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理想の未来に死にゆく絆:第5話

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理想の未来に死にゆく絆:第5話
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「攻撃はそっちからでいいわよ。準備が出来たと思ったらいつでも来なさい」

 ノー・キラーは肩の力を抜き、肩幅と同じ幅で足を開く。

(これまで通りには行かないな。魔力配分が重要になってくる)

 ヘルムートは自分の周囲に小規模な聖域を形成した。
 相手は仮初ではあるが、膨大な魔力を持つ。
 戦法にもよるが、短期戦長期戦どちらにしても魔力をかなり消費するのは間違いない。
 自身を拠点とし、味方が回復中に攻撃が来たら守護者を召喚して守る。
 ノー・キラーとの戦いにおいて自分の役割はこれなのだと瞬時に悟った。

(それにしてもクルーアルはノー・キラーが来るのを見越して、私たちを向かわせたのか。おそらくやってほしいのはノー・キラーを退けることだろうな)

 何となくシレーネに目をやる。
 モノクルのかかっていない目には、魔力で形成された丸型レンズが浮遊していた。

(能力が何かわからないが、頼りにしているぞ)

 ヘルムートは前を見据える。
 シレーネは銃を構えながら、モノクルにブリジットとノー・キラーを映して、染まる武器の能力を探っていた。

(魔力の流れとか質とかはわかんないけど、ブリジーとノー・キラーが次どう動くのかはわかる。そんでもって、どこが急所なのかもわかる。……あー……これあんまりあっちに知られたくないやつじゃん。できるだけ大したことない能力っぽく立ち回りたいけど、ブリジーたちがヤバくなったら遠慮なくってところかな)

 シレーネはヘルムートやエーリッヒよりも下がる。
 モノクルを通して全体的な動きを先に知っておくことで、援護や的確な攻撃ができる。
 シレーネの後退に、エーリッヒは振り向いた。

「わかっているな? 私たちがやるべきことは」

「ノー・キラーにおじいちゃんを諦めてもらうでしょ?」

「そうだ。染まる武器があるからとはいえ、無茶はするな」

「ん、了解」

(あー、師匠が振り向くのもわかっちゃったよ……。これいたずらとかにも使えそうだし。ま、それは置いといて、始めようじゃん。アーシらだけでどこまで通用するか、モノクルの能力がどんなものか見極めてやろうじゃん)

「ブリジー! いつでもいいよー!」

 シレーネの合図に、ブリジットは思わず振り向きそうになる。

(何で私なのよ!? まぁ、いいわ。私が動かないとシレーネたちも攻撃できないだろうし)

 ブリジットは睨むように見据える。

「尻尾の先がピクピク動いてるわよ?」

「尻尾がどう動いたっていいでしょ!」

 ノー・キラーとの距離を一気に詰め、2つの短刀から超高速の連続回転斬りを繰り出す。
 珊瑚の短刀で義手剣を封じつつ、闇狩りの短刀で隙を作る。
 だが、魔神の加護があるのでダメージを与えるのは厳しい。
 ブリジットはそれでもその手を止めなかった。
 現時点で攻撃の要はエーリッヒとシレーネであり、少しでも動きを封じておかなければ、先ほどのように瞬時に動かれ、全員抵抗する間もなく殺されるだろう。
 ノー・キラーからの攻撃は基本回避だが、いざとなれば果敢に斬り込んでいく。
 エーリッヒは狙撃特化モードに切り替え、ノー・キラーの隙に向けて撃つ。
 彼の弾にノー・キラーは特に大きな反応を示すことなく、その弾を受けながら義手剣の上に乗せられた弓矢でブリジットに応戦していた。

(魔神の加護に任せているといったところか。私だけだと破るのに時間がかかるが……シレーネは何をしている? 始まってから一発も撃っていない。隙を見出せないのか? それともそのモノクルが足を引っ張っているのか?)

 エーリッヒは射撃に適切な距離を取りながら走るシレーネを横目に、ブリジットに集中する。
 そのシレーネはというと、ノー・キラーの周りを走りながら射撃のタイミングを模索していた。

(キルストームの次が映らなかったということは、速い動きだと対応できないってことじゃん。それはそれで置いといてさ、ヤバいんだよね。全然撃てない。どの角度から見てもノー・キラーがブリジーを盾にする未来しか見えないんですけど)

 一見、ノー・キラーはブリジットの相手を積極的にしているようだが、根本的な体捌きはシレーネの銃撃に特化していた。
 モノクルを持ったことで何かの能力がプラスされているのは、ノー・キラーも承知済み。
 彼女はシレーネがどういった能力を授かったのかわからないので、いざというときはブリジットを盾に防ぐことを考えている。
 その証拠にブリジットの攻撃を時折食らってあげているのだ。

(アーシ以外興味ないし、アーシ以外遊んでやってるってことじゃん。超ムカつくんですけど)

 シレーネは騒天の霹靂を持つ手を下げ、深海の大渦をノー・キラーに向ける。
 モノクルは相変わらず、ノー・キラーがブリジットを盾にする様子しか映さない。

(急所は隠れてるし、間をすり抜けて撃つとなるとモノクルの能力が知られるかもだから……)

 シレーネはノー・キラーの足元に向けて発砲。
 一箇所には留まらず、走りながらノー・キラーの足さばきをひたすら妨害する。
 妨害したことで、ブリジットを盾にする未来は回避され、厄介そうな顔をするノー・キラーが映った。

(よし、しばらくはこれで行くし)

 そう決めた刹那、ブリジットが一瞬にして斬り伏せられ、シレーネに向かってくるのが映った。

(やば!)

