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アルスター辺境泊領の冒険! その1

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アルスター辺境泊領の冒険! その1
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■第1章 アルスター辺境伯領■


SCENE1. 歴史を背負う者


 アーク西南部辺境、アルスター辺境伯領。
 その城下町で、八上 ひかりシャロン・ナカミズは観光旅行と洒落込んでいた。
 と言っても、バルバロイの襲撃でアーカディア王国は滅亡の危機に瀕し、多数の避難民を乗せてアークが飛び立ったばかりで、街中は混乱しており、市場などは買い占めに殺到する人々で溢れている。暴動寸前の状態を抑え込むため、ドラグーンアーマーや騎馬兵が出動して監視している有様だ。
 その混乱を避け、ひかりとシャロンは主に名所旧跡などを見物して回ることとした。
「さすがにのんびり観光旅行をしているのはわたくし達だけですわね……」
「細かいことは気にしない! あたしたちは天の時を待つだけでいいんですよ、シャロン先生!」
「”シャロン先生”ね……どうもその呼ばれ方には違和感がありますわ」
「じゃあ”シャロン”? それとも”シャロンちゃん”? ”シャロンさん?” いっそのこと”シャロちゃん”でもいいかも?」
「……シャロン先生でいいですわよ」
 そんな会話を交わしつつも、ひかりが先導して歩いていく。ひかりには、今はしゃしゃり出るよりも、アルスター辺境伯領の貴族たちが「外法の者」の力を目の当たりにすることによって意識が変わるまで待ったほうが、なにかと動きやすくなるという目算があったし、シャロンもそれに概ね同意していたからだ。
 とはいえ、ひかりが一応シャロンの護衛や、外法の者に対するアルスター辺境伯領の態度を観察するという態度を兼ねつつも、物見遊山コースに入っているのに対し、シャロンは機会があればアルスター辺境伯領の貴族に接触して顔を覚えてもらう程度のことはしておきたかったし、領内の情勢も把握したい。それだからこそ、ひかりに付き合っているという面はある。
 先に市場に立ち寄った際に、領内の情勢はおおよそ推測がついた。よほどの田舎でない限り、人々は生き残りのために必死な状態で、およそまとまりというものがない。これは為政の無能を示すものではなく、従来の政治体制が想定していない例外状態に陥っているとシャロンは持ち前の政治センスで感じ取った。
 ならば、次は貴族との接触だが――
「先生先生! 次ここどうですか? ”アルスター歴史博物館”。なんでもアルスター辺境伯領の歴史遺産が公開展示されているらしいですよ! 貴族と接するなら、まず彼らの歴史を知っておくといいんじゃないかな?」
 ひかりは狐耳をパタパタ、尻尾をブンブンと振ってシャロンのキモノドレスの裾にすがりつく。その様はまるで好奇心旺盛な子供のようで、シャロンとしては苦笑を浮かべざるを得ない。
「そうですわね……あなたの言っていることにも一理ありますわ。行きましょうか」
「やったー!」
 喜びの表情を浮かべたひかりは、シャロンの手を引っ張って早足で歩いていく。もちろん本来の役目は忘れていないが、それよりもシャロンと一緒の時間を過ごせることが楽しくて仕方がない。「夢」の中では働き詰めだったから、その感情はなおさらだ。
 かくして、ふたりはアルスター博物館へと足を運んだ。
 博物館の外見はロマネスク風のファサードに大きなドームが印象的で、その前には石畳の広場が広がっている。だが閑散としており、狐巫女とキモノドレス姿の金髪美女という取り合わせも、特に目を引いた感じはない。
「さすがにこんな時期に博物館に来るのは限られた人だけよね」
 ひかりが呟くと、シャロンは頷いた。
「わたくし達みたいな物見遊山目当ての”外法の者”か、よほど経済的・心理的に余裕のある人だけでしょうね」
 中に入ると、そこには様々な貴族の秘宝が展示されていた。円形の広間に、建国神話や貴族の勲である闘いを描いた沢山のタペストリや絵画、アルスター辺境伯領に住むモンスターのトロフィーがずらりと展示されている。
 中でも彼女らの目を引いたのは、広間中央にそびえ立つ古びたドラグーンアーマー<パトリオット>であった。なんでも、アークがアーカディアに降り立った時から伝わるアルスター辺境伯家の初代が搭乗していたものらしい。今では故障し動かないが、おそらくM因子を持つものが整備すれば修理は可能だろう。それをわざわざ展示しているということは――
「平和だった時代に、民に貴族の高貴なる義務を伝えるとともに、自ら忘れないようにするため、こうして<パトリオット>は展示されているのです」
