シン、マルチェロ、フィリアは全ての武具がまんべんなく売られていると評判の店を訪れていた。
「あぁ、いらっしゃい。ちょうど入ったばっかりだから見ていってよ!」
武器とは無縁そうな細身で浅黒い男性が、木箱を運びながら声をかける。
シンたちは店の隅に行き、小声で話す。
「誰が行きます?」
「何か誰でもよさそうだよね」
「年はシンに近そうですが」
「なら、オレが行こうかな」
シンは銃を並べる店主に近づく。
「ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「いいぞ。何の武器について知りたい?」
「武器のことじゃないんだが……2、3日前に武器を買い占めた連中について知りたいんだ」
店主はシンの上級冒険者勲章とマルチェロを交互に見つめる。
(疑われているのでしょうか。上級冒険者勲章を持っているとはいえ、シンはちょっと胡散臭すぎですからね……)
マルチェロは危惧していたことに身を引き締めるも、店主は明るい表情で口を開いた。
「あぁ、かなり印象的だったね。背の小さい貴族が来てここにある武器を全て買いたいと言ってきたんだ」
疑われなかったと見るべきか、クレリックに管理されている上級冒険者と思われたのか。
本心は店主しか知らないが、マルチェロは静かに安堵した。
「その貴族は紫に金の刺繍が入った上着を着ていなかったか?」
「着てたね。あと黒髪に赤髪が混じったショートヘアだった」
「支払いで使用した金貨はどこのものだった?」
「金貨は……あぁ、ちょっと待ってよ。今持ってくるから」
店主は店の奥へ行くと、すぐ戻ってきた。
手には大きい革袋がある。
「これごと渡されたからさ。確認してみてよ」
「助かる」
シンが袋を開けると、金貨が大量に入っていて、確認に時間を要しそうだった。
それでも中身を近くにあった棚の上に全部出して吟味する。
銀貨と銅貨も紛れているが、金貨含めてどれも各国共通通貨のようだ。
シンが確認している間、マルチェロが代わりに質問する。
「その貴族の方は、言葉の訛りとかありませんでしたか?」
「なかったね。普通にはっきりしゃべる人だったよ。いろんな成功を重ねて自信を得たような……そんな印象だったよ」
「セプテットで取引される武具の量はどれくらいでしょうか?」
「プリシラの物流の中心なんだ。それ相応にはあると思っていいよ」
「なるほど……」
(となると……)
セプテットの武器屋の数がどれくらいかわからないが、グラングリフォンやレガリス、プリシラの重要流通地点なら数は多いはずと、マルチェロは推測を立てる。
(それに多くの店をもし一日で回りきるとするなら、滞在時間はおのずと短くなるはず……)
「その方の滞在時間がどれくらいだったか、わかりますか?」
「結構短かったね。店内をぐるりと見渡して武器を全買い、金を払って配達を頼んだから五分もかかっていないんじゃないかな」
「配達……住所が書かれた紙は残っていますか!」
「あるけど……」
「見せていただけないでしょうか!」
マルチェロの詰め寄りに、店主は頷きながら少し後ずさって店の奥へ。
彼に伝票を渡す。
(ここから南西……少し歩きますが、数時間で行ける距離です)
「なぁ……俺、やばいやつに武器を売ってしまったのかな」
まずい人物に武器を売ったのは間違いないと思うが、これは現時点で推測にすぎない。
「……そんなことはありません。あなたは全うに商売をした。それだけです」
マルチェロは優しく微笑む。
確定的でないことを話すべきじゃないと結論づけた。
「金貨ありがとう。特に問題はなかった」
「あ、あぁ」
「情報ありがとうございました。あなたに輝神の祝福があらんことを」
マルチェロはお礼にと、店主の手にチップを握らせたのであった。