かって一直線に登り始めた。
 それを確認した狭間はサンサルの背から飛び降りた。長く張った蜘蛛の糸が彼の後を追う。
『うぉおい!?』
 サンサルは慌てて引き返そうとしたが、上がる瞬間は切り替えが難しい。だがそれは眷属も同じ事だろう。
 魔力を込めた風属性の刃を眷属へと差し向けた。
 鋭い風切音が耳を劈く。同時に刃は眷属達の翼の帆を切り裂いた。バランスを崩したところに放つのは落下の速度を利用した太刀捌きである。トドメの一撃を終えれば狭間の身体は伸縮性のある糸によって数度引き戻された。徐々にそれは鳴りを潜め、揺れが収まる頃には眷属達もその姿を消し去っていく。あれほど憎悪に満ちた瘴気はもう無い。散り際、キラキラと輝く光が見えたが、あれは――。
『そういう事やるなら先に言えよな!?』
 サンサルの怒ったような呆れたような叫びが頭上から木霊する。
「ああ、すまない。とりあえず……引き上げてくれないか?」
 納得はいっていないが仕方がない。サンサルはそんな顔をして、尾を跳ね上げた。それに釣られ狭間を繋ぐ糸がグンと引っ張られる。反動を利用し、背に戻れば……ぶすくれた顔をしたサンサルが大きな口を開いてワアワアと喚いていた。
「だからさっきすまないって言っただろう」
『糸の事を怒ってんじゃねえの、危ない事するなら先に言ってくれってことだよ。あ~もうこれで渡り人を落としたら翼の名折れってもんだよ』
「でも、サンサルさんは落とさないだろう?」
 そこは信頼している。狭間がそう言えば、サンサルは上機嫌に笑い声を上げた。
『なんだよ竜の扱い方、分かってんな。まあいいや、あとでちゃんと糸外してくれよ』
「……ブラシで取れるだろうか?」
『取れるか分からないでやったのよ!?』
 粘着質の糸なので鱗の隙間から掻き出すようなものがいい。もしかしたら竜と人が生きる地であれば、専用の物が用意されているだろうか。
「ま、それは戦闘が終わったらの話だな。サンサルさん、まだいけるか」
『あたぼうよ、なんていったって俺は狭間の翼だからな!!』
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