 突然の声にひかりとシャロンは振り返った。すると、そこには涼やかな印象の、20代後半の美男子が立っていた。癖のある金髪を優雅に背中に流し、蒼い目でふたりを見つめている。刺繍入りの豪奢な黒い衣装とマントは、いかにも高位の貴族らしい。そう値踏みしたところで、青年は言葉を継ぐ。
「これは失礼しました。あなた達が<パトリオット>に見入っていたもので、思わず説明から入ってしまいましたね。私はキリアン・ラードナー伯爵。アルスター辺境伯夫人ブリジットの弟です」
 いきなりの高位貴族との思わぬ遭遇に、シャロンはたじろいだ。一方、ひかりはキリアンが下法の者に対して物珍しく感じているのか、何らかの意図を持って接触してきたのか見極めようとするが。
「そう警戒されずとも結構です。私が声をかけたのは、身勝手な好意からです。水を指してしまい、失礼しました」
 そう、いなされてしまう。
 ――先に聞いた情報によると、キリアンは外法の者に対してそれほど好感をもっていないと聞いたけれども、随分印象が違う。
 ひかりとシャロンはそう思い、首をひねるが。
「外法の者の方々は、ロミア王女殿下が招かれた客人。無下にすることはありません。私の姪であるフィオナが、あなた達に頼ろうとしていることについては、少し思うこともありますが」
 そう応えられ、さらにはこうも誘われるのだ。
「よろしければ、見せたいものがあります」
「どんなものでしょう?」
「見ればわかります。こちらにどうぞ」
 キリアンはシャロンにそう答え、ついて来るよう促した。
 マントを翻し、優雅に歩むキリアンにふたりがついて行くと、博物館の裏手に4頭立ての馬車が待っていた。それに乗り込み、10分ばかり揺られると、公園らしき場所につく。そこには、青々と茂った芝生と、無数の手入れされた墓標、そして奥にそびえ立つ長方形の石柱がある。
「アルスター辺境伯領の”騎士の墓所”です。いささか陰気な場所ですが、どうか堪忍願いたく存じます」
 キリアンの言葉に、ふたりは頷く。およそ何らかの考えがあってと思ってのことだ。
 立ち並ぶ墓標の間を、キリアンの後ろについて歩いていき、石柱にたどり着く。苔むしたそれは、一体なんだろうか?
「――忠魂碑ね」
 シャロンは石柱の意味に気づいた。刻まれた無数の名は死者の名、数多の闘いで命を落とした者の名だ。
「そうです。貴族の中でも特に勇気を振るい、勲を立て、忠義を尽くして死んだ者を讃え、弔う碑です」
 そして、キリアンはその最も新しい一角を指差す。
「ここに刻まれているのは、アーク脱出時に命を落とした貴族や騎士たちの名です。今生きている私達は、ここに刻まれた名の上に生きている。それを自覚するための、私達はこうしてときおりここを訪れるのです」
「私達ってことは、他の貴族もここに来るってことですよね?」
 良い子のオーラを発散しながら、ひかりは問う。
「ええ。アルスター辺境伯イーモン殿もまた、ここに頻繁に足を運んでおります。貴族の歴史を忘れず、死者の上に我らが生があることを忘れず、高貴なる者の義務を果たすことを誓うために」
「それが、外法の者を用いようとしない理由なんですか?」
「それもあります。貴族の意地ですね。今のところ、申し訳ないのですが、あなた達はこのような犠牲やそれと引き換えの平和を享受してきたわけではなく、つまり戦う理由がロミア王女殿下に喚ばれたからという消極的な理由でしかありません。貴族にとっては、得体が知れないだけでなく、本来”高貴なる者の義務”で護るべき存在なのです」
「消極的な理由というのであれば、キリアン様の仰ることも義務で自分を縛るだけの消極的な理由に思えますわね」
 シャロンが核心に踏み込んでみる。彼女の態度に、キリアンは微笑んだ。
「それはそうですね――ですが、それをも切り捨ててしまうと、貴族はただ特権のもとに専横を振るう者に成り下がりかねません。私は、そのような態度は良しとしませんね」
 ふたりは、この国の貴族の、ひとつのあり方を見ていた。

SCENE2. 戦う理由、団結の必要


 ラードナー伯爵領の城館にて。
「ラードナー伯爵閣下におかれましては、”外法の者”を用いるに消極的と伺っております。しかしながら、”外法の者”もまたただ喚ばれたと言うにとどまらず、このアークを積極的に救けようという心意気の者もございます。それをただ”護るべき者”として遇するは、我らが心意気を無にし、退けるものでございましょう。是非とも、我らを用い、勲を建てさせていただきたく存じます」
 隻眼の美少女、ローザリア・フォルクングは、謁見の間でキリアンに直訴していた。「外法の者」を用いようとしないキリアンの事情が、貴族としての誇りにあるならば、「外法の者」もまた誇りあるものであることを示し、対等の立場で話そうというのである。無論、そこに礼儀は必要だが、ローザリアはそこにも心得があった。故に、キリアンの心は揺らいだ。
