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語れぬ指:罪課さねの烙印

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語れぬ指:罪課さねの烙印
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…※…※…※…




「ん~? 何でこんな平和な村の調査を依頼したんかねぇ?」
 村に到着してから少しばかり経つが、何度周囲を見回しても過去現在魔物に襲われた形跡が全く見られない村の様子に朝霧 垂は緩く息を吐いた。
 天気が良くて、風が穏やかに吹く。一見して裕福とは言い難いなりにも村人の生活は安定している様子で、子供の笑い声が幸せそうだった。これで歩いている地面に膝丈の草小花が茂り咲いていたのなら長閑な田舎の風景そのものだっただろう。
「“村”として気になる建物と言えば城くらいなものだけど」
 栄養不足で枯れた草を何となくの心境で避けて歩く垂は視線をそちらへと移せば、遠くからでも人影の集団を確認できた。
「その城には調査に向かう人が居るっぽいしなぁ」
 「こんにちは」と自分に向けて投げかけられたひと声に、一度振り返って垂は挨拶を返し、止めていた足を再び動かした。
 散歩。散策。ただ歩く。依頼の為、調査という名目で訪れた村は城くらいしか調べる所が無いのではと考え至ってしまうほどに異常が無い。
 パッと見だが村に魔獣や魔物が出現した際に駆けつける警備の存在も気配も見当たらなかった。もしかしたら緊急時には城から出動する部隊があるのかもしれないが、明らかに目に見える脅威を前にして対策している様子が欠片も感じさせないのが拭いきれない違和感として、冒険者たる垂の直感の隅を突いている。どうしてこうも平和なのだろう。平和でいられるのだろう。
 あとは何を探ろうかと思索する垂は「考えてみれば魔障壁を間近で見られる機会って初めてかも?」と気づく。歩き続けるこの探索が簡略的なマッピング作業を兼ねているだけ、どれだけ魔障壁と村が近いのか気になり、村の外周をゆっくりと回り込んで魔障壁を目的地に目指そうとして、
「――ッ!」
 垂の手は反射的に拳を握った。
 半歩分利き足を後方にさげた臨戦態勢で、次の瞬間には「ふー」と、肺に留めていた息を吐きだす。
「なんだ、牛かよ」
 一瞬、魔物かと思った。
 こんな地面剥き出しの石ころくらいしか転がってない場所で放牧かと、牛も羊も鶏ものんきに放し飼いにされているのを見て垂は両肩を竦めた。
「畑近いんじゃねぇの? 草とか生えてねぇんだから、作物が食われたりとか……」
 なんだかんだで田舎の情景を保つ場面に拍子抜けする。平穏であると事前情報があるだけに緊張させるなと緩みかけた垂の頬が、今度は引きつった。
 近づくことで、魔物と見間違えた理由を知ったのだ。
「なんだよ、これ」
 呻くように声が漏れる。
 それらは確かに牛であり、羊であり、鶏であった。
 ただそれらの形状が健全ではなく、二足あるいは四足と揃わぬ中立って動いているのが不思議に思えるくらいの、ひとつが多かったり、ひとつが足りなかったり、中には寝そべるしか他無い奇形だった。奇形ばかりだった。
 記憶にあるような、健全とはあまりにもかけ離れている形状ばかりで、なんらかの異常の起因よる直視するのも憚れる成長障害の見本市のようだ。
 よくこんな形で生きていられる!
 知識があれば詳細を把握することもできただろうが、一歩、垂はさがっただけに留める。
 動物達を刺激することは避けて、奇形の要因が魔障壁の影響か、閉塞している村という環境下が理由なのか、垂は結論を急がず、広げたメモに自分が見たままの情報を残した。
 怪しい建造物や結界的な儀式の跡も発見には至らず、最初に遭遇した奇形動物について時間が許す限り調べ尽くす形となった。
 結果、ひよこ一匹まで正常と呼べる個体が存在しないことが判明する。



