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竜へ捧げる鎮魂歌【第一話/全三話】

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竜へ捧げる鎮魂歌【第一話/全三話】
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「くっ……良樹と若葉の兄さんを助けにきたっていうのに、あんな奴らとどうやって戦えばいいんだ」
 窓の外を窺っていた星川 潤也は焦り顔でそう呟いた。
 相馬 桔平の緊急通信を受け、慌てて駆け寄ってみれば扉に吸い込まれてしまった。そこまではいい、しかしながら周囲の状況は芳しくない。
 先に着いた特異者が眷属を寄せ付けないように対処しているとはいえ、完全に退けるのにはまだ遠い。こちらが手を打たなければ防戦一方のままだ。
「世界の理が変わった……って事よね? あたし達の力もちょっと変化したけど、やることは変わらないわ」
 潤也の呟きを拾ったのは共に扉を潜ったアリーチェ・ビブリオテカリオだ。
「いつも通り人助けしたらいいじゃない、何を迷ってるの?」
「それはそうなんだけど……空を飛ぶ竜と戦うともなれば足が必要だろ?」
 ドラグーンアーマーやスタンドガレオンはこの地にはない。アークのように戦えないのであれば新たなる足が必要だ。
 潤也がどうすべきか悩みあぐねていると、一匹の竜が会話に加わった。
『翼が必要なら手を貸そう』
「それは有り難いが、お前は?」
『我が名は月光のフーヴァニール、月神セオラの系譜に連なる者』
 フーヴァニールと名乗った竜は恭しく頭を下げた。
 聞けば彼の住んでいた街は邪竜の眷属によって滅ぼされてしまったのだと言う。その無念を晴らすために翼を貸そうと、潤也とアリーチェの所へやってきたらしい。
「月光のフーヴァニールか、良い名前だな。確かに白銀に輝く鱗が、月の光みたいだ」
 フーヴァニールは潤也の言葉に小さく喉を鳴らし、膝を折った。乗れ、という事らしい。
『無論、貴殿の翼となり空を駆けよう』

