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語れぬ指:罪課さねの烙印

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語れぬ指:罪課さねの烙印
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…※…※…※…




「すみません! 村の調査に来ました~。最近事件とか何かなかったですか?」
 気さくに、また、角が立たないよう行儀のよい声で藤白 境弥が投げかけると作業に没頭していた男が隣のひとに仕事の中断の断りを入れて、それから冒険者の元へと近づいてくる。
「こんにちは。お忙しいなかすみません」
「いやいや。ちょうど休憩しようとしていたところさ。で、あんたは冒険者かい?」
 嘘をつく必要がないので素直に頷く境弥は、たったそれだけの受け答えですんなりと自分が冒険者であるというのを信じ受け入れる村人の温和さに無意識に張っていた肩の力を抜いた。
「そうかそうか。ここまで来るのは大変だったろー。道とか埋まってなかったか?」
「道?」
「村の調査って言うが……さぁてねえ、事件ねぇ」
 聞き返そうとした境弥の声に男の疑問が被さる。両腕を組んで首を捻る相手に意識を切り替えた。普段では使わない道について、想像するだけなのは当然でなんら不思議ではない。が、けれど、さてどんな道程だったかと、実際に道を使用してきた身として振り返ってみれば、苦労したのは覚えていても、詳細までとなると朧げで細部までは鮮明にすらならない。
「事件らしい事件はないな」
「そうですか」
「ありゃ、落胆ものかな」
 事件が無ければ報酬が貰えないというわけではないが、ニュースがあれば調べ甲斐も張り合いも出てくるので、なんだか物足りない。小さな不運に見舞われやすい体質も合わせて考えれば、発生した事件の有無でこれからの心構えもできるのに。
「んー、事件じゃあねぇけど、祝い事ならあるな」
 それはどの様な事か。視線だけで問えば、男は「ほれ、あの城に住んでいる城主様の事よ」と境弥に指差しで示すのだ。
 あの城にはひとりの娘が住んでおり、明日は十六の誕生日を迎えたその娘が正式に城主の名を継ぐのだという。
「それはおめでたいことですね」
 男が嬉しそうに誇らしげにするものだから、祝いというだけに、そのまま感想を述べる境弥に「けどなー」と男は声を間延びさせて続けた。
「特に大掛かりなことはしないんだよー」
「残念そうですね」
「俺はさー、小さい頃も思ったけど、そういう特別な日こそ大体的に盛り上げたいんだよねぇ。それこそ息子の誕生日みたいにさ、セシス様――城主様の名前な――もまだまだ少女の方なのだから甘いお菓子でも用意してあげたいのよー」
 けどさぁ、とまだまだ男は続ける。
「城主様にとっては、俺のこんな気持は、そんなのは全く必要ないんだよね。むしろ逆でさ、負担になるだけなんだよ。お疲れになってしまうんだ」
 だから、村に住む人々は皆、今日も明日もただただ普通に日常を過ごすのだと言う。
「まずもって俺達が祝っても城主様はお喜びにはならないだろうな」
 けど、
「城主様は人が好きだから、今日明日の日に冒険者が大勢来ていると知ったら、それはきっと喜んでくれるだろから」
 だから、
「是非に泊まっていってくれ」
 明日も村に留まってくれると自分が嬉しいと男は語る。



…※…




 最初に話しかけた男は見かけに反して喋り好きだったらしく小一時間ほど境弥は付き合うこととなった。仕事をサボるな再開しろの他者の声で開放された境弥はそれからは適当に北に行ったり、南に戻ってみたり、西へ東へと人の姿を捜してぶらついた。
 時には風の流れを気にしてみたり、魔障壁が近い影響か僅かに過敏になりつつある感覚を宥めながら田舎の風景を楽しみ、帰り道に爪先を向ける。
 宿屋の食堂の一席に腰を下ろした境弥は働く男に片手を挙げた。
「へい大将うまい飯をくれ!」
「……」
「飯をくれ!」
 大将という呼称がうまく伝わらなかったようだ。言い直すと二つ返事で男は調理場の奥へと消えていく。
 つい勢いに任せてしまったが、注文を取らないとは出せる料理は決まっているということだろうか。つい店内を見回してメニュー表を探してしまうが「まぁいいか」とおすすめ料理については先に耳に入れていただけ、それしかないのかと思うだけだ。
 料理を待つ間、隣のテーブルでは酔っぱらいが冒険者に絡んでいる。



