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語れぬ指:罪課さねの烙印

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語れぬ指:罪課さねの烙印
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…※…※…※…




 村に到着し「ふぅ」と納屋 タヱ子は緊張を解き、並ぶ信道 正義に、後方でノーブルエクゥの手綱を握り歩くエル・スワンアルス・M・コルネーリベルナデッタ・シュテット達に振り返った。
「結構な長旅になりましたね」
 辺境とは依頼書に記載されていたが、平坦ではない荒れている不慣れな道に自分達もそうだが、風馬や戦闘に耐える体力を誇るノーブルエクゥの消耗が想像以上に激しい。二匹のベアハウンドも出発時のような溌剌さがない。それぞれの主人の側に寄り添う形で体力の消耗を抑えているかのようにじっとしている。
 まだ昼前だ。教会の掲示板で見つけた依頼は期日が限られた急ぐような内容でもなく、帰路を思えば村で一泊はすることになる。
 万全でなければ事が起こっても対処に不安があるだろうしと休憩が必要と判断してタヱ子は休める者は充分に休んでと皆を労い、自分は先に仕事に向かいますねと、何かあれば知らせますし知らせてくださいと言葉を残した。
 ベアハウンドの頭を撫でて「頑張りましょう」と互いに励み合って、風馬を伴うタヱ子は村を貫く石畳の道を歩く。



…※…




 風馬の回復を待ちながらゆっくりと歩を進めるタヱ子は気さくに投げかけられる村人達の挨拶に会釈で返していた。
 まるで地域の子供を見守るようなご年配達の眼差しに、なんて親しい人達なのだろうと余所者を受け入れる懐の深さを知るのだ。
 ならば、とタヱ子は考えてしまう。
 念頭に置くべきは“見たまま”を信用しないということだろうか。
「平和そうなんですけどね」
 囁くもタヱ子は人々の一挙一動の違和感を見逃す気はなかった。どんなに表面を繕っても人間であれば必ず綻びが現れる。
 魔界近くの人間が異教に染まって、魔界と人界を結ぶバックドアになっていたケースがあった。
 空依頼の張り出しで人をおびき寄せるといったケースも体験している。
「魔障壁のすぐそばの踏査とはいえ、収支を考えるなら初心者向けの依頼になるんでしょうか」
 とは、自分の台詞だが、何事もなく終わって欲しいと願う分だけ、用心に身構えてしまうのだ。
 起こりうる最悪の事態を想定するなら、“村”も危ないかもしれない。
「それに気になるのは」
 村を訪れる人間は久しいということ。
 それは以前にここまで訪れた人がいるということ。
 初見踏破が大金になる事もままある冒険者界隈で、地図に無い村を発見しつつも情報提供をしないだなんてことがあり得るのだろうか。
 村の存在自体“依頼という形”ではあるが“調査”が必要とされているのに?
「翔べますか?」
 風馬の横腹を撫でて体力の回復は如何ほどかと伺うと、ブレードペガサスはタヱ子が乗りやすいよう両の前脚を折って彼女に己の背をさらす。言葉はなくとも交わす言語はあると従順な態度にタヱ子は礼と共に風馬の背を跨ぎ、乗った。ブレードウイングが飛翔に力強く打払われ重力に優(まさ)れば、タヱ子は伸し掛かる風圧に微か青い目を細める。
 天を自由自在に駆け回る天馬と一角獣を掛け合わせたものであると言われているその生き物は彼女を空の高みへと連れ出すのだ。エヴィアンの翼では望めぬ高度まで達したのか上昇に掛かる負担が嘘のように消えて、風の冷たさがタヱ子を包む。
 眼下に広がる村と城。
 視点を変えて「ああ」と零す。
 魔障壁はそれでも高く、高く在りて魔界の様子を見越すことは叶わなかった。
 風に流れる髪を指に絡め、耳にかける。
 ふと、視線を下に落としたのは、地上に残したベアハウンドが気になったから。大人しく待っていてくれているという信用があるだけにどうしているのかと姿を探し、タヱ子は口を噤む。ひとが自分を見上げている。よくよく見渡せば大人達が作業の手を止めて、空を見上げ、立ち竦んでいた。
「流石に目立ちますよ……ね」
 ただでさえ注目を集めていて動向を気にされているのに迂闊だった。調査という大義名分で村の上を翔び回る行動こそ許されるだろうが、もし、最悪の事態が起こった場合、刺激を与えたと自分が槍玉に上がるのは想像に難くない。
 手綱を握る手に力を込めてタヱ子は緩く息を吐き出した。
 村より石畳の道をガイドになぞりあげる視線は、沢山の篝火に囲われた城に辿り着く。



