「ソノマエニ コエ トトノエテ イイ?」
「いいけど……何か意味あんのか?」
「アルヨー ンンンンンン アアアアアアアアアアアアア! あ、ん、んんっ! よし、これで行こう」
中に若い成人男性が入っていそうな声で、ケエちゃんは喉を整える。
「最初からそれにしろよ」
「無理だよ。結構喉とか腹筋使うんだ」
「とりあえず、始めてくれ」
「リイン・ウイング。エルフとエヴィアンのハーフで生まれは不明。誕生日も知らない。物心ついたときにはいろんな家を転々としてたんだけど、ある日クルーアルに出会って人生が変わった。リインは彼と出会った日を誕生日にして、名前も彼につけてもらった。クルーアルと一緒に過ごすうちに自分も魔族になりたいと思ったリインは、クルーアルに自分の翼を黒くしてほしいと頼んだ。クルーアルは要求に応えたけど、リインは飛べなくなってしまった。魔法を解いても戻らなかった。リインは飛べなくなったことを気にしてなかったけど、クルーアルは最近まで気にしてた」
「解消されたのか?」
「うん。染まる武器の靴が手に入ったんだ。クルーアルはオルディアまで取りに行ってリインにプレゼントした。それで飛べるようになったんだ」
「染まる武器の靴がそっちにあるの初耳なんだけど」
「言い忘れてるだけだよ。でもね、リインは染まる武器の靴を誰かに託したい。クルーアルの気持ちは嬉しいけど、飛べなくなっても幸せだって。でもクルーアルは受け入れてくれないかもって。また強く責任を感じてしまうかもしれないって」
「クルーアルはすごい責任感じるタイプなんだな」
「まぁね。翼の件もあってリインは鍛錬を欠かさない。そのおかげでリインはクルーアルより強いんだ。ハディックやエスから対ノー・キラーの切り札として期待されている」
「リインたちの強さ順はどんな感じなんだ?」
「リイン、クルーアル、ハディック、エス=ハディック隊だね。リインはどんな武器でも扱えて魔法もできる万能型。クルーアルは剣技と魔法。ハディックとハディック隊は完全なるパワー型、エスは弓技に魔法を付属するタイプだよ」
「リインの魔法は魔族限定か?」
「神聖術もできるよ」
「ほんと万能だな。後は何を知ってる?」
「リインとクルーアルには盟約の魔術っていう契約がある」
「盟約の魔術?」
「死んだ者の能力を引き継ぐ魔術だよ。クルーアルが死んだらリインに膨大な魔力が行き、リインが死んだら、クルーアルに翼が生える。これ知ってるの、ケエちゃんだけ!」
「お前には何でも話すのな」
「ケエちゃん口堅い」
「もう俺に話してる時点で口堅くないけどな」
「はっ……! 内緒して! 内緒!」
「どうすっかな~」
「ケエちゃん、ご飯できたよ」
「ワーイ!」
リインが戻ってきて、芝生に木皿が置かれる。
「うわ……」
紫がかったミルクでくったりとしたライトブレットと謎の果肉に砂糖をふんだんにかけた奇天烈料理を、ケエちゃんはぴちゃぴちゃと音を立てながら食す。
「それで、ケエちゃんと何話してたの?」
「染まる武器の靴を手に入れた話」
「あぁ……ねぇ、飛鷹。もしよければなんだけど、靴をもらってくれない?」
「クルーアルから貰ったんだろ。大事にしてやれよ」
「それはできない。これはぼくが望んでることじゃない」
「飛べなくていいのか」
「いい。クルルの役に立ちたいけど……ちょっとくらい甘えられるところはあってもいいでしょ」
役に立ちたいけど、飛行能力はいらない。欲しいのはクルーアルの愛情だけ。
これまでの話を踏まえると、リインの中心にいるのはクルーアルただひとりと感じた。
感情に名前をつけるなら執着だろう。でも何か別のものも混じっているような気がしてならない。
飛鷹はそれを探すようにしばらく沈黙する。
リインは沈黙が気にならないのか、ご飯を食べるケエちゃんを眺めている。
その答えが自分の中で何となく整理できてきて、そっと口から零す。
「……お前ってさ……わがままだよな」
「そう?」
「そうだよ。お前、ほんとクルーアル好きな」
「うん、ぼくの人生に道を作ってくれた人だから」
「とりあえず靴については全体で共有しよう。欲しがるやつがいるかもしれないからな」
「クルルには内緒にしてね?」
「わかったわかった」
(まぁ、必ずどこかでバレるだろうが……)
あとは2人の問題。
できるだけ踏み込まないようにしようと、飛鷹は思うのだった。