…※…※…※…




 道に面した宿屋の前で女達と豆の選別作業に混じるエレミヤ・エーケロートはきょとんと青い目を瞬かせる。
「ということはここに居る皆さんは全員血が繋がっているってことぉ?」
「そういうことになるのよ」
 流石に全員がとはならないが、小さな村だから親戚同士血縁関係があるというのはよくある話のようだった。両親が従兄弟(いとこ)同士再従兄弟(はとこ)同士という組み合わせは多いという。
 村で産まれて育ち、結婚し子供を育てる。辺境故に外からの血はあまり入らないという事情を加味すれば、どことなく人々の面差しは似ているのも頷けてしまい、そんな所からでも村の歴史の長さを想像することができた。
 時間をかけて混じり合い濃くなりゆく血に、村人に個人を示す名はあれど、家を指す姓が無いのはそれが理由だからだろうか。
「今日も精がでますね」
 と、お喋りに割り込むひとの声に女達は「今からお城に行くの?」「城主様によろしくね」と宿の中へと消えていく背中を見送る。
 女がひとり、「そうだ」とエレミヤの注意を自分に向けさせる。
「城主様が一番昔から住んでいる一族の方かもしれないよ? だって、城主様がいらっしゃるからこの村が出来たって話だからね」
 現在は城主様は何代目だったかなと呟き、エレミヤに忘れてしまったと肩を竦め、昔話は老人が得意とするだろうが、自分と同じ答えが返ってくるだろうと女は言った。
「どうしてですかぁ?」
「さあ、どうしてだろうね。 ……なんて冗談だよ。意味がないからさ」
 学が無いなんて笑わないでおくれと女が続ける。
「あたしらにとって城主様は城主様だからだよ」
 それは言葉遊びのように「今の城主様を知れば、過去の城主様方がどんなお人かだなんてすぐにわかるし、何代世代を重ねただなんて考えても意味がないことを知るよ」と女が語る。
 お会いできたらの話になるけれど、と女はそこで一旦この話題を締めた。
「にしても手伝ってくれるって言って助かるよ」
 選別済みの豆が入った蔓紐の籠を渡され促されるままにエレミヤは立ち上がる。ついていく先は宿の裏手側。調理場へと続く裏口。
「こんなに多くのお客さんの食事を用意するなんて久々だからね。気合を入れないと」
 こちらへと女が手招きする。調理場に入ると大きめの石臼の前にエレミヤを立たせ、挽き臼の取っ手を差し出す女は、代わりに彼女から籠を取り上げ中身を石臼へと注ぎ込んだ。
 手引の仕事を託されたエレミヤは、稼働する上部の回転臼を動かしながら視界に入る色鮮やかな色彩に惹かれるように意識を向ける。それはエレミヤのすぐそばの作業台に無造作に置かれていた。
「葉もの……野菜だねぇ。もしかして噂の野菜煮込みかなぁ?」
「耳が早いね。期待しておくれよ」
 両腕を広げるよりも長く幅広な葉束にエレミヤはそれにそっと手を伸ばす。指の腹で撫でる感触はつるんとして柔らかい。しっとりとした瑞々しさは潤沢な環境で育った証。虫食いや一部の傷や枯れも見当たらず、荒野の乾いた畑で育てられたにしては手入れの行き渡った繊細さえあった。
「美味しそうですねぇ」
「城主様ご自慢のお野菜さ」
 冒険者とて来客だ。村人もだが、客人として村に迎え入れ自ら育てた野菜を食材として提供しようと来訪を歓迎しているのは他でもなく城に住むという娘らしい。城主がそういう考えでいるからこそ村人達は主の喜びは己の喜びだと倣っているのだろう。
 狭く限られた集団だから全体に及ぶ伝達は速く、それに伴う同調も安易であり、いかに城主という存在が村人達にとって大きいのかを想像しエレミヤは葉を撫でる手を引っ込めた。
 そして、エレミヤは何十人分もの雑穀おかゆと野菜の煮込み作りを存分に手伝うことになるのだった。



