クリエイティブRPG

語れぬ指:罪課さねの烙印

リアクション公開中!

語れぬ指:罪課さねの烙印
リアクション
First Prev  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last

…※…※…※…




 働き詰めですし、たまには旅行気分で遠出もよいものです。
 を動機に、村に趣き内情を調べるだけという簡易な依頼を引き受けた焔生 たまは到着してすぐに村人の姿を探した。
 目的地が集落と聞いてたまが一番に探すのは教会であった。
「赤の裁定者……と名乗ってもここまで異名が届いている自信はありませんね」
 クレリックという立場は神裁術式に長けた者が纏うローブ姿でわかる者には一目瞭然なのではあるが、辺境という一種隔離された環境で育った文化では身分証明に足るだろうか。
 神官の行動理念として教会に挨拶をというたまの姿勢に律儀な方だと彼女が声をかけた老婆はふたつ返事で快く案内を引き受けてくれた。
 そうである。
「教会が……あるのですね」
 大きな争いの後、人界に須らく広まった教え。どんなに遠くとも、どんなに辺境であっても、何も届かなかったわけではないと証明されたようでたまは老婆の後ろをついて歩きながら村の様子を視線だけで問うた。返ってくる答えは田舎の長閑な風景ばかりではあったけれど。
 たまの囁きに先を歩く老婆は一度頷いて「けれど残念なことにね」と前置き、振り返らずに続ける。
「あると言っても、あたしが生まれる前には閉鎖されたんだよ」
「閉鎖ですか?」
「教会自体はお祝いがあれば使うんだけどね。それ以外の日は扉は閉まったままさ」
 では現在は信仰対象がないということか? 何に祈らずして人々は平穏に過ごしているというのか。
 閉鎖という表現も珍しく、たまはまずはひとつを確かめるつもりで口を開いた。
「過去の方々はどのような教えに信奉を捧げていたのでしょうか?」
 世の教会が全て輝神教を掲げてはいないだろう。老婆が生まれるよりも前に閉じられたというのなら、地域に残る信仰に縋っていて、その威光が潰えたというのだろうか。
「さぁ、どうだったんだろうねぇ」
 口伝さえ尽きた。類推さえ難しいと老婆の返答は呆気ない。
 残さなかったのか、残されなかったのか。
 異教か? と単語が脳裏に過ぎて、邪教か? と訝しむ。
 であれば尚、質が悪い。
 たまの慎重になる思考は、
「さ、着いたよ」
 老婆の声によって途切れた。
 たまの希望通り、案内された道に面した教会は小さくて四角い建物だった。閉鎖されているとは言っていても時々使用しているだけ手入れが行き届いていて清潔感があった。
 輝神教とは全く違った造りの趣きに「輝神教ではない?」と疑惑が強くなる。信仰のシンボルも外観からでは手がかりもない。
「もうお昼ですよ」
 と老婆に通りすがりのひとが呼びかけ、たまは空を見上げる。視界の端では魔障壁が有無も言わせぬ存在感を放っていた。
 国が把握していない村に教会があればむしろ不審だと勘ぐってしまうのは性格か経験か。けれど、村人達は何を拠り所にこの様な魔障壁の側で平穏と暮らしているのだろうという疑問はどちらが由来でも同じように出てきたはずだ。
 民間レベルでの信仰の有無は加護にさほど影響はないとはいえ、魔族から心身を守るのはそう容易いことではない。
 この村での教会の意義とは、信仰とは、どの様なものだったのだろう。
 排斥された、一度は讃えられた神の存在とは。
 何を拠り所にこんな魔障壁の側で人々は暮らしていて、今も暮らしていけるのだろう。
 駐在する神官など存在せず、教会戒規により除名処分を受けた者が隠れ住んでいるという懸念は自然と払拭された。たまが預かり知らぬ新興宗教が独自発展しているようでもなく、自分が異教の神官だからと捕縛される心配も同時に消え去った。否、元より眼中にないのかも知れない。他の冒険者と等しく清々しいまでの村人からの歓迎を受けているからだ。
 若い娘の屋根無しを案じられ宿屋の案内もされたが、
「……食事は後ほどいただきましょう。なんでしたら食材と調理場をお借りできれば腕を振るいますが」と、修行中の武僧の身なのだし、甘えても良い状況でただ甘えるのは勿体なく「これも修行ですから」と宿泊は断った。