「確かに、”外法の者”の持つ誇りをいささか軽く見すぎていたことは失礼に値することです。ですが、なぜあなた達はアークを護ることに熱意を燃やしているのですか?」
「――それこそ”弱き者を護る、高貴なる者の義務”でありましょう」
 ローザリアはあえて隻眼に力を込め、慇懃無礼な態度を取った。キリアンはわずかに眉をひそめる。その態度を見て、彼女は言葉を継ぐ。
「”外法の者”はアークを護る力を期待されてロミア王女に召喚されました。つまり、今の貴族ではバルバロイと戦うには役者不足ということ。その冷厳な事実から目をそらすほど、伯爵閣下は蒙昧ではありますまい」
「――そのように言われますと、少しく耳が痛いですね。確かに我ら単独では戦力が足りないのは事実です。それでも我らは”高貴なる者の義務”を果たす覚悟と意地があります。しかし、意地だけでは義務を果たせないのも、”外法の者”が同じく”高貴なる者の義務”と言う覚悟を胸に抱いていることも考え合わせるなら、共に戦うことも、また考える必要がありそうですね……」
 眉間を抑えて考え込むキリアンに、ローザリアは一旦距離を置いた態度を取る。
「即断が難しいようでしたならば、私をまずは客将とし、”外法の者”についてよりよく知って頂きたく存じ上げますが」
「なるほど、それは良い考えです。私はあなたを通じ、”外法の者”についてより多くを知ることができる。あなたは私を通じ、アルスター辺境伯領とラードナー伯爵領の事情について、アークについてより知ることができる。互いに理解を深めれば、自ずと関係が変わるかも知れません」
 かくして、ローザリアはラードナー伯爵領の客将となったのである。
「次はキリアン派としてフィオナの動きをどう積極的に利用し、そしてフィオナを立てつつラードナー伯爵家をどう盛り立てるかですね……貴族というのは、面子と権勢を重要視しますから、どちらも立てなければならない、難しいところです……」
 与えられた客室のベッドに深々と埋まりながら、ローザリアは思考を巡らせていた。
 彼女の真意は、アルスター辺境伯家継嗣フィオナ・アルスターを支持し、キリアンの真意を確認しながらイーモン派とキリアン派の対立を和解させることにあった。
 ローザリアとしては、ラードナー伯爵領の内部で親フィオナ派を増やし、フィオナを両派の繋ぎ手として立てることによる和解が望ましいと考えているが、キリアンの思惑次第ではどう転ぶかわからない。慎重に策を立てるのは好かないが、事を見極めないまま突っ込めばどうすっ転げるかわからないのもまた事実である。
「まどろっこしいことですわね……」
 そう思いながらも、ローザリアは客将として内偵を進めた。
 すると、醜聞が何よりも大好きなサロンの貴婦人方から、聞き捨てならない噂を聞き及んだのである。
「アルスター辺境伯イーモン様は子供がお作りになられないお方、次々と御夫人を変えられたのに子供が生まれなかったのがその証拠、フィオナ様は現在の御夫人ブリジット様がどなたかと密通して生まれた不義の子ですわ。最も、このようなこと表に出せませんけれども」
 由々しき話であった。本当なら、アルスター辺境伯家の歴史と伝統を断絶させる問題であり、ラードナー伯爵家の名誉を失墜させる大事件だ。
「この話、どうしましょうか……」
 フィオナを盛り立ててもこのままでは砂上の楼閣に成りかねない。自分の目論見が崩れるのでは? と不安になるローザリアだったが、なるようになれと、所定の方針を貫徹する決意を固めたところで、思わぬ来客が現れた。
「イーモン様もキリアン様も、とりあえずはフィオナ様の成り行きを見守り、成果が上がれば、自分の方を取り込むことを考えているのでしょう? 都合よく役に立つことが解ってから動くより、最初からはっきりと味方をするほうが、後々のフィオナ様の心証を考えると良いと思います。どう転んでも、あの方は将来の辺境伯領を統べる方なのですし」
 そのように、イーモンとキリアンの毎度の口喧嘩の場で、清楚な雰囲気に似合わぬあけすけな意見を述べたのは、キャスリーン・エアフルト伯爵令嬢である。
 あまりのことに絶句するふたりに、客将としてキリアンのそばに付いていたローザリアは乗っかった。
「イーモン閣下のおっしゃるシャングリラ捜索船団優先策も、キリアン閣下のおっしゃる領地防衛優先策も、一長一短。そしてフィオナ様のおっしゃる折衷案はこれまで戦力不足でした。ですが、”外法の者”をフィオナ様は積極的に取り入れ、戦力的には両立する体制が整いつつあります。キャスリーン嬢のおっしゃるように、フィオナ様は両派閥をいつれは統べるお方、なれば積極的に協力し、フィオナ様に結果を示していただかなければなりません。ここは対立を収め、将来のために動くべきでしょう」