◇◆◇


「さて、潤也は翼を得た訳だけど……あたしもそれに続かないといけないわよね。でも、その前に歌を考えないと」
 世界の理が変わった今、トルバドールとしての歌はきっと竜には届かないかもしれない。そう考えたアリーチェは神殿内に居るミンストレルに声を掛けることにした。
「ここに伝わっている歌ってどういうものなの?」
「歌……あぁ、捧げられた歌ですね。神話の時代より続く……吟遊詩人らの歌は沢山あります。でも、一番大事なのは互いを思い合う慈しみの心でしょうか。私達は竜と人との友好を示すための重要な存在ですから」
 ミンストレルの女性はそう語り始めた。
 歌や踊りに区別は無く、大事なのは何を思うかによるらしい。それが人と竜を結ぶものであればどんなものでも問題はない。女性はそう教えてくれた。
「なるほど……良い事ね。ありがとう、それなら直ぐに歌えそうよ」
 理が変わったとしても歌に込める想いは変わらない。それだけ分かれば十分だ。
 アリーチェは女性にお礼を述べ、神殿を出ようとしていた潤也とフーヴァニールの元へと駆け寄った。
「アリーチェ、もう良いのか」
「ええ、さっきも言ったけどやる事は変わらないもの」
「そっか、アリーチェもフーヴァニールに乗せてもらうか?」
「ううん、あたしは自分の翼でついていくわ」
 アリーチェが断れば、彼女の背には大きな翼が現れた。潜在力を解放した翼は大きく、力強い羽ばたきを以て彼女を地から離れさせる。
 それを見た潤也は大きく頷き、フーヴァニールに号令を掛けた。
「よしっ、行こうフーヴァニール。俺とお前の力で、この世界の人達を助けるんだ!!」
 フーヴァニールは潤也を背に乗せ、神殿の外へと飛び出した。四肢に力を込めて跳躍すると鋭い風が生み出される。陽光を浴びて煌めいた鱗は、先程潤也が言った通り美しい輝きを放っている。
「フーヴァニール、先に戦っている桔平の所に行けるか」
『ふむ、桔平というと……火群のスレンに乗っている者か。構わぬ、参ろうか』
 フーヴァニールは空を駆ける。眷属の攻撃を錐揉み旋転で躱し、桔平とスレンの元へ辿り着いた。
「助太刀に来たぜ!!」
「あぁ? お前は……そうか、緊急通信で来てくれたのか。巻き込んじまってすまねぇな」
 桔平は剣を片手に笑った。快活そうな笑みはやはりどことなく友人の面影がある。
「あんたが良樹と若葉の兄さんだろ?」
「なんで知ってんだ?」
「若葉から聞いてたからな」
 先の祭りの際、兄の名について尋ねた事があった。コーデリアに来るのであれば、そのうち出会うだろうと思っての事だったが……。
「まさか出会うとは思ってなかったけど……ああ、俺は潤也。こっちはフーヴァニール」
 潤也が名乗れば、フーヴァニールも嬉しそうに咆哮を上げた。
「そうか、うちの愚弟愚妹が世話になったな。まあ、俺も世話になるんだが……」
 桔平は眷属達をちらと見た。様子を窺ってはいるものの、その口元には火炎が漏れ出している。ブレスのために整えているようだ。
「――雑談は後だ、先ずはあいつらをなんとかするぞ」
 桔平はスレンに指示を出し、空高く舞い上がる。手に持った剣を煌めかせ、かの眷属へと飛び込んでいった。
「アリーチェ、歌は任せた」
「任せてちょうだい。……見てなさい、この空いっぱいに、あたしの歌声を響かせてあげるわ!!」
 アリーチェはやや後方に位置取り、二人のサポートをするために歌を紡ぎ始める。
 乗せる想いは人と竜を奮い立たせる戦士の歌だ。鼓舞するように力強く、同時に清らかな歌声が青空へと響き渡る。
 それを受け、潤也もフーヴァニールに指示を出す。英傑に恥じぬ雄々しさと共に、巨屠槍を構えて空を滑った。
 迎え撃つは邪竜の眷属、桔平との交戦をしながらもしなやかに空を駆け、方向転換をしながら溜めていたブレスを吐き出した。
 黒紫色の炎が辺り一帯を焼き払おうとその手を伸ばしていく。それに負けじとフーヴァニールは猛き咆哮を上げた。速度は落とさず、勢いは殺さぬように。潤也の指示通りに軽やかな動きでブレスの海を避けていく。
「フーヴァニール、そのまま行ってくれ!!」
 フーヴァニールは返事の代わりに翼を大きく羽ばたかせて空高く上がり、落下の勢いを利用して眷属へと落ちる。
 すれ違う間際、槍の穂先は眷属へと打ち付けられた。
 荒々しい鳴き声が一帯に響き、轟々と燃えさかる火炎は突如消え失せる。貫かれた眷属は傷口から黒々とした煙を撒いて静かに消え失せていく。その間際、僅かに煌めく物を見た。
「フーヴァニール、あれは……」
『……天に還ったのだ』
 答えたフーヴァニールの声色は救いを見つけた者のように穏やかであった。
『さあ、眷属はまだまだ残っている。あれらが無事に天へと還ることができるように屠るのが、今を生きる我らが竜の務めでもある』
 フーヴァニールはそれ以上何も言わず進行方向を切り替える、その先には未だ顕在している眷属の群れがあった。
「そうだな、話は後にしよう。行くぞフーヴァニール!!」
『行こう、渡り人よ』

◇◆◇


「……うん、あたしの歌声も届いているわね。それにしても……相馬家って何人兄弟なのかしら?」
 もしかしたらうんと大所帯なのかもしれない。アリーチェはそんな事を考えたが、フーヴァニールが次の眷属へ向かったのを見て、慌てて後を追いかけた。
「ま、落ち着いたら聞けばいいわね。良樹のお兄さんなら、きっとこの後も面倒事に首を突っ込むんだから」
 まったく仕方がない男共だ。アリーチェは小さく笑い、再び歌声を響き渡らせた。
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