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語れぬ指:罪課さねの烙印

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語れぬ指:罪課さねの烙印
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…※…※…※…




 長い道すがら意見を交わし、そして到着して、クラン・イノセンテ星・カグラフェルディク・ルブリザードの三名はそれぞれにそれぞれの顔を見て、ゆっくりと村へと視線を戻した。
 依頼書に記載されていた内容は箇条書きに近い簡素なもので、現地の様子は事細かには書かれていなかった。
「小さい村だな」
 道に沿って並ぶ家屋はこじんまりとし、村の向こうに見える建物は陰影だけで城の類かと推測は立ち、更に奥には魔障壁が聳え立っている。目測だけで判断するとしても、少しでも高い場所から見下ろせば村の全貌を把握できそうだった。
「今度こそマジで調査だよな? 戦闘じゃねーよな?」
 クランの呟きを拾ってフェルディクが星に今回の仕事内容について危険はないだろうなと念を押す。
「まぁ、依頼されているのは調査だけね」
 頷くことなく星は答えた。
 対し、調査対象が少数。つまり、すぐに終わる。つまり、自由行動の時間が多い。つまり「よっっしゃ! 可愛い子ちゃん探しが捗るぅ!」とフェルディクが私情たっぷりの個人的回答を導き出すので「対象はあくまでも“村”よ」と星は目的を間違えないでと赤ペンで訂正し「女の子と話す、そういう楽しい調査じゃないの? マジ?」と浮かれかけた彼に間違いではないがそればかりにかまけてられるようなものではないと現実を思い出させた。
 落胆するフェルディクに気づく風もなく村を見つめるクランに星は「何を考えているの」と声をかける。
「私は、そうね。“でも”と感じるの。変な村よね?」
 眺めて、思う事。気になるとこがあっちこっちに……ね? と首を傾げて、星。
 意見を求められてクランは遠くを指差した。
「同感だ。パッと見だけでも人が多いように感じる」
 例えば、畑の面積と比較して。
「やっぱり? 土地の枯れ具合と村の様子が釣り合っていないように、私にも見えるわ」
 魔障壁の近くという鬱屈とした環境の中、人々が外仕事に汗水垂らして精力的に働いていたり子供達が元気に走り回っているという明るい賑わいについてではなく、
 まず、
 村の大きさに対して井戸の数――これは後に調べたら五箇所あると判明する――が多い。
 次に、主な家畜は一通りいるのに馬の姿が見られない。その理由も不明。
 次に、備蓄庫を兼ねているとはいえ村の小ささに宿屋の大きさが釣り合っていない。
 最後に、痩せた土地の割におもてなしができるほど物資が豊富。
 森を抜け村に入り、宿屋を過ぎるまで得られた触り程度の情報を纏めてクランと星は目配せし頷き合う。
「俺は一度宿屋に顔を出そうと思う」
「私はもう少し外を歩くわ。ほら、行くわよ」
 落ち合う場所は此処でと決めて、クランは宿へと爪先を向け、星はフェルディクを手招きし、三人は二手に分かれた。



