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語れぬ指:赤い石

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語れぬ指:赤い石
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…※…※…※…




美しいものを。

美しいと言える口はあるかもしれない。

ならば、

美しいものを。

美しいと知る心は、どうやって存在しうるのだろう。


美しいという価値は、

常に流動するというのに。



嗚呼、愛しい女よ。

命着飾るおまえは、他の何よりも美しい。




…※…※…※…




 協会が事件の迅速な解決を求めて冒険者達を緊急に召集した。
 それはなにも特別な事例ではない。
 魔族という脅威から人々を守るのをひとつの目標と指針を掲げている組織ならば順当な判断であり、機構が正常に働いている証拠だ。
 人間が窮地に立たされて教会の力を必要としている。その場に馳せ参じるのは当然のことだった。
 とうの昔に閉山し廃棄された鉱山は月日の流れと共に人の足は遠のき、代わりに野生動物と魔物の巣窟と成り果てていた。
 抗口からこれまで幾多の魔物を教会から依頼を請けた冒険者達は斬り伏せたことだろう。
 そうしてしばらくして、歩む先に今までにないひかりが暗闇の中ぼんやりと滲んでいるのに気づく。
 自然の光とも人工の灯り火とも違う。ひと目視界に収めてしまえば、どくんと鼓動の共鳴を許してしまいそうになりそうな、警戒心の緩むなんとも形容し難い淡いひかりであった。
 上から下へ一振りの動作で刀身を濡らす魔物の血を払ったエル・スワンはアズールセイバーの柄を持つ手に力を込める。
 進む通洞の先は曲がり角があるらしく壁面は、ひかりの照り返しに明るく映えていた。それは坑道の奥より仄かながらも輝き放つものがあるとにわかに報せるもので、火を扱う魔物と遭遇しなかっただけ新たな存在の出現かと皆が身構えた。
 耳を澄ませども静かで、冒険者達は意を決して歩を進ませる。
 一歩一歩近づくごとにひかりは強まり誰かが「綺麗」だと呟くが、それも自分達が携えた明かりにひかりは相殺され薄れた。ついに曲がり角へと到達し、先頭立ってた者が足を止めたことにエルもその場に踏みとどまり、思わず目を瞠る。
「……あれが、件の宝石」
 こぼれ落ちたエルの囁きにつられるようにして、数人が唇を噤み言葉を飲み込んだ。
 坑道の先は繰込場よりも若干ゆったりとした広さを持つ作業空間だった。
 冒険者達が辿り着くまであの数分間の静寂が嘘だったかのように、そこは儚い息遣いに埋め尽くされ、人肌のぬくもりに満たされている。
 喉を開いて押し出される呻き声にエルはハッとした。
 一望に広がっているのは、横たわっている十数人の人間がみな年端も行かぬ少女達であり、一見にして彼女達が教会が助けが必要と判断された保護対象なのだと理解させるものだった。
 少女達は皆、開(はだ)けている体から迫り上がる赤い石の結晶を抱えることも難しいらしくそのままに横たわり、虚ろな両目で“前”を見つめていた。“天盤”にはなにもなく、故にその光景は身動き取れない彼女達が過ぎゆく時間を為す術もなくただただ見送っているのだと冒険者達の心情に訴えかけているかのようだった。
 至上の輝きと謳われる宝石の原石は磨き込まれる前から仄かなひかりを内包し、畏れるほど美しいものであったが、エルは直視し続けることに抵抗を感じていた。
 見ていると悲しくなる。
 その一言に気持は集約されていった。
 何故ならあの不思議な輝きは、誰かの長く尊い人生を引き換えに生み出されたものなのだと知ってしまったからだ。
 明らかに赤い宝石は、その原石は、人間の娘を苗床にして成長している。少なくともそう見える。
 輝く赤い石の得も言えぬ魅力の本源が、元になった人間の人生の輝きに匹敵しているからこそ、というのならそれはこれ以上もなく説得力があるし、納得できるものだった。
 だとしても、現場を目撃してしまっては素直に賛同しかねるというものだ。
 呼吸しているのがやっとな状態の、せめてもの意思表示にと押し出された呻きさえ蚊の鳴くような声にしか成らないことを同時に視界に捉えてしまえば、それはもはや嘆いているようにしか感じられない。
 他の宝石類を物ともしない綺羅びやかに魅惑めく脈動する赤い燐光が、命という時間を吸い上げられた人間の叫びのようにひかりは声になって聞こえてくるようだった。
 もっと生きたかったんじゃないか。
 幸せになりたかったんじゃないか。
 輝きの応酬としてエルは、少女達へ思わずそう問いかけたくなる。
 いっそ胸が痛くなるほどの輝きに、そんな照り返しに赤く翳るエルは、そこでようやく視線を動かした。
 結晶を孕む少女の傍に立つ人間が居る。
「貴方が一体なんのつもりで、どういう気持ちで彼女達を離そうとしないのか。それはオレには、知る由もないけれど」
 線の細い若い男は魔銃を抱えるようにして、構えずにいる。だから、エルはもまた剣を握り締めても切っ先を青年に向けることはしない。
「これが間違っていることなのはわかってるはず」
 明確な指摘を受けても青年に怒れる素振りはなかった。落ち着きに払ったもので、少女達と同じ虚ろな目をし、唇には自嘲めいたものを浮かばせている。
「貴方がその人たちにしてあげられることはきっと、まだある」
 自嘲を後悔か諦めと見てとったエルは意を決した。
「だからその人たちを、放してほしい」
 説得に易く応じるなら元よりこのような事態にはならなかったとわかっていても、その場にただひとり佇む人間にエルは投降するよう請い願った。

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