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【双月ニ舞ヒテ】渡り来たれ【第1話/全5話】

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【双月ニ舞ヒテ】渡り来たれ【第1話/全5話】
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〈前川米騒動(1)〉


 鳥湖山を目指し御殿を出る雅仁らを見送って、春之進は溜め息を吐いた。
「マサを怒らせるとほんとロクなことにならないからなー……どうにか上手く平和的に解決しないと」
 春之進の「平和的」という言葉に、星川 潤也が頷く。
「雅仁様が二郎左衛門を殴りたいって気持ちは分からないでもないけど……やっぱり、出来るだけ暴力沙汰は避けたいよな」
「そうなんだよ。前川氏は金にもの言わせて相当荒ぶった連中を配下に置いてるからね、こっちとしてはあまり事を荒立てたくないわけ」
「でも、そういう手合ってのは、大体叩けば埃が出るもんじゃないのか?」
 潤也の言ったことは恐らくどの世界でも共通の認識だ。
 およそ人道に背く行いを平然とやってのける者というのは、大抵利己的で遵法精神に欠ける。
 遵法精神に欠ければ、人生のうちで何かしらの悪事を働いていてもおかしくはない。
「だから、二郎左衛門だって相当悪事を働いている筈だ。その証拠を見つけて、暴いてやろうぜ。それならぶん殴らずに済むじゃないか」
 潤也がそう言うと、八上 ひかり
「それに、そーゆー欲の皮が張った相手なら、口八丁手八丁で丸め込んで蔵米を騙し取ってやってもいいんじゃない?」
 とキラリと瞳を妖しく光らせた。
 春之進は二人の提案を笑顔で聞きつつも、
「それはそうなんだけどねー……」
 と首を傾げ難しそうにする。
「……やり方を間違うと、今よりもっとマズイことになっちゃうんだ。出羽はね、悲しいことに身分社会でさー……」
 春之進は出羽の社会システムについて潤也たち渡来人に簡単に説明する。
「兎にも角にも一番偉いのは天鳥様。国の王、主……下手すりゃ神? まぁとにかく偉いの。で、天鳥様の下で政を執り行うのが公家――通称『お公家様』――と、マサや俺みたいな武士団の上層部。武士団の上層部ってのは、大体が元はお公家様の分家だったり、公家の血を引く祖先が興した家だったり……だから、武芸も心得てるけど一応『由緒ある高貴なお家柄』なワケ。その下に武士団に属して国と民を守る『武士』がいて、農民や商人たちはまとめて『平民』として武士の下に置かれてる。この更に下、出羽で最下層の身分とされているのが『賤民』。賤民が何かっていうのは後で話すとして、今俺が言いたいのは、武士は平民よりも上に置かれてる以上、後ろ指指されるような真似はしちゃいけないってことなんだ。人の上に立つ以上は品行方正に、お仕事は私情を排して万民のために、そこに一切の不義不正があってはならない……君たちの国でもそういう感覚、ない? 前川氏みたいなのが国の政を牛耳って好き放題やり出したら、暴動が起きたり国の秩序が乱れたりしない?」
 春之進は一拍置いて続ける。
「回りくどくて分かりにくくなっちゃったけど、要は、『たとえ悪事を暴くという大義名分があったとしても、こっちが武士団である以上強引な手段や不法な手段を用いちゃいけない』ってこと。無論、武士団が迎え入れた渡来人も事情は一緒。これがね、相手が辻斬りの常習だとか詐欺盗賊の類ならまだ誤魔化しが利くよ。でも、前川氏は罪人じゃない、腐っても平民。もしそういう手を使っちゃったら、バレた時に『罪を取り締まる武士団自ら罪を犯しているではないか』ってこっちの足下掬われちゃうんだよねー。そんなことになったら、たとえ天鳥様が一喝したとしてもこの国の秩序は崩壊しちゃう。武士団に対する民の信用はガタ落ち、武士団の言うことも聞かなくなっちゃうから取り締まれない犯罪が溢れ返って、民が民を傷付け貶め、やがて国そのものが滅ぶってわけ」
「そうか、手段は慎重に選ばなくちゃいけないのか……」
 そう呟きながら神妙な顔で何度か頷く潤也の隣では、ひかりも複雑な表情を浮かべていた。
(……うーん、今の話だとあたしの作戦もちょーっとマズイかも?)
 持参した宝石を懐の中で転がしながらひかりは自身の策を省みる。

 ――渡来人の故郷では、この宝石は魔除けの石として使われている。
 出羽のとある山の中には、この石が沢山取れる場所がある。
 禍々しい者たちが跋扈している今、魔除けの力がある石なら皆喉から手が出る程欲しがるに違いない。
 そうなれば石の価値はどんどん上がる、近いうちに何十倍にもなるだろう。
 この場所が他に知られる前に押さえておけばガッポリ稼げる――

(なーんて言って、土地代と称して蔵米を騙し取ってやろうと思ったんだけどねー……)
 本来ならば次郎左衛門のような欲の皮の張った奴をペテンにかけるなど、ひかりには朝飯前だ。
 口八丁手八丁、華麗に騙して蔵米を引きずり出すことには成功するだろう。
(でも、あくまでこっちは清廉潔白でなきゃいけないって……そういう縛りがあると面倒よね。何かいい方法ないかなー?)
 ひかりは宝石の新たな使い道を懸命に考え始めた。

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