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語れぬ指:罪課さねの烙印

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語れぬ指:罪課さねの烙印
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…※…※…※…




 針葉樹の森を抜けて村が見えてきた頃にジェノ・サリスは隣で並び歩くノーブルエクゥの背を「ご苦労さま」と労りに撫でた。
 じっとりと汗に濡れる毛並みに慣れない道に付合わせてしまったと後方を振り返る。
 かなりの長旅だった。道はどこまでも平坦とは言えず品種改良を重ね体力のあるノーブルエクゥでも音を上げるほどだった。
 ただ“険しい道でもない”のになと自分達より先にバテてしまったノーブルエクゥを眺め思う。
「けど、頼りにしている」
 行動は共に。お前の脚で探索範囲が決まるも同然だからしっかり働いてもらわなければとジェノは励ましの声をおくるのだ。
 村に着いたら少しだけ休憩しようとジェノはフィーリアス・ロードアルゼリアにも声をかけた。
 提案内容にフィーリアスは了承と頷く。彼女もノーブルエクゥの疲弊ぶりには心配を募らせていた。
「とても異常があるようには見えないのに」
 呟くフィーリアスにジェノは「そうだな」と頷いた。
「だが、なにもなくても調査してくれっていう依頼だからな」
 村に辿り着くまでいくつの地形を乗り越えてきただろう。この苦労が報われるだけの価値があると依頼は貼り出され報酬が確約されている。それは、行って帰ってくるだけの手抜きもしやすいお使いにも聞こえた。でもそれでは難易度と金額とが釣り合わない。
「異常がなければ、単純にお宝さがしかしら?」
 村という言葉に隠された真相は何かと想像するフィーリアス。
「その可能性もひっくるめて、まずは行動してからになるだろうな」
 ともあれ、ジェノもフィーリアスも村に着いたばかりだった。



…※…




 充分な休息を取って回復たノーブルエクゥに騎乗したジェノは、フィーリアスより先行する形で村周辺の調査に出発する。
 じっくり事を進めても一日か二日で調査が済んでしまうような小さな村をぐるりと周るように時間をかけて巡り、眺め見遣った。
 村一番の特徴は魔障壁が近いということ。とは言え、住人は隣り合う魔界の脅威に怯える素振りさえもなく、温和に普通の生活を送っているようだった。
 辛うじて、という前提はあるものの人が生きていく環境に基本的な問題もあるようには見えない。表面化されていないだけという可能性こそ忘れるつもりはないけれど、長閑な田舎の風景があまりにも平和で、村と城との間を走って往復するというだけの遊びに夢中になっている子供達の姿にジェノは手綱を引き、ノーブルエクゥに制止を促した。
 きゃぁきゃぁと風に乗って聞こえてくる笑い声に憂いの色は一切と無い。
「どうしたの?」
 暫くして、追いついてきたフィーリアスがゴーグルを外しながらその場に留まっていたジェノに声をかけてくる。
 何か発見したのだろうか。
「特に無さそうだ」
 ノーブルエクゥの上で村を一望するジェノが簡潔に答える。
「井戸や畑、建物に……森。全部回ったってわけじゃないが現段階じゃ、異変も異常も感じられない。こういう土地柄だから生き物は少ないだろうし、どこかに変なのが隠れているっていうわけでもないし」
 日常と非日常の違いに敏感であれど、だからこそ、
「この時期に調査の依頼があるっていうのも何かありそうな気がするんだがな」
 うまく状況が飲み込めなかった。単純に他の冒険者が簡単なお仕事と評するだけの内容だったのかもしれない。気負っている分だけ肩透かしをくらっている気分だ。
「そっちはどうだ?」
 不可解と嘆息するジェノに成果を問われて、フィーリアスも首を横に振った。
「強力な魔法や魔導具の存在は確認できず。ってところね」
 指にひっかけたゴーグルを軽く揺らし、両肩を竦める。これを使って魔力の流れを観測し、魔法や設置された魔道具等が発見できればと目を凝らし続けたが何かひとつ報告もできない。
 価値あるもの。と目標も明確にして調査に臨んでいるが引っかかるものが無い。
「“村”は無いのよ……、お城はどうかしら」とゴーグルを翳してフィーリアスは呟くが、目に見える反応が城からなのか魔障壁からなのか判断がしにくい。
 首を傾げる彼女が零す不可解さも汲んで、急ぐことは良くはないなと判断したジェノはノーブルエクゥより降りた。移動を開始するジェノにつられるようにフィーリアスも歩きだす。