…※…




「いんや、問題ないよ」
 宿屋で夕食の席、疑問を投げかけた垂に冒険者様のご来訪と酒飲みの口実を見つけて飲み遊びにきた村の男のひとりが酒の入った杯を片手に大きく頷いた。
「問題あったらすぐに死ぬし、俺達だって無事じゃすまねぇよ」
 あっけらかんと答えられて垂はもおてなしにと出された温められたミルクを見下ろす。
 動物を飼うという恩恵を村人達は受けているのだ。同時に魔障壁の影響ならこの村で生活している皆が受けているだろう。
「そりゃ、なんだ? おたくの言う四本脚の牛なら昔には居たかもしれないけど、俺は見たこと無いからなー。奇形だとか言われてもピンとこねえよ」
 あの光景が普通なのだと、通常なのだと、むしろ垂がおかしなことを言っているという顔をされて、ちょっとだけ「そうなのか?」と納得しかけそうになる。
 この村の動物達は言うなれば祖先から代々引き継がれてきた遺産であり、資産だ。
 それならば、不審点は生まれようもの。家畜が新しい血も入らない系譜というのなら、村人達はどうなのだろう?
 同じ物を食べ、同じ環境で育ち、同じ近しい交配で繁栄しているというのに、この違いはどうしてだ?
「あ、そうだ」と新たに生まれた疑問を横に退かして、垂は男の顔を見る。
「ここに来たのは冒険者として依頼できたのは知ってるんだよな?」
「おおそうだ。村中の皆が知っているよ。あっちこっちで外の人間を見るなんて生まれて初めての経験さ」
「そうか。なら『ヴァロ』って名前に聞き覚えは? 全員じゃないがそんな名前ここじゃ聞かなくて」
 垂が話題として男に振ったのは“この村の調査を依頼した依頼主の名前”であった。
「ゔぁーろー? なんだよ、城主様の名前じゃないか」
「城主?」
「んな、しらばっくれなくていいぜ。どうせ誰かから城の話は聞いているだろ。城に住んでいる城主様の名前だよ。ヴァロ。セシス・ヴァロ様だ」
 でもなー、と男は続ける。
「セシス様は村からお出にならない方だから……」



…※…※…※…




「重くないかい?」
 初老を迎えようとしている年代の男の声に世良 潤也は「大丈夫」とはきはきとした声で答えた。
「これくらい、どうってことないさ。俺、こう見えて結構力自慢なんだ」
 一抱え程のぱんぱんに中身が詰まった麻の袋を三段積みで運搬する潤也は、隣りを歩く男に首を傾げる。
 小柄でかわいい外見ながら潤也は 自分の体重分くらいはまず持てるし、これくらいは平気だった。
「というかさ、重いとか重くないとか、ちょっと不思議な重さだよコレ」
 畑へと続く細道をふたりで進みながら問いかける潤也に男は「そうかい?」と質問に質問で返してから、同じく首を傾げそれから「うんうん」とひとり納得に頷いた。
「そうだよねぇ。冒険者は畑仕事とは無縁そうだから、そう感じるんだねぇ」
 にこにこと労働に対する潤也の誠実な姿勢に若いのに感心と男は笑って、畑に辿り着いて「袋はこっちに置くんだよ」と自分は両脇に抱えた麻の袋をすとんと落とした。ばふりとした反動は中身が詰まっている証拠。
 これで全部と畑の隅に山積みになった袋を眺めてから潤也は男を見る。
「で、次は何するんだ?」
「おや、運ぶだけでなくて次も手伝ってくれるのかな?」
「任せろ」
 畑仕事も薪割りもなんでもござれ。
 集落を一周りして困っている人がいないか、いれば手伝いに力を貸そうと教会からの依頼である村の調査だからと聞き込みだけで終わらせずお礼の代わりに役に立つことを示したい。
 自信満々にアピールする潤也に、彼の歳の頃には働き手として労働に従事ていた男は過去の自分を思い出しながら頷く。
「じゃぁ、灰撒きもやってもらおうかな」
「灰を撒くのか?」
 山積みからひとつを取り、男は口を開けた袋を潤也に渡す。
「ほれ、これを使って、うすーく畑に撒いてくれ」
 差し出された木椀を受け取り、袋の中身をすくってみる。椀を軽く揺すると燃え切れず残った残骸が灰の表面に浮かび上がるように姿を表す。自分が運んだのは草木灰だった。
 なぁ、と潤也は男を呼んだ。
「あれ全部灰なのか?」
 そこで山積みになっている袋の全ての中身が灰なのかと聞けば、
「そうだよ? 土が悪くなるとわかっててもこれがなきゃ豆が育たなくてね。芽を出す前、出した後、実をつけたらって何回も撒くから、あれでも全然足りないんだよ」
 不思議なことを聞くんだなという顔で答えを返された。
 潤也は畑を見て、村の家屋を見て、通ってきた森を眺める。
 灰は、燃やさねば生成されない。
「今日も晴れてますね」
「風もないから助かるよ」
 灰が飛ばなくて済むと世間話を交わすひとの声に男が答えるのを聞き、潤也は空を見上げる。上空には潤也のパートナーであるアリーチェ・ビブリオテカリオの姿があった。



