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理想の未来に死にゆく絆:第5話

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理想の未来に死にゆく絆:第5話
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予知鏡(フォーサイトミラー)


 シレーネ・アーカムハイト、ヘルムート(詠宮 詩郎)、エーリッヒ・アーカムハイトブリジット・シャッテンはカームの家でのんびりとした時間を過ごしていた。

「何かここの状況と外の状況のギャップに風邪引きそうなんですけど」

 シレーネは椅子にもたれながら天井を仰ぐ。

「退屈そうだな、シレーネ」

「師匠、それ言ったらサボってるって思われるじゃん。アーシらサボってないからね」

「でもこの状態だとサボってると思われても仕方なくないわよ」

 ブリジットは皿のクッキーに手を伸ばす。

「ブリジーまで……ヘルムート、アーシらがサボってないの証明して」

「私たちは自宅警備員をしている」

「もうそれただのニートじゃん」

 彼らの代わりに説明すると、シレーネたちはカームの家を拠点に活動している。
 4人の連携でプリシラ南部の魔力狩りは敵が流れてこない限り、制圧したと言ってもいい。
 優からの情報で、自分たちになりすましている敵も探したが、プリシラでは見当たらなかった。
 染まる武器もブリジットを主力に探してみるも、見つからず。
 優たちと合流し、プリシラからの移動も考えたが、クルーアルの要望の意味が未だわからずにいた。
 カームの家に寄っていってほしい。
 それ自体に従うのは問題ないが、訪ねればカームとカインはいつも通り。何かに困っているとかでもない。
 シレーネとヘルムートは何か意図があるはずだと思い、ここを拠点にしたが何もない。
 何日経っても、カームやカイン周辺に事件は起こらず。
 何なら魔力狩りに行っている間に襲撃されたりとかもない。
 ヘルムートは「訳が分からん」と呟きながらイライラしていたが、シレーネは待つことを選んだ。
 カームの家に何かある。
 でなければ、クルーアルが一点張りして言うはずがない。
 彼女の直感がそう訴えて止まなかった。
 彼が何を知っているか定かではないが、カームたちの身に何か起これば、ここにいた身として後悔と罪悪に苛まれるだろう。
 だから、彼らは待っている。この家にやってくるであろう脅威を。

「シレーネたちよ、お茶のおかわりはいるかの?」

「あ、ちょうだい」

 カップを差し出した瞬間、エーリッヒが腕を掴む。

「師匠?」

「何か近づいてくる」

 シレーネも耳をすませれば、ヒールの音。
 逃げるにしてはゆっくりで、ヒールを鳴らしているのも不自然だ。

「癒やしの守護をかける」

 ヘルムートは3人に癒やしの守護を施し、自分にもかける。
 それぞれ武器を手に、玄関を注視。
 じわじわと浸食するように魔力が近づいてきて、シレーネとエーリッヒは唾を飲む。
 ――トン トン トン
 扉がゆっくりノックされる。
 誰も動かず、答えず、息だけを潜める。

「そこにいるのはわかってるのよ?」

 扉越しに高くて品のある女の威圧声。
 魔力はもう読まれている。あとは相手の出方次第だ。

「早く開けないと、この扉壊して全員瞬殺しちゃおうかしら?」

「……シレーネ」

「ヘルムート、アーシが行く」

 シレーネは左手でドアノブに手をかける。
 反撃手段として、右手には深海の大渦を握っている。

「大丈夫よ、攻撃はしないから。ちょっとおうちに入れてくれればそれでいいのよ」

 シレーネは信じず、銃を握ったまま扉を開く。
 黒をベースに白いフリルが装飾された傘を差し、肩や腕、デコルテ部分がレースになっている黒のロングドレスを着た女性が立っていた。
 彼女は傘を閉じ、つばの広い黒帽子を整えて家に入る。

「久しぶりね、カーム。成長術の研究は進んでいるかしら?」

「おかげさまで欠点を改善したぞ」

「あらそう……。長かったわね」

 女性は近くの椅子にかけ、クッキーを摘まむ。

「殺気が辛いわ。解いてくれない?」

「無理な話だ。貴殿が誰なのかわかっているからな」

「はじめましてなのに?」

「顔を合わせた者たちに話は聞いている」

「仲良しね。カーム、紅茶をもらってもいいかしら?」

「構わんよ」

「で、あんたは何しに来たってわけ? ここにお茶を飲みに来たわけじゃないでしょう?」

「そうね……」

 女性もといノー・キラーは奥にある本部屋を流し目で見た刹那、消える。
 ドンッと大きな音がして慌てて駆ければ、本部屋の扉は破壊され、本のタワーは崩壊。
 その中で彼女は一冊取っては捨て、一冊取っては捨てを繰り返す。

「何をしている!」

「捜し物よ。そこの子たちが染まる武器を探しているように、私も探しているの。クルーアルの過去について」

「そんなもの、ここにはない!」

「信じないわよ。あなたとクルーアルが繋がっているのはわかっているんだから。ところで……あなたたちは見つけたのかしら? 染まる武器を」

「残念だけど誰ひとり持ってないよ。無駄足になったね」

「……そんなことないわ」

 ノー・キラーはシレーネに向かって何かを投げる。
 強い魔力を感じない得体の知れない物をキャッチすると、黒いバラがデザインされた丸いモノクルが収まっていた。
 しかし、黒バラのモノクルはピンクパールの縁に小さなダイヤが装飾された丸いモノクルへと姿を変える。

「……どういう風の吹き回し?」

「交換しましょうよ」

「交換?」

「そのモノクルはあげるから、私にカームをちょうだい?」

「どっちもあげないって言ったら?」

「モノクルを奪ってカームも連れて行くわ」

「わがままじゃん」

「そっちこそ」

 互いに睨み合う。
 瞬きの刹那、本部屋にいたノー・キラーはいなくなっていて。
 彼女は近くにいたカームの背後に立ち、腕を回す。
 ブリジットが臨殺態勢で迫るが、刃が触れる一歩手前で再び消えた。
 扉の開く音がして、それを追う形で外に出る。
 ノー・キラーは右腕の義手に備えた剣をカームの首に添えて立っていた。
 4人をじっくり眺めたあと、カームを解放する。

「まずはモノクルを取り返してからよ」

「やってみろだし」

 シレーネは右目にモノクルをかけ、銃を構えた。

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