…※…




「井戸に降りてみるわ!」
 村の一画に屋根付きの井戸を発見しフィーリアスが名乗り出る。
 移動手段にと用意してきたホライゾンホバーボードをいそいそと準備する彼女に、ジェノは石造りの井戸の縁を軽く叩いた。
「狭いぞ?」
 井戸の直径とボードの長さが。指摘にフィーリアスはわかっていると返し、ボードの先に片手をかけた。
「ちょっと無理やりだけど行けないことはないのよ」
 手が滑って落下するなんて無様はさらさないからとジェノに「行ってくるわ」と笑い、慎重に井戸の底へと降りていくフィーリアスは大きく緑色の目を見開いた。
 井戸の中は光が遮られて真っ暗な為、鋭い聴覚と視覚に頼る形となったが、確かにフィーリアスは見つけること叶った。
 見間違いでは無いかと慌てて壁に手を伸ばす。
 底に辿り着く前に、人ひとり通るのがやっとの小さな扉が在った。
 フィーリアスが彼の名前を叫ぶ前に、
「上がってこい」
 ジェノが引き揚げるよう促す。これを前にしてと無言になるフィーリアスに早くと彼は告げた。
「村人がこっちを見ている」
 聞いて、フィーリアスは即座と上昇する。井戸に入り込むなんて、どんな風に見られるか理解しているだけ、ジェノは咄嗟にノーブルエクゥと自分の体を使って、井戸から出てくるフィーリアスの姿を隠すのだ。
 村人が数人かたまってこちらを遠巻きに眺め、ひそひそと言葉を交わしている。心象を悪くしたかと危惧を抱くなか、隣のひとに声をかけて男が単身ジェノへと近づいてきた。
「なぁ」との第一声にジェノは身構え、人差し指を向けてきた男に身構えるが、
「それ、なんて動物なんだ?」
 ノーブルエクゥについての問いかけに、ジェノとフィーリアスは互いに見合った。