…※…




 エレミヤのパートナーである十朱 トオノは、高みの空へと飛翔する小型のタカ――エカルラートを見送り、緩く息を吐いた。
 先程から背中に視線を感じる。
「……腕が……」
「よく見ろ……だ」
 と辛うじて聞こえてくるヒソヒソと交わさる会話。途切れ途切れの単語を繋ぎ合わせれば話題が自分の事だとすぐに察することができた。
 トオノは義手等を装着せず隻腕のままなので見慣れぬ者からしたら目立つのだろう。
 コソコソされ続けるのもなと思い彼が振り向くと、男ふたりがバツの悪い顔でトオノから視線を逸らした所だった。
「なんだよ」
 左腕を体の横で広げ、わざと自分の姿を晒す。
「俺だけ余所者扱いか?」
 エレミヤは勿論、他の冒険者達でさえにこやかと仲良くしているくせに、自分だけそんな対応なのかと残念がって見せた。
 わざとらしい大声はしっかりと男達の耳に入り、ちら、とトオノは盗み見られる。再びヒトヒソと会議が始まって、トオノは広げていた左手を腰にあてる。男達側に気持ち分だけ重心をずらし体を傾けた。
 再びわざとらしく、今度は大きな溜息を吐いた。
「ほんと、田舎の人間ってのは気難しいねぇ?」
 エレミヤは女達に囲われて井戸端会議でお喋りしているというのに、自分は不審者扱いで待遇に差がありすぎる。
 あまりに露骨で、不信感を与えないようにしようというトオノの努力は最初から必要とされなかったのだろうか。
 考えてみれば、随分と村人に振り回されているなとトオノは嘆息した。村に入ったら念の為に迷わないよう現在地の把握に努めようとしたのも束の間、宿屋の前で収穫作業をしている女達にエレミヤが声をかけたが最後彼女は囲われてしまい、自分は陰で囁かれているという状況が気になり、宿屋から移動できないという結果となっているからだ。
 調査結果は歓談よろしくやっているエレミヤと、空へ放ったエカルラート次第だろうか。
 遠巻きにされて終わりかと聞き込みの可能性について思索するトオノに男のひとりが躙り寄るような速度で近寄ってきた。目を合わせると逃げられそうでトオノは自然と待つ形となる。
「おたく……」
「ん?」
「……病気か?」
 トオノの手前三歩ほどの距離で男が問うた。指ではなく、視線で投げかけられ、好奇心ではないだろうことが伺えて、さてどう答えたものかとトオノが口を開き、
「あ、やっぱいい。いいよ」
 止められた。
 慌てて両手をいやいやとそれを左右に振る男は、一歩、二歩とさがる。
「あんたの顔色は悪くなさそうだし、見りゃ元気そうだしな。とても病気しているように見えないし、事故なんかだろ? そだろ?」
 な、そう言ってくれよ。そんな風に念を押されている言い回しにトオノの眉間に皺が寄った。
 それを察してかもうひとりもトオノに近づき、不審な振る舞いをする仲間の首を腕を回して引き寄せて、あははとトオノに笑ってみせる。
「すまんかったな。変な絡みかたしちまって。こいつ二回目だからって緊張してるらしくてさ。ただでさえ人見知りなのに挨拶しようだなんて無謀だったよな。本当に気を悪くさせちまったらごめんよ」
「二回目?」
「おう。冒険者さん達がたくさん来るのこれでこいつの中では二回目なんだよ。でも、そんなん冒険者さんには関係ないよな。ゆっくりしててくれよ。なんもないとこだけどそこが一番良いところなんだ」
 じゃ、と愛想笑いに男達がどこかへと引っ込んでいった。
 変な絡み方をされたなと息吐(つ)くトオノの元にエカルラートが戻ってくる。


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