…※…




 近くに水源があるわけでもなく農業に適しているとは言い難い土地柄なのに村人達は極端に痩せておらず、食糧難とは縁遠いらしく悲愴感は漂っていない。
 貧しいながら痛々しくもない中途半端さが違和感の正体なのだろうか?
 備蓄できるだけ食料の余裕が無いようにも思えるし、その割には随分な好待遇を自分達は受けている。
「こんにちは」とクランは軽めの挨拶で宿屋の人間を戸口まで呼び寄せて、村の調査という名目の元、村の男に食糧事情の仔細を求めた。
 物品の交換も金銭の受領無しに飲食の提供を含めたもてなしを受けるのは悪い気はしないが、村の負担にならないだろうかと尋ねるクランに男は自分が宿屋を営んでいるわけではないと前置きをしてから、村の畑では長期に保存が可能な大豆を中心とした豆類、ライ麦に、根菜を輪作で育てて収穫を続け、何かの拍子で不作に陥ったり連作障害で食料が途切れないよう工夫しているのだと説明した。雑穀以外にも家畜を飼育しているだけミルクや卵、時には肉も数に入るだろう。
 クランに備蓄庫の中を見るよう促し、畑で採れるもの以外にも森が近いから茸や野草、木の実も皆無ではなく、畑仕事より野生動物の狩猟を得意とする者が村には存在している。
 そして何より、
「城主様自ら育てたお野菜をいただけるから食べ物に困ることはそう滅多に無いよ」
 と男は誇らしげに胸を張った。斯様(かよう)の理由で、大きな備蓄庫が空になることは無いと隠し事ひとつなく公開する。
「城でも野菜を?」
 否、違う。
「そうだよ。時期を見て城に受け取りに行くんだ」
 そんな答えが欲しくて問うたのではない。けれどどんな質問をもって欲しい答え(真実)を導き出そうか考え至れず口ごもるクランに、今日がその日だと戸口に現れ「台車借りていきますね」と受け取りに向かうひとの声に男が了承に軽く手を挙げた。クランに視線を戻し、
「おい、いつまで相手してるんだ」
 突然に老人の嗄声が割り込んだ。
 微かに怒り孕む声音にクランはそちらに顔を向ける。
「おやじ……」
 客間が並ぶ階段から降りてきた老人に男が厄介なことを言い出したと面倒くさそうに呻いていた。
「帰らせろ」
 にべもなく言い放つ敵愾心に男は慌てた。
「おやじ!」
「いいから帰らせろッ」
 ギロリ、と老人がクランを睨みつける。爪先から頭の天辺まで舐めあげるような視線移動。魔障壁が近いという情報に瘴気対策と教会で洗礼を受けた鎧を纏うクランは如何にも騎士然としているのが余計に老人の怒りを煽っているのが表情の変化で読み取れる。
「城主様はああいうお考えの方だから飯も寝床も用意するが、儂は好かん」
 帰れというが、強制的に村から排除するという実力行使までは及ばないようだ。それだけ城主という存在は大きいのだろう。帰らせろ、とは他人を動かす命令だ。聞く相手が動かなければ執行まで実現しない。
「俺達が余所者だからか?」
 保守的な考えならば理解できるし、他に理由があるなら是非に聞きたいと、答えを聞けるのならそれこそこの村に赴いた甲斐があると身を乗り出すクランに老人は短く息を吐き捨てた。
「お前らみたいな何を食って生きているのかもわからん連中をお側に置こうなど……いいか、城主様の身に何かがあれば儂はお前らを許さないからな」
 せいぜい大人しく調査とやらを終わらせてさっさと去っていくんだな。問題を起こそうものならただでは置かないと脅すことも忘れず、これ以上は顔も見たくないと老人はクランに背を向けたのだった。



