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【テスタメント】”神”なき世界に迷える羊

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【テスタメント】”神”なき世界に迷える羊
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プロローグ


 フリートラント大都市圏中枢部、フリートラント共和国首都イエナの総統官邸執務室。
 そこで執務机に背を向け、壁面に投影される首都の光景を見つめていたフリートラント共和国総統、カール・フリードマンは、深い溜め息をつき、呟いた。
「年末までには戦争を終わらせたいものだな」
 壁面には降りしきる雪に包まれる首都の光景が映し出されている。一見、何事かも起こっていないような平和な風景。だが、その光景は銃後の平和であることを、”統一戦争”を起こした彼自身が最もよく承知していた。
 せめて、早く平和を取り戻し、人工神格の建造を進めなければならない――彼は決意を新たとするとともに、ポラニア連合王国側からの批判を思い出して苦い顔をする。
 ――フリートラント総統は神の代理人として世界を支配するつもりだ。
 ――人工神格の開発技術を独占しているのがフリートラントである以上、どのように取り繕ってもフリートラントの理で神格が製造される懸念は残り続ける。
 それはある意味仕方がない批判だったと、フリードマンは理解している。彼を最高権力者として成立する全体主義国家フリートラント共和国と、協同と自由を重んじる諸邦との対立は長きに渡り、世界崩壊の危機にあたってデタントが一時的に成立したものの、真に互いを信頼するには時間もヒトの器も足りなかった。
 フリードマンは平和な首都の光景から、別の壁面の壁画へと視線を移す。そこには、人々が輪になって手をつなぎ踊る、ポラニア正教の理念を表すロマン主義絵画が描かれている。かつての盟友、ポラニア国王スタニスワフ・ピウスツキ・ソビエツキから送られたその壁画の奥には、人工神格を支える為そびえ立つ軌道エレベータ”ピラー”の姿が描かれていた。
 しかし、盟友であったスタニスワフも、テロの凶弾に倒れ、もはやこの世にはいない。フリードマンは孤独な独裁者として、彼の娘――ポラニア連合王国国王エカチェリーナ・ピウスツカ・ソビエツキと闘わなければならなかったことを、いたく苦慮していた。
 だが、その戦争ももうじき終わる。そうすれば、現在は限定的にしか運用できていない人工神格レーゲルの完成と、唯一の理によるテスタメントの安定化を図ることができる――それが彼の考えであり、世界崩壊を救うヴィジョンだった。



 一方、ポラニア連合王国首都リーガでは、議会王エカチェリーナとポラニア王冠領ヘトマン、アレクサンドラ・フィグネル少将とが、特異者たちと対話していた。この世界に来て間もない特異者たちに、世界の現況とポラニアの窮地を訴えかけるためである。
 その内容は、この世界が神なき世界であり、人の理により成立していること、しかし人の理が多元化し、世界は無数の破片に砕け散ろうとする危機にあること、その危機を防ぐため、人々は一旦、人工神格による世界の理の一元化を望んだこと、しかしそれの主導権を巡って軍事独裁国家フリートラント共和国とその他の国々が対立したこと、フリートラントと対立する国々はポラニア王国を中心にポラニア連合王国を結成して立ち向かったこと、しかし衆寡敵せず、フリートラントの攻勢の前にポラニア連合王国は滅亡寸前であること――要するにワールドホライゾンで市長・紫藤 明夜から聞いた内容とほぼ同じであった。
 だが、その説明はポラニア視点のものであり、偏っているのではないかと感じるものもいた。
「今の僕たちには、エカチェリーナさんやアレクサンドラさんの言葉を信じるしかないです。でも、型通りの説明だけでなく、本音を話してもらいたいのです……」
 土方 伊織がそう問うと、エカチェリーナは憂いを顕にし、伊織に応えた。
「私は、本当はフリートラントも平和と世界の修復を望んでいると思っています」
「エカチェリーナ様!」
 傍らの男装の麗人、アレクサンドラが止めようと語気を鋭くするが、エカチェリーナは首を振り、アレクサンドラを制する。
「いいのです。特異者の方々には、この国の中では言えないことも含め、きちんと伝えなければならないことがたくさんありますから」
 するとアレクサンドラは意を組んで沈黙し、エカチェリーナが真情を語るのを見守るように側に寄った。エカチェリーナは伊織に対して言葉を継ぐ。
「フリートラントのフリードマン総統は、かつて私の父スタニスワフと共に世界の修復を志した同志でした。そこには神になろう、世界を私しようなどという私情は一切なく、ただ世界の修復と、それによる平和の到来を求めて行動をともにしていたのです。それは、まだ幼い日の私が直接目にしていた光景からの印象ですが、私はその印象が間違っているとは思えません」
「でしたらなぜ、早く和平してフリートラントと協力し世界の修復をしないのですか……僕にはそのほうが、時間と人命を犠牲にしない良い方法と思えるのです……」
 鋭い、というかある意味当然の質問を投げかける伊織に、エカチェリーナは憂いを深くし、しばしの沈黙の後答えた。
「――ポラニアの多くの人々に、それを信じさせるだけの力が、私にはなかったからです。今でこそ”ポラニアの聖女”などと呼ばれ、挙国一致態勢の指導者となった私ですが、それは主戦派に担がれ、戦争指導者となってからの後。それ以前の私には、貴族議会をまとめる力が、民人を信頼させる力が、何より勇気がありませんでした」
「そんな……でも今からでも遅くないです。力を得た今なら、できるのではないですか……」
 伊織が更に深く和平への意思を問いただすと、エカチェリーナは頭を振った。
「私の権威は、戦争指導者として成り立ったものです。故に、勝った上の講和でないと、貴族議会も民人も納得しないでしょう。それに、私の印象がもし間違っていたのなら、ポラニア連合王国はフリートラントの圧政に敷かれることとなります」
「ううん、難しいのです……」
 伊織はエカチェリーナの答えに懊悩する。エカチェリーナの言葉は確かに筋の通ったこととも、どこか自身の非力にすがった言い訳とも思えるのだ。
 だから、伊織はエカチェリーナの心底を突く。
「エカチェリーナさんは、何を望んでいるんですか……」
 再びしばしの沈黙。そして答えたエカチェリーナの声には、決意を示す張りがあった。
「――今となっては、ポラニア連合王国の独立維持を。そして、フリートラントの侵略を挫き、対等和平の上で、彼らが押し付けようとするものとは違う、新たなる世界の修復手段を確立することです。フリードマン総統の意志が何処にあれ、私はポラニア連合王国を統べるものとして、そうせざるを得ない義務とそうしなければならないという意思を持っています」
「そのため、ポラニア連合王国軍は冬季反攻を計画している。異世界から来て早々申し訳ないが、君たちにはその大反攻の一員として、作戦に加わってもらいたい。エカチェリーナ陛下からだけではなく、私からも心よりお願いする」
 エカチェリーナとアレクサンドラは共々頭を下げた。特異者たちは、それぞれに想いを秘めながらも、ワールドホライゾンの依頼と彼女たちの願いを完遂するべく、めいめいに頷いた。

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