…※…




「俺やタヱ子はこういうのも慣れてるけど、エルも含めて遠征ってのは初めてだったか?」
 正義の問いかけに、水気の少ない乾いた風に汗ばむノーブルエクゥが下手な冷え方をしないか気を配るエルは、アルスとベルナデッタのふたりと三人顔を見合わせる。
「それ出発時にした会話だよ」
「そうだったか?」
 長旅で疲れているのかもと正義は腰裏に両手の親指を左右それぞれ添えて、そこを支えに背筋を伸ばした。
「ローランドを訪れてても、ここまで間近に魔障壁を拝める機会なんてなかったからな」
 緊張していないと言えば嘘になるだろう。魔障壁については純粋に個人的な興味もあるし、今後の『ガーベラ』としての活動を見越せばこういう体験は悪くないと思うのだ。
「集合は夕暮れ時だな、了解したぜ」
 一足先に風馬を伴い調査に繰り出すタヱ子の指示に正義は了承に頷き、手持ちの荷を確認する。取り出しやすいように配置を少しだけ変えて、魔力の流れを可視化するゴーグルを手にし、正義は残る三人に自分はあちらから調べ始めると指差して、行ってくると片手を振った。



…※…




「現地で調べるしかなさそうだ……という気構えで来たんだが」
 石畳の道を外れ乾いた地面を踏み進む正義は小さく零した。
 依頼書の抜けや不備に振り回されないよう再読するに当たり記載文に気になる点がいくつかあったのもそうだが、どんな依頼だろうと手を抜くことはなく、加えて今回は日数を費やす遠征先であり途中で気持ちが抜けない様にと気を引き締めていただけに、正義は畑に灰を撒く人々の仕事風景についつい魔障壁を背景にした城へと視線を転じてしまう。
「平和そのもの。読んで字が如くだ」
 魔障壁の近くともなればその向こう側は魔界と呼ばれる地、普通なら危険な場所だと警戒されるのが当然なのだが、どうにもその緊迫感を感じられない。
 村周辺で調べるなら魔物や魔獣や危険生物の棲息の確認からと段階を踏むつもりだったのだが、一段階目は“見たまま”だと受け入れるのが早いのかもしれない。
 ああして貧しいながら自給自足に村が栄え、ひとが隣人と笑い合うままに居られるのなら、外敵たる存在が少ないのだと単純に推測できるし、もしくは何か別な理由があるのだろうかと真実の追求に仮説を求める。
 それは、更に一歩踏み込こんだ“見えないもの”の領域への接続を試みる段階と成る。
 村が平和である理由が前者であれば有難いのにと願いつつ正義は、冒険者向け探索セットの中からマッピング用の道具を取り出し、調べが済んだ箇所にチェックをつけた。
 現状平和そのものであるが、一寸先に何もないという保証は無い。正義は、ある程度の自衛はできる。けれど一度騒ぎが起これば村に不必要な影響を与えかねない。なので極力戦闘は避ける方針で、気配を消して身を潜めることも手段のひとつにして、それでも危険なら危険で結局誰かが対処しないといけないと改めて気負えば、依頼の続行に調査を再開させた。
 気になるものや何かの痕跡があれば積極的に触れていこうと意に留め道の無い場所を歩く正義の背後から「おーい、兄ちゃん」と彼を呼ぶ声が投げかけられる。
 魔力の流れも測定して把握しておこうと使用していたゴーグルを顔から外して正義が声に振り返れば、若い青年が大きく手を振って駆け足気味に近寄ってくる所だった。
 満面の笑顔に敵意なんてあるわけもない。
「どうした?」
 ずいぶん遠くから呼び止めたみたいだが。
「あ、いや、邪魔するつもりはないんだけどさ、あんた達冒険者は外の人間だろ? 城主様とお会いしたらびっくりするんじゃないかと思って」
「城主と、会う?」
「あー、会うっていうのは違うのかな。俺もお姿を拝見したわけじゃないけど……村の調査だからもしかして魔物とか探してるのかもって考えて、それなら見つからないよって伝えようと思ってさ」
 いくら探しても魔物の姿は発見できないと青年は語る。
 村の外敵は皆全て城主によって排除されているのだと。