…※…




「異世界にはカワイイ女の子はいないかなー」
 なんてきょろきょろと辺りを見回しナンパのターゲット捜しに勤しむフェルディクの横で星は首を傾げる。
「なんだろうね、豊かだった昔の名残……とか?」
 その割には遠くに見える城と備蓄庫を併設し集会所も兼ねている宿屋くらいしか大きな建物がない。城が建っているだけ、当時に栄えた街であったものの結果的に小さな村と縮小したのならまだ大きさや造りにばらつきが生まれ、こんな均一化めいてはいないはずだ。悪戯防止に窓と扉に板張りされた空き家も少ない。それに、過去村が街でなかったことは城へと続く一本道が証明している。
「えらーい人の住むお城を一番危ない魔障壁のすぐそばに建ててるのも気になるよねぇ」
 少領の別荘代わりなら事情も変わってくるが、この村は言わば城下町だろうに。
「普通こういうのって、街の真ん中とかに建てるものじゃなあい?」
「ガキンチョ」
 星の言い分も一理あると可愛い子ちゃん捜しを中断するフェルディクは腰に両手をあてた。
「推測だけじゃ意味がねぇよ」
「うーん。確かにこうして考えてもしゃーないね!」
 どれくらい土地が枯れててどのくらいの豊かさなのか、自分の目で見て確かめないとねっ。
 拳を握りる星は一歩フェルディクより先んじて前に出て、彼に振り返った。
「畑の様子に比べておもてなしが豪華だったら無理してないか心配になるもんねぇ」
「おう」
「井戸の水が一部以上枯れてるなら昔のものって裏打ちだし、全部水が汲めるんなら一層奇妙だし」
 点在する井戸の数。宿屋の道を挟んだ向かい側にあった雑貨店の品揃えは申し訳程度で地図など売っていなかった。だから記憶するしかない村の形は、一通り歩けば明確になり、わかったのはおおよそ路村らしい成り立ちに沿った家並びをしているということ。なのでそう考えると井戸の数は多いと感じた。枯れるから次から次へと地面を掘ったのだろうか?
「ま。覗いてみっか」
 そこな近場の井戸から調査しましょと赤燃ランタンを手にするフェルディクに、先回りをして滑車より垂れる麻縄を手繰りバケツを巻き上げる星は満杯の重たさにきゅっと奥歯を噛む。バケツの水を井戸の外に投げ捨てて代わりにランタンを入れ置いた。
 城があるので地下水路の可能性もあったが、井戸の底に水の流れはなく、単純に深層に蓄えられた地下水が湧き出るタイプなのだろう。
 バケツの中に灯りは上部ばかりを照らし、石造りの井戸の壁面のおうとつが陰影くっきりと浮かび上がってふたりの目に映る。
「待って、止めて」
 フェルディクはバケツを下ろす手を止めて、星と同じく身を乗り出すようにして井戸を覗き込む。
 あれ、と星が指差す先には人ひとり通るのがやっとの大きさの扉があった。壁面よりやや奥まった形で穿れているので、ただ井戸の中を覗いても発見できなかっただろう。
 井戸に隠し扉を発見。
 隠し扉を調べるか他の井戸も同様なのかふたりで話し合う中、
「落ちますよ?」と親切に注意してくれるひとの声に星は弾けるように背を正し、振り返り「あの……こんにちは」と、訝しんでいる老婆に初めましての代わりに頭を下げた。
 いつの間に近くに来たのだろうか。それだけ隠し扉が気になったのだろうか。注意を疎かにしたつもりはないものの星とフェルディクは揃って老婆と対面することになった。
 無言で相対するという空気に、星は次の言葉を探し当てるより早く老婆が彼女へと近寄る。
 井戸の縁に手を掛けてふたりを真似するように井戸底へと視線を投げて。
「あれが気になるのかい?」
 穏やかに問われて星は素直に頷いた。
「そうか。そうだねぇ、教えてもいいけどお嬢ちゃんは悪さはしないかい?」
 どうしてそんな事を聞くのだろうか。
「いいさ。今は使えなくなってるからねぇ。あの扉は昔に使われていた隠し通路の出口さ」
「隠し通路ぉ?」
 老婆は星に城は昔は砦であり、そこに見える扉は砦より緊急時脱出できるようにと作られたものだと、今は封鎖された地下通路について話始めた。
 老人の相手は任せたとフェルディクは静かに井戸から離れる。
 聞き役はふたりも要らない。自分は自分で聞き込みを開始しよう。そうしよう。
「ってもなぁ。好みの年代の子がなぁ」
 頭巾を被る妙齢の女性ばかり。ナンパを兼ねて自分と一緒にハニージュースでもと気分は盛り上がれるのに、悲しいか相手がいない。
「てかもしや辺境すぎて若い子殆どいないんじゃね?
 え~~~ショック、オレ泣いちゃう」
 嘆くも、それは真顔へと戻った。
「いや逆にンな辺境の村に若い子ばっかいても不気味だな」
 記憶に刻みつける地図は周囲を観察すればするほど正確になり、精密な地図からは如実とが浮かび上がってくるものがあった。
「年齢層はまぁおかしな所はないが、やっぱ人が多いな」
 畑の面積と比べれば、この村は人で賑わっている。

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