 そしてこうも念を押すのである。
「方針の違いでいがみ合う必要がなくなった今こそ、”高貴なる者の義務”を果たす好機なのではないでしょうか?」
 しばしの静寂の後、先に口を開いたのはイーモンだった。
「正直、フィオナがどこまでやれるか見ていたかったが、確かに動くべきかも知れん」
 続けてキリアンも応える。
「”高貴なる者の義務”は率先して初めて具現化するものということですね――”外法の者”たちの心意気も考え合わせると、そろそろ動くべきときでしょう」
 キャスリーンとローザリアはほっと胸をなでおろした。少なくとも表面上は、ふたりの対立は解かれ、フィオナを立てるという合意が成り立ったからだ。
 会談の後、ローザリアはキャスリーンに問いただした。
「なんでまたあんなあけすけな発言を、一触即発の場でしたんですか?」
 キャスリーンの答えは明快だった。
「イーモン様もキリアン様も、アークの将来を第一に考えているのは同じ、対立するのは視点の違いに過ぎません。なぜそれを先にするのか、と言う疑問はありましたけれども、フィオナ様が”外法の者”を力とし、両方行えるようになったのですから、くだらない言い争いなど止めて、共闘するきっかけを作るために、あえてあけすけに申し上げたのです」
 キャスリーンは事前にイーモンとキリアン、両方の所領に出かけ、なぜ方針が対立しているかについて聴き込んでいたが、どうにも曖昧な理由しか帰ってこなかった。これは感情的なもつれに過ぎないと思えたので、いっそのことこじれた関係を一刀両断にして結び合わせたほうが良いと考えたのである。
「それはまた豪気なことですね……」
 ローザリアはキャスリーンの大胆さに舌を巻いた。
「縁は異なもの味なものとも申します。ここでできた縁、大事にしたいですね」
 キャスリーンはローザリアに向かって微笑を浮かべた。このお嬢さん、とんでもない大器になるぞと、ローザリアは思えてならなかった。
 一方内心では、キャスリーンはこの口上でキリアンに嫌われてないかどうかが気にかかっていた。彼女からすれば、キリアンはイーモンへの対抗意識でいっぱいいっぱいに見えてならなかった。劇薬めいた口上により、キリアンは蒙を啓かれたようにイーモンと表向き和解したが、それが真実か、真実であればキリアンがどのような感情を自分に向けているか判らなかった。
「悪い方向でなければいいのですけど……」
 アルスター辺境伯のゴシック風の城館を出て、その古びた威容を見上げながら、キャスリーンはそう呟いた。

SCENE3. 市井の中で


 アーク機動の混乱が一応収まり、もとからの住民と避難民がそれぞれ落ち着く所に落ち着いたところで、納屋 タヱ子は流しの歌姫を始めた。領民の意思を確かめるためである。
「よそ者がまるで貴族のように振る舞って、好き勝手に口を挟んでくるのは良い気にはなれないでしょう。皆が別々に動いて違う派閥に接しているとすればなおさらです」
 わたし達は「外法の者」として異世界アークへの内政干渉をしていると疑われても仕方がないことをしている、という感覚を、タヱ子は持っていた。
 だから、せめて出しゃばらない範囲で、アルスター辺境伯領のためになることをしようとした。その手段が、領民の意志を、声なき声を貴族たちに届けることである。貴族達は己の貴族としての視点しかない、だから別の視点を指し示してはどうかという考えに基づいてだ。
「これくらいなら、内政干渉と言われることもないでしょう。ささやかな意思決定の材料を集めるだけですから」
 タヱ子はそう呟きながら、詠い上げる曲目を決める。疾駆【星素】を込めた英雄譚、春告【星素】を込めた日常の穏やかな人情物、どちらが人気なのか、それとも拮抗しているのか、それによってタヱ子は去就を変えようとしていた。
「シャングリラ探索のような英雄的な事柄を求める方が多ければ、イーモンさんに、日常の穏やかな暮らしを求めるも方が多ければ、キリアンさんに、拮抗しているようであれば、フィオナさんに加担するつもりですけど――本来は皆がまとまって行動すべきなのですけどね」
 そんな事を思いながら、タヱ子は今日も城下町へと出る。広場や酒場で詩を詠いながら、領民の気持ちを探っていく。
 そこで、タヱ子は様々な出会いを得た。酒場で勇壮な英雄譚を詠うにあたって即興で参加してくれた鼓の奏者、広場で優しい人情物を詠うにあたって、それまで演奏していた曲を変えて寄り添ってきたリュートの奏者、そしてタヱ子の歌声に歓喜し、あるいは癒やされる人々との出会いを。
 それぞれにそれぞれの思いがあり、それは単純にイーモン派、キリアン派と分けられるものではなかった。だが、決断するにはそれをあえて枠にはめて分類する必要があった。
