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竜へ捧げる鎮魂歌【第一話/全三話】

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竜へ捧げる鎮魂歌【第一話/全三話】
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「ふむ、いつの間にか小世界ハイラハンに迷い込んでしまったらしい」
 風の吹くまま旅を続けていたアダム・スワンプマンは扉の前で腕を組み、首を傾げる。
 雨宿りとして立ち寄った洞窟に立ち寄り、調査兼探索を行っていたら扉に吸い込まれてしまったのだ。事態の把握をするため、現地の者に話を聞いてみたところ……それはなんともアダムの知的好奇心を満たしてくれそうなワードばかりが飛び交っていた。
「実に興味深い!! ここが浮遊大陸であることもまたアークと似通っている部分でもあるが……それにしては旧時代の設備しかないのも気になる所だ。人と竜が仲良く共生する社会ともなれば珍しい風土も根付いているのだろう」
 新たなる世界に想い馳せ、アダムが神殿内を見渡そうとすれば、それを遮るように眷属の咆哮が轟いた。窓ガラスを揺らし、内部の人間を脅かさんと不気味な囀りが僅かな余波として伝わってくる。
「……しかし、今は考えている間もあるまい。先ずはここの護りをすべきだろう」
 探求はその後でも良い、逃げはしない。アダムはそう考え、怯えている人々や戦いをサポートする者らに向かい声を張り上げる。
「我輩はアダム・スワンプマンと申す者!! いわゆるタロットの大アルカナに示された愚者と隠者の良俗性を有する碩学なり……人呼んで呪術医のアダムじゃ!!」
 アダムはタロットカードを懐から取り出し、元気よく挨拶を述べた。
 やはり最初は挨拶が肝心であろう。アダムなりの気遣い故の行動であったが、急な紹介とやや狂言染みた言い回しに、周りの者は目を開くばかりである。それを知ってか知らずか、アダムは彼らが正気へ戻される前に妄言を垂れ流していく。
 自己の生い立ち、知的好奇心を満たす世界についての感想、そしてこの世界にあるであろう未知なるものたちへの興奮。次から次に紡がれた言葉の全てを理解できた者はいるだろうか。否、一人もいなかった。
 一人の男が「お前は何を言っているんだ?」と言いながら近づいたものの、アダムは笑顔でそれを迎え、二の次が告げぬようパッションでけむに巻く。「いやだから」と口を挟まれそうになれば「細かい事を気にせず、もっと大らかに生きようではないか」と疑問点を全て封殺していった。力業である。
「まあ、全てはこの呪術医に任せよ」
 たとえ世界が異なれど、呪術という概念にはある程度の共通性がある。
 魔力を媒体に封ずるか、あるいは式に落とし込んで発動させるか。多少の誤差はあれど、原理自体は然程変わらないだろう。発動者が人であれば尚更の事。
「護符を拵えるとしよう」
 取り出したのはお絵かきセット。絵画一式が取り揃ったそれは色取り取りで美しい、その中から一つ絵の具を取り出し、筆に乗せてから紙の上を走らせた。
 ぐねぐねと唸る文字、そして魔力を込めるための陣。艶やかな色を広げていけば簡易呪符の完成である。
「本格的な物は時間や手間がかかるが、これでも絆創膏やそこいらの薬以上の効果はあるだろう」
 それらを負傷者の患部にペタペタと貼り付ければ応急処置は完了である。人々が呆けたツラをしているのはアダムの奇行にも似た振る舞いか、あるいは痛みが和らいだ事への驚きか。アダムにとってはどちらでも良かった。混乱さえ収まればこの場は上手くいくだろう、そんな事を考え今度は裁縫セットを取り出した。
「古来より用いられた魔除けとなれば、やはり五芒星」
 これから旅立とうとする者達のマントや籠手に小さな刺繍を施していく。ふんふんと鼻歌を歌い、時たま「そも五芒星とは」「呪符の歴史は」と一人で語り始める事以外は概ね順調であった。
 加護を受け、飛び立った者らを見送り、アダムは満足そうに頷く。
「先般も異世界で鍛冶屋の真似事をしてみたが、此度は呪術医か。いやはやどうして、これだから人生は面白い」
 だからこそ旅は辞められない。
 奇妙な縁が結んだ土地に、アダムの嬉しそうな高笑いが響き渡った。
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