…※…※…※…




 シン・カイファ・ラウベンタールマルチェロ・グラッペリは森を抜けた先に村が見えてきて、ゆっくりと息を吐いた。
 ひと月はかかるだけあって、本当に遠かった。しかも街道を繋ぐだけの都市間の移動ではなく完全に辺境への遠征である。道は平坦なものばかりではなかった。
 この場からでも望める村の印象は想像していたのと同じものだった。
「わっかんねーなぁ」
 魔障壁が近い場所というヤバそうな場所に村が出来ている。
 なんだってそんなところに。とはシンだけの感想ではないだろう。土地欲しさでもここまで来るのに風景は寂しいものばかりで占有する利益は少なそうに感じられた。
 なのに人は集まり、村ができた。その理由が気にかかるし、調べて欲しいという依頼が発生するのはある意味頷ける。やり甲斐もありそうだ。
「歴史?」
 挨拶を交わし、質問をさせてほしいと畑仕事をしている途中に質問を投げかけるとひとりの男が俺が答えると片手振って、持つ鎌を地面に斜めに突き刺し、シンの側へと近寄り、改めてどんな質問かと顎をしゃくらせ冒険者を促した。
「できれば本とかで纏めていないかなと」
 たいして薄くもない『町政五十年記念○○村史』みたいな薄い本が作成されていればそちらを参考にするつもりだが、そんな都合のいいものはおいそれと転がってはいないだろう。
「本……ねぇ」
 顎を擦って男が考え込む。
 物資の貧弱さで期待は持てなかったが、現実も予測通りだった。流石に本や紙自体知らないという根本的な問題が発生しないだけ有り難く、同時にこの村に“歴史(記録)を残す”という機能が働いていないことを知った。目に見えるものがないのなら、口伝くらいだろうか。それは信用できるだろうか? 全員の話を聞いて統計を取るとかか?
 唐突に男が片手を挙げた。左右に軽く振って。
「おう、明日だもんな。城主様によろしく」
 男の声に道行くひとが会釈で返す。
「城主って城に住んでいる娘か? ……明日、何かあるのか?」
 ちょっとした話題を拾った。そんな感覚でシンが聞きけば、男性はよくぞ聞いてくれたと満面の笑みで頷く。
「明日は城主様の十六の誕生日さ」
「へえ?」
 娘という言葉の響きに若いのだろうなとは思ったが本当に若い。
「お? なんだ? お若いからって手ぇ出すなよ?」
「未成年には手は出さねーよ」
 男親みたいな事を言うんだなとシンは苦笑し、男の威嚇を軽くいなすのだった。



