船旅までの幕間<4>
他の冒険者たちと距離を置き、クルーアルは建物の壁に寄りかかりながら立つ。
「それで、話って何?」
ジャスティンは意を決したように口を開いた。
「おまえが言っていた強い動機について考えてみたが、いろいろ疑問がある。質問させてくれ」
「いいだろう。答えられる範囲で答えてやる」
「偽者が“人族の男に媚びる魔族なんて見苦しい”と言っていたが、あれはどういう意味だ?」
「僕には資金援助をしてくれる人たちがいてね。全員男なんだ。飛鷹にも説明してあるから訊いてみるといいよ」
「魔族になりたがったリイン……これは関係あるか?」
「全くない。それは僕とリインの過去のひとつに過ぎないよ」
「角を折ったのは?」
その質問にクルーアルは目を見開いて、唇に弧を描いた。
「とても関係があるね」
「同族……魔族……家族……血族が問題か?」
「微妙だな。それとも言いたいし、それとも言い難い。微妙な位置だ」
「私からもいいですか?」
「どうぞ」
「あなたを同族殺しと言うなら、血族を殺したノー・キラーはなぜ、同族殺しと言われないのでしょうか?」
「それは簡単だ。彼女は自分の悪い噂を流す相手を徹底的に潰す。だから広がらなかったんだと思うよ」
「なるほど、ありがとうございます」
「他に質問は?」
3人は首を横に振る。
「角に触れてくるのは意外だったな。関係ないと見て質問してこないと思っていた」
「角は自分で折ったのか?」
「リインが折ってくれたんだよ。本人はかなり嫌がったけどね。言っておくが、リインに聞いても無駄だぞ。僕の強い動機にリインは呆れながらついてきてくれているからな。口に出すとまた嫌な出来事を思い出させてしまう」
クルーアルはそう言って、壁から背中を離す。
「僕からは以上だ。あとは思う存分考えるといいよ」
クルーアルは3人を置いて港に行ってしまった。
「シン、どう思いますか?」
「道はあるが、通るには慎重になんなきゃならねぇって感じだな」
「あの口ぶりだとリインもクルーアルの動機を知ってそうだ」
「でも聞いても無駄だと言ってたしな……よほど話さないと信頼しているのか……?」
「かもな。でも今回はリインとクルーアルは別行動している。話を聞くならダレストリスに行ったときしかない」
「ですが、話してくれる望みは薄そうです」
「いや、それはないと思う。リインはクルーアルに内緒で染まる武器の靴を誰かに譲渡しようと考えている。リインもリインなりに思うところがあるようだ。博打になるが、やってみる価値はある」
「“軽さ”で覆い隠したクルーアルの心の傷は逆に“重い”のでしょう。酷すぎる傷には本人が望むのでない限り、触れず話さずがいいんですが……」
「そういうわけにはいかねぇらしい。クルーアルの傷をこっちから開けないと、オレたちが求めてる答えには辿り着かない。気が重いがな……」