贈る想い
(ここで最後、ですね)
誠也の前には赤い屋根が目立つ木造家屋の一軒家が建つ。
彼の後ろには庭が広がっていて、子供たちの声が響く。
庭の中央には大きな木があり、その下には長方形の石が置かれていた。
運び屋にノー・キラーや村について聞いてみたが、誰もその村には入ったことがないそうで。
村人が武器を奥の屋敷に運んでいったのを見たぐらいと、彼らは言っていた。
これ以上何も得られないと判断した一行は、すぐに子供の誘拐が発生していないかを調べるべく、それぞれ分かれた。
ギルドや孤児院を一軒一軒訪れたが、現時点で誘拐の話はない。
(ここも誘拐の話がないといいのですが……)
ドアを開けると、お団子頭の白髪女性が花の手入れをしていた。
「あら、どちらさま?」
振り向いた女性の目元には皺やシミがあり、声もその身なり通りの高さでありながらどこか優しさをはらんでいた。
「すみません、少しお話を聞いてもいいですか?」
「何かしら……?」
「最近、子供が誘拐されたとか、子供関連の事件は発生していませんか?」
「発生していないけど……何かあったのかしら?」
女性は不安そうな仕草を見せる。
「あぁ、すみません。確認をしただけで。そういう事件が発生していなければ問題ありません」
「そう、それならいいけど」
誠也はそういう事件が発生していないことに安堵しながら、お礼を言おうとすると
「こんちはー! お届け物でっす!」
白シャツに茶色のベスト、七分丈のグレーのパンツとかっちりした恰好に、煤けたブーツを履いた男性が植物を抱えて現れる。
「毎年恒例のアイビーです」
「また届いたのね」
女性は困惑の色を一瞬見せるも、微笑みながら受け取る。
「失礼しまっす!」
運び屋と思われる人物は、さっさと出て行った。
「毎年ね、宛先不明でアイビーが届くの」
そう言いながら玄関を出る女性の後を、誠也はついていく。
「アイビーが花を咲かせる期間はとても短いんだけど、届いたときはいつも花が咲いていてね。きっと彼のためなのよね」
女性は木の前に立つ。
目の前にある長方形の石には「ヴァリアント・ヴォルフ」と書かれていた。
「ヴァリアント・ヴォルフ……こちらの方は」
「ファング・ムーンのリーダーよ。彼はヴァリアントって呼ばれるのが苦手で、いつもリアンって呼んでって言っていたわ。冒険者として名乗るときもリアンにしてたわ」
「そうだったんですね……」
「ヴァリアント、今年も宛先不明の花が届きましたよ。全く誰なのかしらねぇ」
女性は笑いながら、アイビーを置く。
誠也はそっと彼に手を合わせた。
◆ ◆ ◆
「猪魔獣に一撃を与えたのは驚いたぞ。良く頑張った……ダイア、君は強い子だ。俺も追い越されぬように精進せねばな」
ダイアの家に帰ってきて早々、イルファンは褒めて拳を突き出す。
「えっと……なにそれ?」
「フィスト・バンプだ。拳と拳を突き合わせる……ハイタッチと同じだな」
ダイアは手をグーにして、イルファンと拳を合わせた。
(待っていろ、ノー・キラー。貴様は必ず俺が斬る……)
拳を交わしながら、イルファンは再戦への決意を固める。
「はい、これわたしから!」
リコは魔除けのお守りとして、暗黒剣の柄をプレゼントする。
「なんだ、これ?」
「一定範囲内に魔族がいると光る柄だよ。これがあれば悪い魔族にいつでも対応できるね!」
「へぇ、すげー便利なんだな」
「リコちゃーん! 一緒にご飯食べよっ! あれ、二人とも何してるの?」
そこにフィリアが走ってくる。
ダイアは早速貰った柄をフィリアに向けた。
「わっ、まぶっ、まぶしいよ!」
フィリアは耐えきれなくなって、ダイアとの距離をとる。
「リコ、ありがとな。オレ、これのおかげでしばらく平和になれそう」
(平和ってどういうこと!? わたし変なことしちゃったかな……?)
ダイアとフィリアの間に垣間見える闇に、リコは困惑する。
「ダイアさん」
「ソルフェ」
「個人的にお伝えしたいことがございまして、少しお時間いただけますか?」
「いいけど……」
「では行きましょう」
二人は冒険者たちの集まりから少し離れる。
春奈は怜磨たちと話をする中、彼らの姿を横目で捉える。
(ソルフェ……?)
「春奈、どうしたんだ?」
「んー、ちょっと行ってくる!」
春奈は気付かれないように、二人の後を追った。