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【双月ニ舞ヒテ】渡り来たれ【第1話/全5話】

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【双月ニ舞ヒテ】渡り来たれ【第1話/全5話】
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〈前川米騒動(6)〉


『ああもう池田殿は頼りにならないなぁ!』
 春之進は隣に座る苺炎・クロイツに耳打ちした。
『ちょっと苺炎ちゃん、こりゃ早々に仕掛ける必要がありそうだよ。さっき話してた『アレ』、早速行こうよ!』
『……そうだね、モタモタしてるとグダグダになっちゃいそう』
 苺炎が徐ろに立ち上がる。

 ――前川邸到着の少し前。
「とりあえず、薬師の池田氏には御殿医の地位を約束して、材木商の阿部氏には出羽復興の建築全般を発注するって約束してこっち側に付いてもらった! あとはみんなで前川氏を丸め込んで蔵米出させよう!」
 息巻く春之進を見ていると、苺炎の婆娑羅根性にも火が付くというもの。
(婆娑羅はハッタリ上手、偉そうな人に立ち向かうのは得意だもんね)
「春之進ちゃん、ちょっと聞いてくれるかな?」
「うん、もちろん」
「これは、愚か者にしか通用しない浅はかな手段ではあるんだけど……」
 興味を示した春之進に苺炎が「ある作戦」を提案する。
「先に蔵米を放出した長たちへ、褒美を与えてはどうかな?」
「褒美?」
「そう! かっこいいお皿や、キラッキラの勲章、表彰状! 『諸君、この一大事によくぞ従って働いてくれた、家宝にせよ』みたいな感じで大盤振る舞いしちゃう。そうやってたっぷり労って、褒めてあげるの!」
 婆娑羅の苺炎が話すとどこか大仰で、豪胆で、「クサイ」。
 だが、それこそが婆娑羅の本領。
 現に春之進もかなり苺炎に乗せられている。
「そ、その心は!?」
 と思わず前のめりになる春之進に、苺炎は続けた。
「その心は――前川二郎左衛門を挑発して、自ら蔵米を出したくなるように仕向ける! 高貴な方からのお褒めの言葉やその形って、普通ならお金じゃ手に入らないもん。それに、たとえ宝物は奪えても、受けた名誉は奪えない。『どんなにお金を積んでも手に入らないモノ』を、周りの長は頂いているのに自分には与えられない……ねぇ、これって当事者だったら何かムカつかない?」
「うん、うん、分かるそれーっ!」
「どうせなら、『より多く蔵米を蓄え、より多く出せた長をより大きく褒め称える』ってのもやっちゃう? そしたらさ、二郎左衛門が蔵米を出せば、それだけで一番褒められる立場にならない? だって、前川集落は『出羽最大の収穫高を誇る集落』なんでしょ?」
 苺炎が説明する間春之進は絶句していたが、我に返るとぽつりと一言、
「……それ、宴の席で言ってくれる?」
 と苺炎に依頼するのだった――

「そういえば春之進ちゃん、岡島集落の長と大島集落の長には天鳥様の御紋が入ったキラッキラのお皿を進呈することになったんだよねっ!」
「な、何?」
 立ち上がった苺炎の言葉が二郎左衛門に刺さる。
「あとはどこだっけ? どこかの集落の長は大将軍様から直々に守り刀をもらえることになりそうなんだよねー! 一番沢山蔵米を出した長は、御殿に呼ばれてみんなの前で賞賛を受けて、金銀細工の鏡をもらえるんだよねー?」
「うん、そうだよ、その予定! もうね、岡島集落と大島集落には明日にでもその旨を文に書いて送ろっかなーなんて!」
 苺炎に続きを促され、春之進は半ば声を上ずらせながら早口でそう言った。
「ああー、出羽一番の栄誉に輝くのは一体どこの長なんだろうねー?」
 手持ちの扇子が二郎左衛門を挑発するようにゆらゆらとはためき、二郎左衛門を見ているようで見ていない苺炎の曖昧な視線が彼の功名心を刺激する。
 婆娑羅が本気で挑発すれば心根の浅ましい者は容易くその土俵に乗ってしまうのだろうが、元より苺炎には勝算もあった。
 この場には実際に高貴なお家柄の春之進がいるのだ、それだけで今回の博打の分は良くなり、一連のこけおどしだって本物になる。
 雅仁の側近である点や普段の言動から足下を見られていると春之進は言っていたが、その家柄は二郎左衛門より遥かに格上、その威光を使わない手はない。
(こっちを見下すならそれで結構、いっそ下なんて見なくていいわ。上への見栄でも蔵米を使ってくれたらそれでいい。どうせ下の人間は勝手にそれを使って逞しく生きるもの。だから……この博打、絶対勝ってみせるんだから)
 苺炎は、明らかに心の揺れている二郎左衛門になおも挑発的な視線を送り続ける。

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