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竜へ捧げる鎮魂歌【第一話/全三話】

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竜へ捧げる鎮魂歌【第一話/全三話】
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 メルゲンから事のあらましを聞いた忌枝 徒長は感慨深く周囲を見回した。
 どこもかしこも忙しなく歌を唄ったり踊ったり、呪術によるサポートを以て神殿外の眷属と抗っている。
 既にこの国の竜騎兵も外に出ている。勿論、渡り人である特異者達も出払っていた。
 戦闘の音は内部にまで聞こえてくるが損害らしい損害は今の所でていない。優勢とみても良いだろう。
「しかし……まさかドラゴンと一緒に戦う事になるとは」
 徒長は呟き、隣に並ぶドラゴンを見遣る。
 先程、メルゲンの紹介によって一匹の竜と縁を結ぶ事となった。名はアリマ、一般的な四つ足のドラゴンやワイバーンのようなタイプではなく、その体躯は蛇のように細長い。柔らかそうな鱗を持っているが、表面に滑り気のある水の膜が張られており、どちらかといえば防戦に向いている竜らしい。
「まあよろしくお願いします、かな?」
 徒長が窺うように尋ねれば、アリマは小さく頷き、口を開いた。
『よろしく頼む』
 短い返事だったが厭うような感情は見られない。ただただ静かにその場に佇み、号令を待っているかのようだった。随分と大人しい竜である。もしかしたら属性によってそういった偏りもあるのかもしれない。そんな事を思いながら、徒長はアリマと共に神殿の外へと向かった。

 アリマは空を泳ぐように飛ぶ事ができるが、移動速度自体はあまり早くない。それを補うために水の膜が張り巡らされているのだろう。ある程度の攻撃ならば受け止めるか受け流す事が多いのだと、アリマは教えてくれた。
「それなら、派手に殲滅とかはできないか」
 何せ徒長も防御型の行動が主である。猛攻を耐え凌ぐ手立てはあれど、所謂火力に関してはやや心許ない。防御を活かしつつ、確実に相手を追い詰めていく戦法が良いだろう。
「地道に削るとしますか」
 徒長は自身に水の膜を張った。これでアリマと同じく、ブレスなどの火炎に耐性を持つことができるだろう。だが問題は速度である。空を飛び交っている他の竜に比べ、アリマは移動速度がそれほど出るわけではない。眷属達に追いつこうとしても距離を縮める事は叶わない。ならば待ち構え、迎撃によって屠るのが良いはずだ。
「おびき寄せる事はできるか?」
『望むのであれば』
 アリマはゆったりと空を駆け、眷属に近づいた。相手の視界ギリギリにその尾をたなびかせ、挑発するように空を泳いでいく。
 釣られ一匹の眷属がこちらに向かってきた。アリマよりも速く、ぐんぐんとその距離を縮めに掛かる。
 徒長はスピットファルクスに水を纏わせ、眷属のかぎ爪攻撃を迎え撃つ。
 受け止めた攻撃を振り払い、水の流れのようにするりと相手の軌道を変えた。攻撃の余波はアリマの長い胴体へと向かったが、彼の竜の表皮は滑り気のある膜がある。軌道がそれたことにより方向がずれ、受け流した徒長と同じようにアリマも攻撃をいなす。振り抜かれたかぎ爪はあさっての方角へと流された。
 それを確認し、徒長はスピットファルクスに纏う水を振動させる。高速で振動する水はウォーターカッターのような切れ味を生み出してくれた。無防備になった眷属の脇腹にそれを滑らせ、振動によってそれを引き裂く。
 鎌剣の形状も功を奏したのだろう。スッと引き抜けば刃は眷属の胴体を貫いた。
 傷口からは大量の瘴気があふれ出した。それを煙幕として使い、眷属は後方へと下がろうとする。
 そこに放たれたのは穿空斬だ。空間を歪ませ、間合いの外に出た眷属への追撃。一拍置いた後、眷属の身体は二つに切り分けられ、そのまま空の下へと落下していった。
 その間際、何かの輝きを見たのだが……落下の速度が速すぎて直ぐに見失ってしまった。
「なんだ、あの光は」
 呟き、考えたものの分からない。それもそのはずだ、この世界には今までの世界と違った理がある。あれが良くないものであったら、そう心配もしたが、同じように眺めていたアリマが何も言わないので危険なものではないのだろう。

「攻撃が通るのなら今みたいに倒していけばいいかな」
 眷属の接近を許してしまうのは少々不安があるが、どちらも防御に長けているのであれば、そうそう痛手を負う事もない。問題点を挙げるとすれば、囲まれた時に退避が難しいことくらいだろう。だがそれも、徒長が補ってやれば良いだけの話である。

「防御型同士だけど……まあ、何とかなるだろう」
 派手な殲滅は他者へと任せ、自分たちは着実に事を成していこう。徒長がそのような事を言えば、アリマは静かに頷き、再びゆったりと空を泳ぎ始めた。
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