一方、焔子は広げていた翼をしまって教会を訪ねると受付嬢が彼女に気付いて駆け寄った。
「長旅お疲れさまでした! 本来なら迎えに行くべきですが……」
「いえ、お忙しいでしょうし……それより状況はどうですか?」
「焔子さんからお手紙をいただいたおかげで、不確定な情報が確定情報に変わって対処もしやすくなりました」
「不確定な情報とは?」
「ダレストリスで起こっている魔力狩りですが、実は焔子さん、星川潤也さん、アリーチェ・ビブリオテカリオさんに扮装した魔族が主体となって行なっているがわかりました。もしあの手紙がなかったら、焔子さんたちは捕まっていましたよ」
「……そうですか。敵の居場所は」
「ここから南の位置に。兵と教会の者を向かわせています。数もそれなりに多いので乱戦になるのは間違いないです」
「わかりました。私たちもそちらに向かいますが、何かありましたら連絡をお願いします」
「もちろんです。先に行った者たちには皆さんが来られる旨は伝えてありますので、安心して向かってください」
焔子は教会を出て誰もいないことを確認し、小さく舌打ちする。
(ノー・キラー……はめてくれましたわね……しかも陛下のお心まで踏みにじるなんて不愉快極まりないですわ! でも陛下は私を信じて下さった……思いに応えるには領内の魔力狩りを制圧するほかありません。そのためにはまず……)
焔子は木を見上げながら腕を差し出せば、黒い鳥パロトが止まる。
「お呼びかい? お嬢」
「ナルシスト全開の鳥に頼むのはどうかと思いますが、頼み事聞いてくれます?」
「ナルシストは余計だけど、いいよ。聞いてあげようじゃないか」
「潤也様たちに教会まで来るよう伝えて下さい。急ぎでお願いします」
「オーケー。でもその前に身なりを整えなきゃ、前髪が……」
羽根で前髪(?)と思われる部分を整えるパロト。
焔子は1枚だけはねている頭の羽根を無理やり引っこ抜く。
「いたっ!! お嬢何を……」
引っこ抜かれた羽根に、口をあんぐりさせ目を見開くパロト。
焔子はそれを容赦なく地面に捨てる。
「お嬢!! イケメンは前髪命なんだよ!!」
「それはあなただけでしょう。それよりも早く行ってください。でないと……」
冗談のつもりで、足を上げ、捨てた羽根を踏もうとする。
「わかった! わかったから! 絶対踏まないでくれよ! ……さらばだ、オレの命!」
華麗に背を向けてパロトは飛ぶ。
焔子は羽根を拾い、鎧の下にしまうのだった。