 その結果。
「フィオナさんに付くことにいたしましょう」
 輿論は新天地シャングリラへの希望と、日々の安寧な生活とに概ね二分されていた。ならば、双方を「外法の者」の力を得て為そうとするフィオナに付くのがタヱ子の合理的な判断であった。シャングリラを求める人々の中にも安寧を求める心がある、逆もまた真なりという、市井での実質的な経験を踏まえながらも、理性で切り分け、そう決断したのだ。
「フィオナ様、民草は新天地への希望と今の安寧の両方を求めています。それがなせるのはフィオナ様しかございません。私の身を、どうか存分にお使い下さい」
 そう、畏まって跪きながら申し出るタヱ子に、フィオナは手を差し伸べ、立ち上がらせた。
「民草の思いを届けてくださってありがとうございます。私も不安だったのです。この行動が本当に”高貴なる者の義務”にふさわしいのか、ただの自己満足ではないのかと。ですが、これで私の心は決まりました」
 タヱ子は、そうしてフィオナの侍臣となった。

SCENE.4 人を漁り、漁られ


 国頭 武尊は窮していた。いきなりの異世界召喚で、右も左もわからぬ状況に追い込まれたのだからやむを得ない。幸い言葉は通じ、人里に現れることができたため、ここがアークという世界で、自分のような者は「外法の者」と呼ばれ、ロミア王女なる人物がアークに仇なす敵「バルバロイ」と戦う力を求めて召喚しているという基本的事実は把握できたが、自分の職業は軍人であっても、この世界で通用するかわからない。
 ただ、この地――アーカディア王国アルスター辺境伯領では、伯爵令嬢フィオナが「外法の者」をやはり闘いのために集めようとしているとの評判が聞こえてきたので、まずはそれに乗っかってみるかと考えた。
 そこで国頭は一計を案じ、城下の下町で怪しい異世界由来の産物を得る露天商人としてフィオナの目を引き、取り入ろうとしたのである。いや、実際その日の糧を得るにも窮していたのも理由であるが。
 最初のトラブル――露天商人の位置取りについての揉め事を腕力で解決し、一応商いを始めた国頭は、「外法の者」として注目を浴び、街中で評判になった。すると、その評判を聞きつけたか、上流階級と思しきドレスを着た金髪の少女が、護衛をつれて目の前に現れたのである。
 この娘がフィオナに違いない、そう判断した国頭は、さっそくその場に土下座し、口上を並べ立てた。
「姫様、姫様、フィオナ姫様! お助けを、どうかお助けを! 自分は異世界召喚によりこの世界に呼ばれた”外法の者”ではありますが、他の者達のように因子を持っている訳ではありません。因子を持たないこの身には世界の理が働かず、戦働きすることも叶いません!」
 戦働きをできないと聞いて、フィオナは若干失望したような顔をするが、国頭は自らの窮状を述べ立てる。
「今はこうして身の回りのものを売ることで糊口を凌いでいますが、何れは躯を晒す事になるでしょう。姫様はこの世界に呼ばれた”外法の者”全てが力を持っていると思っているかもしれませんが、実際はそうではないのです!」
 そしてフィオナの足元にすがりつこうとする。勿論護衛に蹴飛ばされるが、その哀れな姿を見せることも計算のうちだ。
「姫様が私めのことを哀れに思いますれば、何卒慈悲の心を持ってお救いくださいませ。
さすればこの私めは姫様の温情に報いるべく犬馬の労を厭いません!何卒、何卒、何卒!!」
 打擲されながらも必死に慈悲を願い出る国頭に、フィオナは哀れさを覚えたのか、護衛兵を止めさせ、国頭に手を差し伸べた。
「お可哀そうに……さぞかしご苦労なされたのでしょうね。その苦労も、ロミア王女殿下が原因とあらば、その家臣に連なる私が責任を持って償いましょう」
「ありがたき幸せでございます!」
 国頭はフィオナの手を握りしめて滂沱した。勿論、全て演技である。
 ――ここまですれば姫様の側に潜り込める。後は周りの人間関係を把握して、遊泳するか。いずれにせよ、生き残ることが最優先だ。
 かくして、国頭はフィオナの下僕として、側仕えの身となったのである。
 やはり民心が落ち着いた頃、シレーネ・アーカムハイトはアルスター辺境伯領の城下町を散策していた。特に理由はない。強いていえば召喚された異世界への好奇心であろうか。市場で買ったレンスターマフィンをかじりながら、ぶらぶらと歩いていると、やがて石畳が敷かれた広場にたどり着いた。
 まず目に入ったのは人の流れである。様々な人達が、広場を行き交いしている様子。そして、その向こう側から聞こえてくるか細い、しかしはっきりとした声。どうやら少女の声らしい。
「アルスター辺境伯領は今、大きな危機を迎えています。この危機を乗り越えるためにも、皆さんのお力添えが必要なのです。特に”外法の者”の皆さんが、危機を乗り越えるための大きな力になってくれると私は考えています」