…※…




「どーもどーも、私です!」
 アルスの挨拶にひとが手を振り返してくれる。所在地から治安の良し悪しについて懸念があったものの、いざ到着してみれば村中に溢れていたのは親しみ深さだった。
 荒んでもいないだけ、緑色が永遠と続く田園風景が似合いそうで、ここからでも見える魔障壁が残念でならない。
 最後になってしまったが皆が充分な休息が取れたのでエル達三人も依頼をこなすため動き出したわけだが、村に対しての反応は三者三様と綺麗に分かれた。
 取り分けベルナデッタの表情が一番思案に暮れて厳しめである。
 依頼書の時点で妙な依頼ではあったと彼女は思い出しては記載されていた文章を思い出し、目の前に広がっている実際の風景とを照らし合わせていた。
「魔障壁に接した辺境に位置する村。一見すれば長閑なこの村にわざわざ調査を依頼した人物は、国王も領主も把握していない……或いは、存在を公にしていないこの村を何らかの方法で知ったことになる」
 そしてその事に疑問を持ったのだ。
「高額の報酬を用意していることからも、依頼主はこの村における”何か”を察知し、我々にその調査を依頼した……と。わたし達冒険者へ依頼したということは、少なからず危険は“ある”と考慮すべきだろう」
 自分で調べず、というのは、己の手に負えない、と変換できるのではないか?
「依頼主がわたし達に”調査させたいもの”とはなにか?」
 “依頼”という形。
 その答えに繋がる違和感を探るのが今回の主な目的だ。と、ベルナデッタはのめり込む思考に口を手で覆う。呟いては視線を下げていく探求者に、アルスは彼女の横に並び、俯きゆくベルナデッタの視界に片手を振った。
「ベルさん、顔あげましょ? どうしたんです? この村についてからというもの、ベルさんは妙に考え込んでる様子ですねぇ?」
 交える視線にアルスは小首を傾げ、「解せなくてな」とベルナデッタは右側のこめかみを指で押さえて解す。
「依頼の内容からして疑えばきりがない。その原因が、それはこの村自体かもしれないし、城に隠されているなにかなのかもしれないが、今回は村とその周辺に散らばっている違和感を収集し、次の推理に繋げる材料にしようと方向性を変更したほうが早いかと感じてしまってな」
 ベルさん、とアルスは名前を呼んだ。
「今回の依頼、そんなにむつかしい顔をする依頼でもないようなー……気がするんですよ」
 ほら見てください! とアルスは全面の景色に向かって両手を広げる。
「よく晴れ渡った空! に、のどかなかぜー……。村の調査ってことですけど、住民の方も親切な感じですし、ちょっぴり心休まります。心休まりませんか?」
 時間がゆったりとまったりと流れるかのように。
「あー……アルテラの故郷の村を思い出します……」
 満ちている雰囲気はどことなく異世界を彷彿とさせた。浸るアルスは無意識に閉じていた目を開けて、
「……って、あ!? ベルさん、置いてかないでくださいよぉ!?」
 先に進み遠くなるベルナダッテの背中に慌てた。
「エルくんも苦笑してないで止めてくださいってばっ!」
 首だけ振り返りヘルプを叫ぶアルスにエルは笑う。
 魔障壁に接した辺境は安寧の営みに驚くほど安定した日常を送っており、長い道のりを経て辿り着いた自分達の来訪を喜び歓迎し両手を広げ受け入れてくれた。
 だから、とあえて持ち出そう。
「ベルナデッタさんから大まかに話は聞いたけど、確かに全く裏がないとは思えない…かな」
 アルスにエルは気は抜けないよと伝える。
 依頼主の辺境の村の発見についてもそうだが、魔障壁に接した位置に建てられた城。その存在感はあまりに大きく異様である。何故ならそれは、仮にでも、レガリス王国が作った防衛用の砦として考えるのが妥当だろうし、派兵された実績があれば、魔障壁周辺の調査なら少なからず行われているだろう。王国側がここの存在を知らないとは、少々考えにくい。
「『壁送り』っていう処罰も存在する訳だし、尚更……ね?」
 ベルナデッタの足が自然に速くなるのもエルはわかる気がするのだ。この村は、あの城は、謎めいている。



