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竜へ捧げる鎮魂歌【第一話/全三話】

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竜へ捧げる鎮魂歌【第一話/全三話】
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「マスター、マスター。どこでありますかーマスター」
 神殿内にゼロ・ゴウキの呼びかけが響き渡る。
 それもその筈、扉を一緒にくぐったはずのマスター――ロデス・ロ-デスの姿が見当たらないのだ。
「おかしいでありますな……確かに扉をくぐったのにはぐれてしまうとは……あ、丁度人がいるであります」
 いくら呼びかけてもロデスは出てこない。ならばこの地にいる者に問おう。
 そう思ったゼロは相馬 桔平の元へ向かった。
 どうやら彼は一度戦場へと赴き、一仕事終えた後らしい。身体の至る所に傷ができており、満身創痍といった様子で床に寝転がっていた。
「マスターを知らないでありますか?」
 ゼロは特製ポーションを手渡し、桔平に問いかける。
「あぁ? マスターだ?」
「扉を一緒にくぐったはずなのでありますが……マスターの姿が見当たらないのであります」
「扉……あー、お前も渡り人ってことか。しかし妙だな……大体の人間はくぐってすぐにあそこへ出て来る筈だぞ」
 そう言って桔平は先程ゼロがいた場所を指さした。
「ふーむ、それなのにマスターの姿が見えない……ということは…………なるほどそういう事でありますか!!」
「なんだ元気だな、そのマスターとやらが何処に行ったのか見当がついたのか?」
「ええ、マスターは既にこの世界を救うべく行動を起こしているというわけであります。それで姿が見えないのであります。流石マスター……死の大地での人命救助といい、マスターの行動は常に迅速でありますな!!」
 ゼロは胸を張り、敬愛すべきマスターの姿を思い浮かべた。
 ああマスター、流石マスター、やるべき事をこなすマスターは素晴らしい。ゼロは一人納得した様子でそう語る。
 そんなゼロを見ていた桔平は「んな事あんのか……?」と懐疑的な目を向けたが、人の幸せを壊すような事もないと一旦放置した。
「そんなマスターの為に働くであります!! ……ところでこの世界について教えてもらってもよいでありますか……?」
「ああ、俺も聞いた話だが……」

 桔平が教えてくれたのはこの世界についてである。
 小世界ハイラハン、その中に存在しているブランダーバスという国は竜と人が共生する所だった、しかしその平和は邪竜によって脅かされている。邪竜の眷属によって街や村のいくつかは既に滅ぼされ、藁にも縋る思いでやってきたのが国王であるメルゲン一行だと教えてくれた。
「なるほどであります……つまりマスターは今もこう……眷属をちぎっては投げしているのかもしれないのでありますな!! もしくは私を導くために影より手をまわしてくれているに違いないであります!!」
「やたらポジティブな嬢ちゃんだな……まあ俺が知ってるのはそんなところだ。それ以上知りたければ眷属共をなんとかしねぇとならねえからな」
 桔平は立ち上がり、ポーションの空き瓶をゼロに投げ渡した。
「ありがとな。んじゃ、俺はまた行ってくるわ。お前のマスター……? を見かけたら教えてやるよ」
「お願いするであります!! ……いえマスターの導きを得るのであれば……探さないほうが良いのでありますか……?」
 ゼロがうんうんと唸っている間に桔平は再び神殿の外へと出て行った。暫くすると竜の咆哮と羽ばたきが聞こえてくる。
「ハッ、こうしている場合では。マスターが世界を救うべく行動しているのであります、私もその手伝いとなるように頑張るでありますよ!!」

 ゼロはありったけの回復材を手に奔走した。
 傷口が化膿しそうなものにはピュアウォーターで汚れを流してから特製ポーションを手渡し、心のケアが必要であれば療養のお香、重傷で動く事すら儘ならぬ者にはウォーターエリクシル。様々な方法を以て人々の傷を癒やしていった。
「しかし瘴気を落とすにはミンストレルの歌が必須でありますな……そちらの対処は後ほど、手が空いた者に頼むであります。後は治癒の術式を展開しておけば……目まぐるしい忙しさであります……」
 ゼロは小さく息を吐いた。
 眷属の攻撃によって負傷した者と、心身的な疲労で倒れている者とでは治癒の方法が変わる。一人一人に対処していくのはとても時間が掛かる上に、こちらの身体は一つきり。いくら渡り人が協力し合っているとはいえ、傷ついた人々は沢山残っている。
「ちょっと休憩を……いえ、マスターの事を思えば…………あ、あれはマスター!?」
 ゼロは目を見開いた。人々に紛れ、マスターであるロデスがこちらを眺めていた。ような気がした。本当に気がしただけである。
「幻覚……いえ、これはマスターのお導きでありますな。休んでいる暇はないぞ……と、そういう事でありますね!?」
 ただの幻覚……否、見間違いである。しかしマスターの行動を疑わぬゼロにとって、それはもはや神託にも等しいものだ。
「分かりましたであります。私にできる精一杯を見せてやるのであります!!」
 そんな彼女を見守るのはロデスか、はたまた人と竜か。
 ゼロは己を鼓舞し、ありったけの回復剤を手に治療を再開していった。
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