「外法の者」というフレーズを聞いて、シレーネはピンときた。そのまま声のする方向にスタスタと歩いていく。そこには戦装束を着込み、金髪を編み上げた少女剣士と、その護衛であろうふたりの甲冑戦士がいた。人々に話しかけているのは少女である。
 シレーネはそのまま少女に近寄る。護衛が槍を重ねて制止するのも構わず、その下をくぐり抜けて少女の前に立った。
「”外法の者”の助けが必要って言ってたっしょ。アーシその”外法の者”だけど、詳しくお話聞かせてちょーだい」
 シレーネの態度に警戒を隠せない甲冑戦士に対し、少女はぱっと顔を明るくして話し出す。
 聞く所によると、彼女はこのアルスター辺境伯領の領主イーモンの一人娘フィオナといい、アルスターの領地防衛とシャングリラ捜索船団結成のため、足りない人手を埋め合わせるため「外法の者」を集めようとしていた、とのことだ。
「でも、父もキリアン叔父様も”外法の者”を用いることには反対しているのです。確かに貴族は本来率先して戦う身、”外法の者”に力添えを申し出るなど、誇りが許さないのかも知れません、でも誇りだけじゃシャングリラを捜索することも、この領地を護ることもできないと思うんです」
「あー、オトナの事情ってやつね。偉いヒトって結構面子とか体裁とか気にするしねー」
 シレーネは相槌を打つ。そしてこうも言うのだ。
「ヒトをいっぱい集めてきせーじじつってやつを作れば、偉いヒトも頷くしかないし。フィオちんもそれを狙ってるんでしょ。だったらアーシも手伝うから、一緒に頑張って、ヒト集めて一生懸命お願いしよ?」
 フィオナはその言葉を聞くと、満面の笑みを浮かべて頷いた。
「はい! よろしくお願いします!」
 こうして、シレーネはフィオナの人集めに協力することとなったのである。
「広場で人集めするアイデア自体はいいけど、人目を引きつけなきゃ意味ないし。まずはアーシがみんなの目を引きつけて、その後フィオちんが心を込めてお話すれば効果抜群でしょ」
「それはいい考えですね。私だけじゃ皆さんに声が届かなくて……」
 フィオナの活動拠点である城下町の宿屋の一室で、シレーネとフィオナはそんなやり取りをしていた。シレーネは胸を張って自信満々に応える。
「オッケーオッケー、アーシに任せるし。いっぺん目を引きつけたら後はこっちのものだし。フィオちんも頑張っていこー!」
「はい!」
 元気良く応えるフィオナに、シレーネは頷いてみせた。
 そして、ふたりは毎日のように広場に向かい、人集めを始めたのである。
「はいはい皆さんこんにちは、アーシらのお話聞いてちょーだい!」
 よく通る爽やかな春風のような声で、リズムを付けて呼びかけると、道行く人々も何事かと表そちらに注目を向ける。そこにフィオナが、精一杯心を込めて訴えかける。その効果は抜群で、以前とは比較にならないほどの人が集まってきた。
 そうすれば、自然とフィオナの呼びかけに応える者も増える。外法の者のみならず、アルスター辺境伯領のまだ戦える者たちまでが、フィオナの呼びかけに応え、力になろうと呼びかけに応じてくれた。中には風水士や歌姫も混ざっており、彼ら彼女らはフィオナの呼びかけを彩るため歌を詠い、彩りを添え、いつのまにかちょっとした楽団一座が形成されていた。
 その評判を聞きつけ、アルスター辺境伯領には多くの外法の者が集まり、騎士団を結成できる見込みが立ちつつあったのである。
「ありがとうございます、シレーネさん!」
「いやアーシもここまでとは思わなかったし。それにフィオちんが精一杯頑張ったからここまで人が集まったんじゃん。自信持ちなよ?」
「そうですね、私ももっと自信を持って頑張ります」
 実際、人集めをした後は組織を作らねばならないのだ。そこはフィオナに頑張ってもらわなければならないと思うシレーネであった。
 そんな所に現れたのが、高橋 凛音である。風水士の証であるウッドルーツクロークに身を包んだ古風な美少女は、フィオナとシレーネの呼びかけに応じて騎士団員募集に応じたのだ。
「まずはお近づきの印として、ささやかなものじゃがこれを進呈致そうぞ……」
 高級ティーセットを差し出す凛音に対し、フィオナは戸惑いながらも嬉しそうにそれを受け取る。
「心遣いありがとうございます。せっかくですから、オファレルハーブティーをこのティーセットで頂いて構いませんか? 物は使われて始めて意味をなすと思うので……」
 そう言ってフィオナは、奥に引っ込み、やがてハーブティーを自分とシレーネと凛音の3人分淹れて戻ってくる。
「お口に合えば幸いです」
 フィオナはそう、ハーブティーをふたりに勧める。シレーネはくいっと飲み干し、凛音は爽やかな香りとまろやかな味わいを堪能しながら少しづつ啜る。
 しばしの穏やかな時間の後、凛音は自身の用件を告げた。