 シレーネは双銃を同時発砲。
 電撃を纏った水弾が義手を撃ち貫いたことで、ブリジットは救われたが、シレーネに向かうのは変わらない。
 発砲と同時にシレーネは左手だけで両腕を押えられ、地面に倒される。

「何の能力か知らないけど、返して貰うわよ」

 一部破壊された義手がモノクルに伸びる。
 右目の本体に触れさせないよう顔を背ければ、固い平手打ちが飛んだ。
 エーリッヒが発砲しているが、ノー・キラーは見向きもしない。
 ブリジットが背後から掴みかかる。
 モノクルがブリジットの未来を映す。
 シレーネが声を上げそうになったときには、重力の魔法で押さえつけられ、首を締めつけられていた。
 バタバタもがくブリジットを眼前に、抵抗するシレーネ。
 左腕の拘束は魔力が乗せられているらしく、固くてほどけない。
 ここで終わりかと思いきや、一陣の突風が吹いた。
 エーリッヒがゲイルブリングを放ったのである。

「こちらは思う存分攻撃ができるな」

 彼の挑発に、ノー・キラーはエーリッヒたちの方に猛スピードで向かってくる。
 エーリッヒは聖域に入り、ヘルムートは結界を張る。
 ノー・キラーの蹴りを間一髪防いだ。
 2人が引きつけてくれている間、シレーネはブリジットのもとに駆け寄り、体を起こす。

「ブリジー、立てる?」

「何とか……」

「アーシがノー・キラー引きつけるから、ヘルムートのとこ行って」

 ブリジットが駆ける先では黒い稲妻が走っている。

(あれだと持たないね……)

 映っているのは同じ攻撃を繰り返すノー・キラーの姿だが、ヘルムートの能力からして長くはないのは明白だった。
 シレーネは双銃を構え、もう一度電撃を纏った水弾を撃つ。
 急所ではない右脇腹を撃ち抜いた瞬間、シレーネは走る。
 自身に来るのはわかっているので、水弾を足元に乱射。
 ノー・キラーが魔法でスピードを上げようとすれば、エーリッヒのゲイルブリングが阻む。

「シレーネ、こっちだ!」

 叫ぶヘルムートにシレーネはノー・キラーの動きに目を配りながら彼の元へ。
 エーリッヒは狙撃特化モードを解除し、突風を連射。
 その間に、シレーネは聖域の中に飛び込む。

「全員まとめて死ね!!」

 ヘルムートが守護者を召喚した瞬間、黒い稲妻が再び走った。
 彼女の本気の攻撃に守護者は消えるが、シレーネの眼前でノー・キラーの急所の1つが晒される。
 シレーネが双銃を構えた瞬間、モノクルがノー・キラーから右脚の蹴りを伝える。
 彼女はそれでも電撃を纏った水弾を撃つ覚悟を決めた。

(蹴られたっていいじゃん。今しかチャンスないんだし!)

 双銃の弾がノー・キラーの腹部の中心を貫く。
 飛んでくるはずの蹴りは、ヘルムートが受け止めていた。
 ノー・キラーがふらふらと引き下がれば、地面に血が数滴落ちている。
 麻痺もあるようで、シレーネたちを睨みながら後退して以降、その場から動かない。

「へぇ……」

 彼女が不敵に笑った瞬間、右肩に弾が当たり、炎が包む。
 強力な魔力反応に振り向けば、優が肌に痣を浮かせて迫る。
 剣が触れる寸前、ノー・キラーは煙のように消え、刃は地面に亀裂を走らせた。

「あと少しだったのですが……」

 優は膝をつき、息を荒くする。

「みんな無事!?」

 ルージュがシレーネたちのもとに駆け寄る。
 その後ろにレジェヴァロニーエとシュヴァリエの姿もあった。

「あれがノー・キラーなのですね」

「そうだ」

 レジェヴァロニーエが優に手を貸す中、シレーネは周囲を見渡す。
 ヘルムートはルージュに支えられながら体を起こすが、結界を張っていたため外傷はない。
 カームも玄関に座っていて、怪我はない。

「逃げられちゃったけど、結果オーライかな」

 シレーネはモノクルを外す。
 モノクルはシレーネの手の中で堂々とした輝きを放っていた。

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