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竜へ捧げる鎮魂歌【第一話/全三話】

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竜へ捧げる鎮魂歌【第一話/全三話】
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「人と竜が共に暮らす世界なんて素敵ですね」
 そう想い馳せるのはシルノ・アルフェリエだ。
 別の世界では愛竜と共に空を駆けたこともあった。そう考えればこの世界にも興味が湧くというもの。それに何よりも困っている者達のために、平和のためにも力になりたい。シルノはそう考え、持っていた竜の笛に手を掛けた。
 世界は違えどリンドヴルムは竜の一種。であればこの地に住まう竜と縁を結ぶ事ができるかもしれない。
 そんな期待を込め、シルノは竜の笛を静かに吹き始めた。
 音色が響き渡ると近くに居た竜達が反応し始める。人と竜の平和を思い描き、音を紡いでいけば一匹の竜がこちらへとやってきてくれた。
『珍しい笛だな』
「ええ、竜を呼び寄せるためのものです」
 シルノが答えれば、竜はいたく感心したように目を開いた。
『そうか、だから心が……』
 音色を気に入ったのだろう。竜はどこか懐かしむような表情を浮かべ、音色の余韻に浸っている。
「私はシルノと言います。よければあなたの名前を聞かせて下さい」
『我が名はバル、この地に生きる火竜の末裔だ』
「私はこの世界をよく見てみたいのです。瘴気のせいで今は自由にとはいかないようですが……素晴らしい景色とか、美味しい物とか、あなたは知ってますか?」
『知っているとも。歓喜の森、喜びの湖……この大陸に住まう者しか知らぬ場所だってあるぞ』
「でしたらこの世界を邪竜から守るために力を貸して下さい。そして一緒に素敵なものを見てみませんか」
 平穏の訪れた世界でそれらを楽しみたい。その為には先ず、この地に起きている危機を救わなければならない。シルノはハッキリとした口調で思いを伝えていった。
 バルはシルノの言葉を受け、窺うような視線を向けてから静かに言の葉を紡ぐ。
『望むのであれば、お前の翼となろう』
 力強い羽ばたきを見せ、器用に足を折り曲げて体高を低くしてくれた。乗っても良いという事だろう。シルノは満面の笑みでかの竜へと騎乗した。

◇◆◇


 神殿内にはミンストレルの歌声が響き渡っている。外に出ても尚聞こえるほど力強い歌声は、戦場へと赴く者らを鼓舞しているようであった。
 邪竜の眷属たちを纏っている瘴気も幾分か和らいでいる。先に戦っている者達も遺憾なくその力を発揮している。行くのならば今だろう。
「バルさん、参りましょう」
 シルノはバルに指示を出し、空へと上がった。
 羽ばたくせいで竜の背は思ったよりも揺れている。だが、愛竜に騎乗したことがある彼女にとってはこれくらい朝飯前だ。揺れるタイミングで足に入れる力を変え、上手い事衝撃を和らげていく。後は戦闘中、相方となった竜にどれだけ合わせられるかが鍵となるだろう。培った経験を活かすか、それとも新たに癖を見抜いて共に駆けられるように調整をすべきか、そう考えるだけで戦闘の高揚感とは別に楽しさが湧いてくる。
 ああ、早く色々な場所に行ってみたい。先程言っていた歓喜の森や喜びの湖とはどんな所だろうか。心洗われるような場所だろうか、それとも言葉に詰まるほど麗しき場所だろうか。シルノはそんな事を思いながら、竜の背を優しく撫ぜる。
「ですが、楽しみは全てが解決した後ですね……」
 シルノはわくわくとした感情を一度しまい、背筋を伸ばした。
 すると、上空から一匹の眷属がこちらに向かって急降下をし始めていた。
「火を噴くタイミングはお伝えします!!」
 火竜の末裔と名乗るくらいだ。もし駄目ならば別の手を考えるまで、シルノは指示を出してその場を離れる。
 相手の機動を見極め、引きつけるように誘導を試みた。
 眷属は翼を巧みに使ってバルとシルノに距離を詰める。羽ばたきがより一層大きくなった事を見定め、シルノは声を張り上げた。
「今です!!」
 指示を受けたバルは胸を張り、大きく息を吸い込み留める。閉じられた口、それに沿って生えている幾本もの牙。その隙間からは高温の炎が漏れ出し始めた。
 やや間をおいて放たれたのは竜の炎だ。火球は眷属へと真っ直ぐ飛んでいく。
 眷属は急降下のため翼を広げていた。そのため予備動作が間に合わず、火球の餌食となる。衝突の際には大きく火花が舞い散り、何が焼けたのか分からないほど臭気が漂ってくる。
「そのまま前に、潜り込んで下さい!!」
 バルは雄々しく咆哮を上げ、炎の餌食となった眷属へと飛び込んだ。眷属の真下を潜るように空を滑空し、シルノは魔槍ミスティルテインを構える。
 放ったのはすれ違いざまの高速攻撃だ。逃げる手を封じられた眷属は素早い攻撃を躱すことができず、魔槍の餌食となった。
 ぶすぶすと焦げる匂いが一際大きく立った。
 眷属はどうなっただろうか。シルノが振り返ると、そこに眷属の姿は無い。薄らと瘴気が漂い、風によって霧散していく。
 その中央に輝きを見た。何かの反射だろうか、それとも――。

「倒された眷属はどうなるのでしょうか」
『竜は死せば天へと還る。この浮遊大陸よりも高く高く、星々よりも高いところへ』
 それは竜の死生観だろうか。あるいは言い伝えだろうか。
 シルノには分からなかった。だが、語るバルの物言いが柔らかいことを鑑みるに、そう悪い捉え方はしなくても良いだろう。
「そうですか、願わくば……還る場所が暖かな場所でありますように」
 シルノは綺麗さっぱり消えてしまった瘴気を眺め、そう祈った。
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