「妾はフィオナ殿の身辺警護を受け持ちたく、ここに参ったのじゃ。防御の星音にはいささか心得があるのでな……」
 そう告げ、自身の星楽【戦楽:久久能智】を奏でる。すると大地の恵みと命の息吹を内に宿した蔦で覆われた扉が現れた。
「この扉は新しき光への解放と、変化を拒絶する閉塞を共に誘うものじゃ。ゆえに、外側からの変化からフィオナ殿を護り、また、新しき風へとつなぐ導きともなり得るのじゃ」
「なんかテツガクーって感じ。まあアーシはフィオちんの味方が増えるのは嬉しいからいいけど」
 そううそぶくシレーネに対し、フィオナは凛音の口上を真剣に聞いて応える。
「変化を拒む力と、変わろうとする力。それは人の内にある二面性ですね。ですがいま私は、微力ながらこのアルスター辺境伯領を変えようとしています。人は集まりましたが、まだこれからどうするかの方針が決まっていません。知恵をお借りしたいのですが」
 すると凛音は、ふと香炉を取り出し、香に火を付けた。
「先の茶の御礼じゃ」
 さほどせぬ間に、安らぎを誘う香りが部屋に満ちる。そこでようやく、凛音は本題に入る。
「まずは集まった戦力の分析じゃ。誰がどのような力を持っていてどのような特性を持っておるのか、知ることが必須。それを見極めた上で、単純にシャングリラ探索と領地防衛に戦力を分けることなく、フィオナ殿の力として自分の意志で振るえる剣に仕立て上げる事が必要じゃのう」
「私自身の力で振るえる剣……責任重大ですね」
「フィオナ殿はそれができるお人じゃ。自信を持たれい。妾ら”外法の者”もならず者にあらず、このアークを守る気概を持っておる。それを信じられるならば、妾らはフィオナ殿の下、”真の騎士”となりましょうぞ」
 凛音の言葉に、フィオナは頷く。
「判りました。あなたの言葉を信じ、私自身の心を強くして、強い心で振るえる強い剣を鍛えることとします」
「それがよかろう。じゃが、そのためには騎士団員を集めての作戦会議が必要じゃな。皆の心をひとつにし、フィオナ殿がいかに動くかを決めるためにもじゃ」
「――そうですね」
「それともうひとつ。フィオナ様が自らの力を恣に振るうのはアルスター辺境伯殿、ラードナー伯爵殿への信頼を欠く行為。いや、その積りはなくともフィオナ殿がそのように動いていると考えられることもありうる。それは癪じゃ。故に、信用を得ねばならぬのう。それを得るため、ご両者から課題を与えてもらい、それをこなしていくというのはどうじゃろうか」
「――良い考えだと思います」
 凛音の献策はこうしてフィオナに受け入れられ、騎士団員を集めた作戦会議の開催と、イーモン、キリアン両者からの課題をこなして信用を得るという方向性が決定された。

SCENE.5 未来への希望、そして不安


「シャングリラ捜索船団が結成されるんだって! 早速参加しようよ!」
 アリシア・メカニックは、外から自分のねぐらである工房へと飛び込み、その一室でぐーたら寝ている居候のロデス・ロ-デスを叩き起こした。
「シャングリラ? なんのことだ?」
 寝ぼけ眼でぼんやりとした応えを返すロデスに、アリシアは呆れた、と言う顔をしてみせる。
「もう! このアークが向かっている新天地じゃない! この間も説明したでしょ?」
「ああ……そうだった」
 ロデスは寝床から起き上がり、ボリボリと頭をかく。異世界召喚されてからこのかた、
時差ボケが治らず困っているのだ。
「ボクを救けてくれたときは格好いいと思ったんだけどなぁ……」
 バルバロイに襲われたときのことを思い出し、アリシアは思う。その時通りすがったロデスは、見たこともない技でバルバロイを倒し、へたり込んでいるアリシアに向かってこう告げたのだ。
「お嬢ちゃん、ここはは一体どこなんだ?」
 しばらく話して彼が「外法の者」と呼ばれる、ロミア王女殿下が召喚した異世界人であることを知ったアリシアは、命の恩人として当面のねぐらと食い扶持を与えたのだが。
「あれからずっと、こんな感じでぼやっとしてるよね……」
 そろそろ働いてもらわねばアリシアの懐も厳しい。そこで少しは気合を入れようと、シャングリラ探索船団の話を持ち出したのだ。反応が鈍ければ少しは苛立って当然というものだろう。
 しかし、ロデスはむっとしているアリシアには構わず、顔を洗って髪をセットし、バシッと決めてこういうのだ。
「シャングリラ探索船団か。俺も同行しよう。出立はいつだ?」
 これまで見せなかったキメ顔で言うロデスに、アリシアは瞠目する。冒険のチャンスに、ロデスの冒険野郎魂に火がついたかと思い、勢い込んで説明した。
「まだ募集が始まったばかりだよ。だけど辺境伯領中から腕っこきのマシーナリーが腕によりをかけて整備したスタンドガレオンで乗り付けてくるから、ボクも相応の腕の見せ所なんだよ! ロデスも付き合ってもらうんだから!」