…※…




「へぇ……こうやって見ると、魔障壁がかなり近いのね」
 天高く聳え立つ世界を分かつ壁。
 エヴィアンの翼では到達できぬ高さまで飛び翔(あが)るアリーチェは高高度の天空を流れる風の冷たさに身を委ね、程なくして降下する。
 着地して服の乱れを直し、ぱさつく髪に手櫛を通した。
「魔障壁の向こうは魔族の領域だっていうのに……不思議なくらい平和な村ね」
 冒険者の来訪に賑わっているというのもあるのだろうが、あちらこちらから笑い声が絶えず、妙な気持ちになりそうだった。
 文面だけで想像するものでないのかもしれない。少女が関わっていた事柄を無意識に引き合いにだして比べてしまっているのだろうか?
 豊かさと安全を保証された街とたいして変わらない長閑な趣きにアリーチェは翼を折り畳む。
「潤也」
「おう。待ってろ、もう少しで終わるから」
「精がでるわね」
 単純労働なだけ技術は必要とせず難易度は易く飛び込み参加でも苦もなくこなせる。体を動かすだけで終了を向かえる作業の進歩にアリーチェはふーと息を吐いた。
「翔んでみたけど、特にこれといったものはなかったわよ」
 長時間ではないけれど、数度の羽ばたきでわかったのは村全体を何かが包んでいたりして平和に見えているわけでもないし、地表はどこの村とあまり変わらない。
「おつかれさま。なら、目立つのは城と魔障壁くらいになるな」
 まず見るからに変な建物はなかった。
 近隣と交流のない地域は問題を抱えやすいが、果たしてこの村はどうだろう。調査をしてくれと頼まれ、仕事と請け負う潤也は村人の生活に手伝いという形で混ざり、直に触れてみたがたったの数時間は短すぎた。
「いい人なんだよな」
 少し離れたところで畑に灰を撒く男を視界に入れて、単純な感想を呟く。潤也の囁きにアリーチェは腰に両手を添えた。
「もし本当に“いい人(そうなら)”、この村は間違いなく平和なんでしょうね」
 いい人だと印象を抱かせるには、当たり障りなく心配りができる人でないと難しいだろう。
 じっと潤也を見つめるアリーチェは、ふ、と視線を自分の足元に落とした。
 乾いた土地。枯れている土。豊かさとは縁遠い世界の色。それを見下ろして、アリーチェは「潤也」と彼の名前を呼ぶ。
 呼ばれた潤也は彼女を見て、青い瞳を認める。
「潤也。この村の人達は“安全”なのね」
 魔障壁があんなにも間近にあるというのに。
 アリーチェの消え入りそうな声に潤也はそうだなと頷いた。踵を返し、少年は男の元へと戻る。
 空になった袋と木椀を返しながら、
「なあ、こんな魔障壁が近い所なのに、みんな魔族や魔物は怖くないのか?」
 一番に思うことを問いかけに変えた。
「怖くわないかな」
 と、答えが返ってくる。
「だって、城主様が守ってくださってるからな」
 絶大な信頼を寄せているとわかる満面の笑顔と共に。

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