…※…




「今回は村周辺をぐるっと一周……だったね」
 畑と家畜くらいしか見どころはなかったが、それぞれはぞれぞれに印象的だった。畑はたくさんの灰を撒いていたし、家畜は奇形ばかりだった。空き家は皆無と言っていいほどで、村人が陰で悪さをしているという様子もなく治安はよかった。
 何も争いひとつ起こらないとなると自然と緊張感は緩んでいく。一体何人と挨拶を交わしただろう。大変ですねとひとに労われることもあった。平穏にほどよい加減で解されていくエルは、スッと表情を変える。
 前方に森が見えてきた。
 どうも村を一周したようである。ただ歩くだけの調査となってしまったが、二人乗りのノーブルエクゥには移動の都合上、一人づつ運ぶことになり何度も往復を頼むだけに合間合間の休憩も多めに取っていたので流石にそろそろ日が暮れようとしている。陽が傾き、地面に落ちる影が長く伸びる。外へと続く道さえ飲み込んだ森のソデ群落の前で立ち止まった。
「森の中は灯りが必要そうですね」
 明るい日中なら気にしなかったが、黄昏に真正を現したかのような人の侵入を厭う雰囲気を纏う原生林は最早古来からの道すら排除したと言わんばかりに多くの影を落とし、黒く埋めていく。
「って、エルくん!」
 がさっと近場の茂みを手で掻き分けるエルに、待機が多く共に過ごすことの多かったベアハウンドの頭を撫でていたアルスは思わず声を張った。
「少しだけだよ。それにアルスさんも居るしね」
 回復、状態異常対策係のアルスがバックアップしてくれているのだから、要のアルスがそうやって声をかけてどうするんだとエルは気安く笑い、灌木を手で掴み横に除(の)けた。機動性が高いノーブルエクゥも木々が邪魔してしまえば大きな的になるだけ、単独エルは森の浅い部分を探る。
 騎乗するベルナデッタが違和感を見逃さずつぶさに観察できるよう速度を遅めに進行していても、答えに繋がるようなピースを全て手に入れるまでには至らなかった。
 これで何か出てきて戦闘に発展したとしても、元よりそれは自分が引き受けるつもりであったエルである、問題ない。
 アルス達からでも姿が視認できる範囲でがさごそとしているエルを眺め、自身が握る貴族間で人気の“魔除けのお守り”たる魔剣の柄を見下ろしてベルナデッタはそれをしまった。時折魔力反応を見せていたそれは結局は何に対して反応したりしなかったりを繰り返していたのかわからなかったのだ。否、判断基準を設けられなかったに近い。要因が多く、それでいて検証の機会に恵まれなかった。
 痩せた土に、限られた面積。農村とは言い難いコミュニティ規模、大きいといっても備蓄庫はひとつで、満杯には程遠い収穫量。近隣の村や街、都市との交易もないとくれば、どうしてその状態で自分達をもてなせるのだろう。村を見回れば、全体像が見えれば違和感は増えていく。
 荒野の中の集落。己の知っているのと比較して、地図に調査で発見した情報や己の直感を書き込むベルナダッテは一度その作業をとどめ、エルへと再び目を向けた。
 畑の横を歩くのとは違う。低木の群落に足を踏み入れるエルの一挙一動に注目していたベルナデッタは己の知識に触れた感触にハッとする。
「それ以上奥に行くな下がれッ」
 彼女が言い終わるよりも速く、
 ザンッ、と飛来する一矢がエルの真隣の大気を裂いた。
 獣か魔物用の罠か何かだと察したのが、陽光に閃いた鏃の先で、注意を発したベルナデッタはそれが人の手で放たれたものだと知り後方を振り返った。矢は地面に半ばほど埋まっている。
 アルスが狙われたノーブルエクゥを背に庇う形で射線上に移動し、さらにその前に、三人の中でただひとり森中(もりなか)に居るエルが素早く剣を引き抜き、切っ先を突きつけて声高に誰何の問いを投げた。
 反応はすぐに返ってくる。木々の向こうから人影が揺れた。
「すまんすまん。鹿の子供だと思ってな。ぎりぎり逸れてよかったよ。怪我はしてないか?」
 森の奥から弓を持った男性が現れる。服装から村人のひとりだと伺えて、所持している道具類から狩猟中であったのもすぐに想像がつく。弓は肩にひっかける形で武装は解かれ、エルも剣先を地面に付ける。
「鹿じゃないのか?」
 男はエルの横を通り過ぎ、興味津々とばかりにノーブルエクゥに近づこうとするのでアルスとベルナデッタがそれぞれ進路を塞ぐような形で注意を自分達に向けさせる。
「ここ一帯に鹿が生息しているんですねぇ。この子が子供サイズだそうで、大きいのですか?」
 アルスの質問に男は頷く。このくらい大きいかなと伸ばした手で高さを示され、角を含んでその高さならノーブルエクゥと変わらないですよと説明するアルスに、いやこれが体高と言い直された。それならノーブルエクゥが子鹿サイズと誤認されるか。
「いや、本当にすまないな。もしよければでいいんだが家に寄ってかないか?」
 お詫びに夕食に招きたいんだがと男は誘った。猟に出たのも元々は多くの冒険者の来訪に気を良くした男の妻が手料理を振る舞いたいと肉をせびったのが理由でもあったのだし。
 タヱ子と正義と合流する予定の三人はこの申し出を丁寧に辞退することになるのだが、
「気配が、なかった……」
 遅れて森より出てきたエルは小さく囁き、それを聞いたかのようにベアハウンドが彼の足元にすり寄った。

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