 するとロデスは興味を失ったように言う。
「そうかアリシア。整備は任せた。あんまりちっこいのに無理すんなよ」
 その物言いにかちんと来たアリシアは言い返す。
「またキミはそうやってボクのことを子供扱いするーッ! ボクは立派なオトナなんだもん!」
 だがロデスはどこ吹く風という塩梅だ。
「実際子供じゃないか、背伸びしても背は高くならないぞ」
「アーカディアじゃ18歳は立派なオトナなんだってば!」
「解った解った」
「解ってないもん!」
 そのようなすったもんだの問答の末、ロデスはアリシアのスタンドガレオン整備を手伝うこととした。彼としてもなにか目標が欲しかったところであり、シャングリラ探索船団の一員になるというのは、目標自体はこの世界の住民であるアリシアに任せるのが筋だとなんとなく思ったからである。
 アリシアはそれから突貫作業で自身のスタンドガレオン<グッドイヤー>の改造に取り組んだ。機体のバランスを崩さないように気をつけながらも、メタルチェーンソーを振り回し、レーザーカッティングを用いてデッドウェイトを除いていく。ロデスはその手伝いとして、様々な工具や部品の持ち運び、削ったパーツをジャング箱に放り込むなどの作業を行った。
 そして、朝が明ける頃。
「できたよ! ボクらの”グッドイヤー・アリシアカスタム”が!」
 アリシアの宣言通り、そこには見違えるような姿となったグッドイヤーの姿があった。性能こそ変わらないが、よりアリシアにとって使い勝手の良い仕上がりだ。
「どう? ロデス」
 振り向いてみると、ロデスは機体にすでに乗り込もうとしていた。
「ちょっ、余韻!」
「これからアリシアとピクニックに行くんだろ。だったら早いほうがいい」
「そりゃそうだけど……」
 もうちょっと一緒に余韻を味わいたかった、と思うアリシアであるが、逸る気持ちもあって、そのままロデスの誘いに従い操縦席へと座る。
 G因子によってグッドイヤーが起動する。
「コンターク!」
 エンジンに火を入れると、轟々とした噴射炎が工房内に吹き荒れる。そのままタキシングして外に出ると、アリシアは推力を全開にした。
 急速な加速Gと、ふわりと浮き上がる感触。ロデスはそれに軽いめまいを覚えつつ、座席から外を見た。地表がどんどん遠ざかっていき、これまでいた街がミニチュアのように見える。
「うん、いい感じ。これなら他のマシーナリーをあっと驚かせることができるよね!」
 アリシアは、グッドイヤー・アリシアカスタムの出来栄えに上機嫌だ。
「驚かせる? 何をするつもりだ、アリシア」
「えへへ。秘密だよ」
「秘密か。じゃあ楽しみにしておくか」
 ロデスの言葉に、アリシアは微笑んで操縦桿をぐいっと引いた。
 やがてシャングリラ探索船団募集地の上空にたどり着くと、アリシアは機体を急旋回させ、飛行デモンストレーションに移る。急上昇からのスパイラルダイブ、地面スレスレの低空飛行からの急上昇からの宙返り、それらパフォーマンスを下にいるマシーナリーたちに見せつけるのだ。
 当然、同乗しているロデスはたまったものではない。
「おいおい、無茶するな」
 口では平然と言ってのけるが、胃がせり上がってくるのを止められない。あわや吐くかと思ったところで、アリシアは機体を着陸シーケンスに移行し、ロデスに向かって告げた。
「どう? エキサイティングだったよね?」
「ああ。天と地がひっくり返ったかと思ったよ」
 実際ひっくり返りかけたのはロデスの胃の方なのだが。
 そして着陸すると、大勢の観客たち――マシーナリーや城下町の民衆がわらわらと寄ってきて、盛大なもてなしが待っていた。用意された発泡酒をアリシアに振りまく者もいれば、アリシアの手を取り「よくやった」と褒める者、アリシアを取り巻くマシーナリーの外側から喝采を浴びせる者達もいる。
 しかし――ロデスは彼ら彼女らの中に、精一杯の空元気を感じ取った。それは彼が傍観者であったからだとも言えるし、異世界からの召喚者であったからとも言える。
 ――前代未聞の事態に、彼らもまた、心のどこかで恐れを抱いているのだな。
 ロデスはそう結論したが、あえてそこでは黙して語らなかった。異世界に挑戦する恐れは、冒険野郎である彼自身が幾度となく体験したことであり、せっかく盛り上がってそれを打ち消そうとしている場に口を挟むのは、無粋を超えて有害だとも感じたからである。
 なんにせよ、スタンドガレオンは次々と現れ、数を増やしていた。これに歌姫と風水士、騎士が加われば、立派なシャングリラ探索船団ができるだろう。
 困難な旅路を前に、人々は興奮と恐怖とを心中に抱えながら、着々と準備を勧めていた。

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