…※…※…※…




「泊まれる所があるのは助かります」
 道に面した宿屋の前で広げた布の上で収穫した豆類の選別作業をしている女性達を眺めながら、勧められるがままに椅子に座って叉沙羅儀 ユウは、もてなしに出された木製カップを礼と共に受け取った。花油が溶け込んでいるのかカップに満たされている水からはほんのりと優しい香りがする。
「そうかい。それはよかった」
 カップをテーブルの上に置いてユウはテーブルの向かい側のベンチに座った女性に頷く。
「それに話を聞いて下さるだけでもよかったです」
 こういう小さなコミュニティは、住人でもない余所者に対し厳しい態度を取ることも少なくない。村を守る為には仕方がない選択なのだろうし、それを責めるのも違うだろう。
 だからではないが「こんにちは」という道ですれ違うひとからの挨拶から始まって、無償の寝台の提供までされる歓迎ぶりに、ユウは出された水に口を付ける気分にはなれなかった。両手で包んで、爪先だけの浅い組み手。
「村の調査だったっけ。正式な依頼なんだって? って言われてもピンと来なくてさ。あたしらの村を調べて欲しいって人がいるんだね?」
「はい」と、ユウは断言しつつも、教会の掲示板に貼られた国からの要請でも無い依頼書に記載されていたのは、領主や貴族でもなく、名前を聞かない人物だと言うことに声に出さないだけ疑問を抱いていた。報酬金額に富豪か商人かとも考えられるが、知名度が無い時点でそれは候補から外される。
「依頼の事もありますが、個人的にも魔障壁が近いというのが気になってしまいまして、何か困ったことがあればお力になりたく参りました」
 クレリックとしての使命もあると告げるユウに女は驚き、そして、笑った。
「こんな場所だからね、そう思うだろうねえ。それになんて優しい事を言ってくれるだよ。こんな娘さんを遣わしてくれるだなんて、その依頼を出した方はどんなお人かねぇ」
「そうですね。お名前だけでしたら『ヴァロ』という方でしたよ」
 姓か名かも不明だったが。聞き覚えはというユウの問に、女は目をしばたいた。
「ヴァロ? あらま、セシス様と同じ名前じゃないか」
「セシス様?」
 ユウに女が遠くの城を指差して答える。
「セシス・ヴァロ様だよ」
 それは、城にただひとり住んでいる娘の名前。
「おひとりで住んでいるですか?」
 聞き返すユウに女は片手をぱたぱたと前後に振った。
「ひとりって言っても、そりゃ城勤めの人間はいるよ。けど、城主の血筋は今もセシス様おひとりだね」
 そうなんですか、と。ユウは城を眺め口を噤む。一瞬だけ訪れかけた沈黙は、女が両手を叩いたことであっさりと去っていった。
「けどさ、あんた達は良い時期に来たよ。明日はセシス様は十六歳を迎えて、正当にヴァロの名を継ぐ代替わりの日でもあるんだ。お祝いはしないけど、村に人が多くて賑やかでいいね」
「お祝い、しないんですか?」
「しないよ。おめでたい事だけど、あたしらが騒いでセシス様を煩わせるわけにはいかないからね」
 普段と変わらない日を過ごし、心の中で祝うのだと女は説明した。
 秘める嬉しさが、冒険者達へのこの好待遇なのだろうか。
「セシス様はね、魔物や魔獣からあたしらを守ってくれている方なんだ」
 それこそ子供達は魔物の存在を知らないほどに。
 だから少しでも負担にならないように慎ましやかに日々を送るだけ。けれど、今日は村に多くの冒険者達が訪れている。誰の依頼かはわからないが、女は「面白い偶然だね」とユウを見てただ笑う。
「セシス様は人が好きでいらっしゃるから。だから他所から来た冒険者でもあたしらは大歓迎なんだよ」
 さて、と。会話を区切った女は立ち上がった。
「夕食を作らないとね」
 人数が人数だから早い時間から仕込みをしなければ。
「あの私も何かお手伝いできることはありますか? お話を聞かせていただいたお返しもしたいですし……と言っても怪我人の治療くらいですけど」
 一見して医療体制など整っているようにも感じられず、治療を必要としている人は居ないかと同じく席を立つユウに女は考えるように首を傾げた。
 余計なお世話かもしれない。情報欲しさというより困っている相手を放ってはおけない性分なのだ。
「以外にも皆丈夫でね。病気しないし、怪我の治りも早いもんで手当が必要って人間はいないけど……そうだねぇ。クレリックなら薬草とか詳しいだろ? ちょっと相談したいんだけどさ」
 と女は一度宿に入って、程なくしてユウの前に籠を抱えて戻ってきた。
 テーブルに置かれた籠には保存の為に干されたヨモギ、ハマビシ、そしてヒヨス。
「……これ、毒性が強いんですよ」順繰りに品種を呟くユウは弾ける勢いで女を見る。しかも籠の中の大半をヒヨスが占めていて、常用されているのは明らかだった。
「そうなんだよ。ちょっと刺激が強くてね」
 麻酔効果のある取り扱いに注意が必要な薬草を“ちょっと刺激が強くて”と軽く流されて、真面目な話ですよとユウは無言になった。
「だから相談なんだよ。使える人間が死んでしまってからどうしても適当になってしまってね。教えて貰えないかね?」
 薬草調合の手ほどきをしてもらいたいと請われてユウは二つ返事で了承する。願い出たのは自分だし、常用しているのなら多く自生もしているのだろう。強い毒性は使用量さえ守ればこの上ない良薬となるのは常識で、限られた選択肢の中、ユウは村人に有益な手段を齎すのだった。

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