…※…




「うん。わざわざ金積んで、こんな平和な村……それも領主でない者が依頼するか?」
 石畳を歩きながらシンは両腕を組む。
 マルチェロとふたり目指すのは城。
 あの城はこの辺りを治めていたヤツラの居場所だったのだろう。そこに住んでいる娘も村人達から城主と呼ばれているのだから間違いなく、統治者の城のはずだ。
 なら、そこに今日までの痕跡が残っていると考えられる。
 何かひとつでもあればいい。金にはならないものなら……手つかずということも。これは自分の腕の見せ所だろう。スキルを活かせると改め直せば、うん、とシンは組んだ腕を解いた。
「城があるだけでしょぼい村だと思ったが、それなりの文明圏の暮らしぶりはちょいと不思議で引っかかってたんだ」
 あそこに見える城に行こうと結論出したシンにマルチェロも同意する。
「依頼書にあった依頼人の名前、なんていいましたか。この村になにか縁がある方だったりするのでしょうか」
 そんなマルチェロの疑問には道行く村人達に問うとすぐに答えが返ってきて、結局は城主と同じ名前であり関係性は不明という謎が深まる結果となった。
「なら素性を明かすべきでしょうに。報酬が十分なだけ『何の為に?』と引っかかってしまいます。もしかしてあそこに見える魔障壁が何らかの形で関連しているのでしょうか」
「おう。マルチェロもそう考えるか」
 もうひとつ、城と同じくらい目立つ魔障壁。あれを除外して考えていいのかシンは疑問がある。
「お城に一度立ち寄ってその娘さんとお話して、魔障壁に近づくことにあたって気をつけた方がいい事なんかを聞ければいいのですけど」
「……だな。調査のメインはオレが担当するとして、マルチェロはちょっとだけひいて周囲への警戒を頼む」
 振られた役割分担にマルチェロは了承に頷く。
 城へは予定通り立ち寄ってはみたものの人気はなく、いつまで経っても門が開く様子はなく、無許可で扉を開けるのもと思い、帰りにもう一度訪れることにして、ふたりはそのまま魔障壁へと向かう。
 が、数分もせずに、
「だめだよー」と、子供の声にふたりは止められた。振り返ると駆けつけてきたのか子供達が軽く息を切らしている。
「じょうしゅさまのおさんぽのじゃましちゃだめだよー」
 シンとマルチェロの背後、つまり彼らが行こうとした進路に回り込み、小さな体で彼らを阻んだ。
「散歩?」
「うん。おさんぽ。おしろのこっちからかべのあっちまでじょうしゅさまはおさんぽしてるのよ」
「おすがたはみたことないけどおさんぽしてるのよねー」「ねー」
 いつもは見れないそうだ。ただ城主の散歩は日課になっているらしく、この村での常識なのだろう。
「でもねー、あしたはおすがたみられるのよー!」
「十六の誕生日だっけ?」シンが水を傾けると子供達は、わっと湧き上がる。
「そうなのよー!」「あしたがたのしみー!」
「じょうしゅさまはじゅうろくのおたんじょうびとなつぎのときしかちょくせつおあいできないのー」
 そうして、子供達に囲まれたシンとマルチェロは永遠と話を聞かされることとなる。
 魔障壁へは誰も近づかないそうだ。
 経験という雑音がないだけ子供というのは自分の感性にはとても敏感で素直である。十にも満たないのなら尚更、大人から見れば胡散臭い異常な超常現象でも、疑うことなくすんなりと受け入れる寛容さがある。そんな子供等が大人に言い含められたからと約束事を絶対と守るだろうか? 世の中は不幸な事故に遭わない子供ばかりではない。子供の好奇心は大人は押さえつけられない。そんな子供等が近づくなと言うのだ。
 他の人間が気軽に踏み込めないと躊躇う場所。
 地質は井戸が枯れないだけ地下水を含み悪くはなさそうだが、魔障壁の影響は加味しよう。気候もどちらかと言えば恵まれていると判断できる。大きな災害は滅多にないそうだ。
 植物は育ちにくいらしい。灰を撒かねば食用植物の成長はほぼ見込めない。ではその灰はどこから調達しているのだろうかという疑問は、城から分けてもらえるのだという答えを得ることができた。灰は草花を焼いたものだという。
 食べ物も、食べ物を育てる手段も、城主が分けてくれる。食べ物だけではなく、火も与えられるもののひとつらしい。各家庭に火打ち石は常備されているが、必要な時は城に取りに行くそうだ。
 城主様が、この村を支えてくださっている。
 だから、魔障壁に近づかないで。
 子供達はそう訴えているのだ。
 魔障壁への散歩。それが城主の仕事であり、仕事が円滑に回るだけ村は平和を保ち、自分達はその恩恵に浴すことができるのだ。

 ――邪魔をさせない。

 その意志は、シンとマルチェロのふたりに考える材料を与える。

「ゔぁろさまはわたしたちのひかりなのよ」

 ヴァロ。
 それは依頼人と同じ名前。

First Prev  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last